<明日はある…か?>増税を問う/5止 「福祉」で遠のく住宅購入

 「ボーナス払いはやめた方がいいよ」。神奈川県藤沢市の谷山美津子さん(55)=仮名=は、結婚2年目で千葉県市原市にマイホーム購入を決めた長男の一也さん(26)=同=夫婦に、住宅ローンの返済方法はよく考えて決めた方がいい、とアドバイスしてきた。「景気次第でボーナスがなくなることもあるご時世。返済がつまずいたら大変なことになる」
 一也さんは大手メーカーの子会社に勤め、手取り給料は約21万円。当初、34年ローンで支払いを月4万9000円に抑え、年2回のボーナス月は8万円加算する考えだった。だが、会社の業績が悪化しボーナスがなくなれば、月10万円以下で家計をやりくりせざるを得ない。子供が生まれれば出費は増える。銀行から「ボーナス払いなし」を薦められ、一也さん夫婦はボーナス加算ゼロ、変動金利で月6万円の35年ローンを組むことにした。
 美津子さんは親世代と自分、子供世代の格差を痛感している。美津子さんの両親は昭和40年代に藤沢市内で100坪(約330平方メートル)の土地と新築住宅を約500万円で購入した。給料は右肩上がりの時代。物価上昇も続いたのでローン負担は年々軽くなり、10年足らずで完済した。一方、美津子さんは1986年、25年ローンで3100万円の中古住宅を買った。高校教諭の夫の給料は安定していたが負担は軽くなかった。昨年、夫が亡くなり、保険金でようやく完済した。
 一也さん世代のいまは、給料は上がらず物価が下がるデフレでローン負担は相対的に重くなる。「親の世代に比べ、自分たちも返済は大変だったが、息子はもっと厳しい」と美津子さん。少子高齢化が進み、国の借金も膨らむ中、「これから社会を支える息子たちの負担は重い。消費税だっていくら上がるか分かりゃしない」。格付け会社ムーディーズは、消費税が10%になれば年収600万円世帯で家計負担が年14万円程度増え、住宅ローンの貸し倒れが1割増加すると試算する。
 大手メーカー勤務の飯塚大介さん(35)=同=は今年、4650万円で板橋区内の新築マンションを購入した。結婚3年目の妻(35)、母(73)と暮らす。夏の参院選を前に菅直人首相が「消費税10%」を唐突に持ち出した時、ふと気になった。頭金ゼロの35年ローンで管理費などを合わせて月12万5000円、ボーナス月は26万円。年収800万円だが返済は楽ではない。建物部分にかかった消費税は約100万円だったが、税率が10%になれば約200万円になる。
 まだ子供ができない飯塚さん夫婦は老後の不安も大きい。「消費税が増税されていれば、このマンションは買えなかっただろうし、生活負担も重くなる。でも、社会保障の充実のためには、増税はやむを得ないと思う」
 ニッセイ基礎研究所の篠原二三夫氏は「住宅のような金額の大きな取引は、増税前に大規模な駆け込み需要が起きるが、増税後、より大きな反動減が生じる。住宅購入が急減すれば、関連産業が多いだけに景気への打撃は大きい」と指摘。「2けた税率の国の多くは住宅に軽減税率、非課税などの配慮をしている。税減免の準備には時間がかかるので、議論は早期に始める必要がある」と提言する。=おわり(田畑悦郎、永井大介、山田泰蔵、池田知広、伊藤絵理子が担当しました)
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