東北大の研究グループが秋田県仙北市の玉川温泉で温泉水から水素燃料を取り出す実験に成功した。強酸性の天然温泉とアルミニウムを化学反応させ、水素を生成する効率的な手法を確立した。従来の生成工程で発生する二酸化炭素(CO2)を出さず、温室効果ガスの排出抑制につながるとして、研究グループは実用化に向けた試験を新年度に始める。温泉地の多い東北の新たな産業創出や、温泉資源の観光以外の有効な活用策として注目されそうだ。
玉川温泉は水素イオン指数(pH)が1程度と、国内で最も酸性度が高いとされる。源泉「大噴(おおぶけ)」からの単一湧出量も毎分約9000リットルと日本一。温泉水は約1キロ下流にある国の施設で中和処理されている。
東北大大学院環境科学研究科の土屋範芳教授(地球工学)らの研究グループは2017年11月、アルミを入れた容器に毎分6リットルの温泉水を3時間流し、水素20リットルを生成する実験をした。約50度と低い水温で化学反応することを確かめた。一般的な水素の製造法で出るCO2は発生しない。
研究グループは小規模な水素発電による温泉地での電力自給、水素自動車への供給を想定する。18年度、仙台市の電線製造会社から出たアルミの端材をリサイクルし、水素生産の効率を上げる試験に取り組む。
国は東京電力福島第1原発事故後のCO2排出量削減の切り札として水素社会の実現を掲げる。温泉地の多い東北に製造施設を設ければ、温泉水を使った水素の安定供給が可能になる。
土屋教授は「『毒水(どくみず)』と言われるほど強酸性の温泉を湯治以外に有効利用したい。自給自足型のエネルギーシステムを構築し、防災にも役立てたい」と話す。
研究グループによると、酸ケ湯温泉(青森市)や須川温泉(一関市)、草津温泉(群馬県)など強酸性の温泉なら可能とみられる。
環境科学研究科は17年8月に仙北市と連携協定を結んだ。同12月26日に東北大青葉山キャンパス(仙台市)を視察した仙北市の門脇光浩市長は「経済活動に早期に移行できるよう、新年度予算に関連費を盛り込む方向で検討したい」と述べた。
[水素燃料]消費時にCO2を出さず、温暖化対策への効果が期待される。現在主流の天然ガスや石油から水素を取り出す製造法はCO2を排出する。中性の水とアルミを化学反応させる生成方法では、水を250度以上に熱する必要がある。政府は国内の水素燃料の流通量を現在の年約200トンから2030年に30万トンへ拡大する構想を示している。