<東日本大震災>暮らしどうなる? 福島米、「風評」で販売不振

◇セシウム検出なくても敬遠 精米業者は移転も検討
 全国有数の米どころ、福島県で生産された米が売れず、農家や精米業者らが苦しんでいる。東京電力福島第1原発事故の影響で「福島産」が敬遠されているためで、県の検査で「放射性セシウムは検出せず」との結果が出た市町村の米さえ売れない。農家などは「冷静に判断してほしい」と呼びかけるが、県外への移転を検討する精米業者も出ている。【小島正美】
 フラダンスで町を活気づけた映画「フラガール」の舞台でも知られる旧炭鉱の町、いわき市。事故を起こした福島第1原発からは約30~50キロ離れている。
 同市の菊地祐実子さんは、殺虫作用のある木酢液を使い農薬の使用を抑えた米を地元の農家に生産委託し、販売してきた。価格は5キロで2800~2950円とやや高めだが、味がよく県内外から評判だった。だが「原発事故後、注文が半分に減った」という。
 扱っている玄米の放射性セシウムの含有量を外部の検査機関で測定してもらうと、1キロ当たり2ベクレル。暫定規制値の500ベクレルはもちろん、4月から適用される予定の新規制値案100ベクレルも大きく下回る。規制値に照らせば問題ないが、「福島産というだけでキャンセルが止まらない」状況だ。
 同市内に精米工場をもつ米穀卸販売業「相馬屋」の佐藤守利(もりとし)社長(54)は「工場を他県に移した方がよいか、検討を始めた」と深刻な表情で話す。
 同社は地元産米のほか、全国各地から米を取り寄せてブレンドし、全国の小売店に卸している。昨夏から売れ行きが気になり、関西や首都圏の百貨店などを訪ねた。福島県産米は店頭に置かれてはいたが、ほとんど売れない。同じ時期、同社の工場で精米した新潟県産米を買った東京の消費者から「袋の表示をよく見たら、『福島で精米』とあった。だまされた!」とのクレームが届き衝撃を受けた。
 「東京や関西から見れば、福島全体が汚染されているように映るのだろう」と佐藤社長。約20人の社員を抱えるが、「このままでは会社が倒産してしまう。風評がない他県に工場を移転するしかないか……」と悩む。原発事故後は地元の消費者でさえ、北海道や九州産の米を大量に買い込む姿を見た。「地元の人の行動も風評を生む原因になっているのかもしれない」と複雑な思いだ。
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 福島県の昨年の米の生産量は35万トンで、北海道、新潟県などに続き全国7位の生産規模だ。このまま売れない状況が続けば影響は大きいが、本当に汚染は激しいのだろうか。
 福島県は昨年11月16日~今年2月3日、県内の農家2万3240戸を対象に玄米の放射性セシウム含有量を調べた。「検出せず」(検出限界は測定機器で異なり最高50ベクレル)は1万9580戸で全体の84・3%。「1キロ当たり100ベクレル以下」は3077戸(13・2%)で、全体の97・5%が新規制値案の100ベクレル以下だった。
 一方、暫定規制値(500ベクレル)を超えたのは38戸(0・2%)で、福島、伊達、二本松3市の一部地区に集中した。県は100ベクレルを超えた地区の米の出荷を今後、見合わせる方針だ。
 同県内の47米穀卸売業者でつくる「福島県米穀肥料協同組合」(郡山市)でも、これまで約3000点を測定したが、99%が検出限界の1キロ当たり25ベクレル以下だった。同組合は「検出限界を超えたら出荷しない」と取り決めている。福島県は秋から、出荷米の全袋(1袋30キロ)を検査する方針だが、同組合は「現状でも福島産米のほとんどは100ベクレル以下だ。消費者にはその事実を知ってほしい」と訴える。
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 ただ、消費者の不安を消すのは簡単ではない。「風評被害」(光文社)の著書もある関谷直也・東洋大社会学部准教授(社会心理学)は「いくら数値が低くても、信じない消費者もいる。より安全な他県産の米を買いたいという消費者心理も理解できる」と話す。
 有機栽培米や野菜などを直販する「ジェイラップ」(福島県須賀川市)は「消費者の信頼を得るには正確な数値を公表して販売するしかない」とし、チェルノブイリ原発事故で影響を受けたウクライナと同じ基準(1キロ当たり20ベクレル)を独自に設け、基準以上は出荷していない。
 これまで約340点を検査したが、放射性セシウムは1キロ当たり平均3ベクレル。検査は玄米で行うため、白米で食べればセシウムはさらに約6割減る。そんな活動に賛同し「買って応援したい」という人も出てきてはいるが、結局、原発事故前は約6万世帯だった顧客が、3万世帯を切るまで減ってしまった。
 県の対応にも不満が高い。佐藤雄平知事は昨年10月12日、収穫前と収穫後の米の調査で暫定規制値を超える例がないとし、「安全宣言」を出した。だが1カ月後の11月16日、福島市内の一部の水田から暫定規制値を超える米が見つかり、大混乱になった。関谷准教授は「風評の解消に特効薬はない。消費者と生産者の間を取り持つ行政が正確な情報を根気よく伝え続けるしかない」と強調する。

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