<東北を興せ>民泊サイトで世界一に

◎UIJターンの挑戦者たち(4)百戦錬磨社長 上山康博さん

<50歳で起業>
「そろそろホームページの写真変えないとな。季節に合わんやろ」。仙台市青葉区にあるITベンチャー百戦錬磨のオフィスに、上山康博(54)の声が響く。20代が中心の社内はまるで大学の研究室のようだ。
大阪生まれの大阪育ち。「趣味の音楽に生きた」という30代までは、関西でラジオ番組をつくるなどメディア関係の仕事をした。
40代で迎えた2000年代はIT勃興期。携帯電話向けゲーム事業のKLab(東京)でソフトウエア開発のイロハを学び、取締役事業本部長になった。転職した楽天トラベル(同)では執行役員まで務めた。
百戦錬磨の設立は12年。ちょうど50歳だった。
「おっさんベンチャーですよ」と笑うが、運営する民泊仲介サイト「とまりーな」は高く注目されている。紹介している宿泊場所は農家や漁師の家庭だ。

<紅葉に感動>
仙台で起業したのは幾つか理由がある。楽天トラベルの執行役員時代、JR東日本を担当しており、東北に知己が多かった。東京では常にウェブ開発者が枯渇気味で、東北に人材を求めようとした面もある。
何よりも東北の美しさに心を動かされた。岩手八幡平で見た紅葉が心に刻まれている。
「京都もきれいだけれど、あれは人工的。手あかがついてない美しさに感動した」。東北の良さを広めたいという思いがあった。
起業して当てが外れたところもある。IT人材の首都圏流出は思った以上に進んでいた。民泊をめぐる規制改革が進行中で、国との折衝のため東京にいる必要もある。月の半分は仙台にいない。
本拠地を東北に求めたことへの後悔はない。「課題はいっぱいあった方がやる気が出る。やらんよりやった方がいい。困ったときは正面突破」と豪快に語る。

<空白解消を>
とまりーなの登録宿泊先は現在約1000件。その半数を東北が占める。だからこそ、東北だけ外国人観光客が伸び悩んでいる現状を強く憂う。
「日本中がインバウンド(訪日外国人観光客)の果実を享受しているのに、東北は空白地帯。もったいなさ過ぎる」
東京電力福島第1原発事故をどう説明するかが重要だという。「いつまでも腫れ物に触るように扱うから、外から来る人も不安に思ってしまう」。むしろ積極的に現状を情報発信した方がいいと考えている。
百戦錬磨を起業したとき、世界一の旅行会社にすると決めた。「どんだけほら吹くねんって思うでしょ。でも、それくらいやりたい」
多くの人が旅に出たくなるような仕掛けを作り、旅行需要と交流人口を増やしていく。会社の理念である「明確すぎる移動目的を創り出す」ため、アクセルを踏み続ける。(敬称略)

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