<潮流発電>海洋エネ 無限の可能性

海洋エネルギー発電には、塩釜市で実証実験が始まる「潮流」のほか、黒潮などの海流を使う「海流」、海の表層と深層の温度差を利用した「海洋温度差」な ど種類は多い。潮の満ち引きによる落差を利用した「潮汐(ちょうせき)」、波の動きに着目した「波力」の一部は実用化されているが、大半は研究開発中の段 階。国内の技術開発は欧州などと比べても遅れが目立つ。
経済産業省所管の独立行政法人「新エネルギー・産業技術総合開発機構」(NEDO)は「潮汐を除けば、世界的に見ても商用ベースでの実用化の事例はまだない」と説明する。
ただ、英国には政府やEUの支援で設立された欧州海洋エネルギーセンター(EMEC)があり、その「実証フィールド」は、一定の海洋エリアを確保して自由な発電実験を可能にしている。ここを利用する欧米企業は、波力と潮流を中心に実用化に近い段階にあるという。
日本でも国がようやく2013年に実証フィールド整備に着手。新潟県の粟島浦村沖など6海域を候補地に認定した。
海洋エネ発電は、多額に上る施設設置費用や既存の海域利用者との調整など立ちはだかる課題が多い。太陽光、風力、地熱など他の再生可能エネ発電と比べても、本格的な実用化には最も時間がかかる分野だとされる。
NEDOは、2010年から海洋エネの技術開発を進め、中長期的に発電コスト低減を図りながら実用化への道を探る。新エネルギー部の岩田章裕統括研究員は 「日本は海洋国家。海には無限のエネルギーが潜んでいる。新たな再生可能エネルギーとして最大限に活用できる技術開発に取り組んでいきたい」と話す。

塩釜市・浦戸諸島の寒風沢島で近く、潮の流れを利用する潮流発電による国内初の電力供給が始まる。東大生産技術研究所が、新開発した発電システムを活用 し、地元漁協の冷凍冷蔵庫の電源用に送電する実証実験を行う。再生可能エネルギー導入の動きが加速する中、海洋エネルギー発電の実用化を目指すモデル的な 取り組みで、成功すれば東日本大震災からの復興にも弾みがつきそうだ。

<潮流発電>国内初供給開始へ 塩釜・浦戸

海は1日に2回、満潮と干潮を繰り返す。このとき海水が流れるエネルギーを利用するのが潮流発電だ。安定した発電量が得られる長所がある。
寒風沢島の潮流発電は、文部科学省のプロジェクトとして2012年、5カ年計画でスタート。発電装置は出力は5キロワットで、寒風沢島の桟橋に近い水深6メートルの海中に昨年11月に設置された。
同研究所の研究グループは経済産業省の使用前検査を受けた上で、今月26日に住民向けに説明会を開催。3月にも実際の送電を始めたい考えだ。
研究開発に当たる同研究所の林昌奎(リム・チャンキュ)教授は「寒風沢の発電装置が潮流発電として国から初めて認可を受けた意義は大きい」と語る。
装置は二つの鉄骨やぐらの中に、それぞれ羽根を縦に2対並べたローターが備え付けられている。発電機は海の上に出ているやぐら上部に据えた。
潮流の力でローターを回転させて機械エネルギーに変換、発電機に伝えて電気エネルギーに変える仕組み。海水の流れは時間とともに変化するため、油圧ポンプでローターの回転を調整し、エネルギー変換を平準化する工夫も凝らした。
プロジェクトは、東日本大震災で電気の供給が1カ月半も止まった経験を踏まえ、島民が地産地消型のエネルギー確保を要望したことに対する復興支援の狙いもあった。
潮流発電の実証実験は、民間企業などが九州や瀬戸内海などで進めているが、装置の設置などでは地元の理解を得られず、研究開発の段階にとどまっている。寒 風沢島では、当初から地元の塩釜市が協力体制を組み、国への許認可申請手続きや電力会社との交渉、住民や漁協向けの説明を進めた。
「着手から2年半ほどでここまでこぎ着けた。寒風沢島の例は、日本の潮流発電実用化のモデルケースとなるだろう」と林教授は胸を張る。
プロジェクトは今後2年間続け、コスト低減などに挑戦。その後は地元企業などに技術移転する方針で、本格的なビジネス展開も視野に入れる。
塩釜市の荒井敏明震災復興推進局長は「緊急時などに使える自前の電源の確保を島の住民は歓迎している。採算性の問題もあり企業の進出は未知数だが、プロジェクト終了後も発電が継続できるよう支援したい」と話す。

[メ モ]文科省のプロジェクトでは、塩釜市・寒風沢島の潮流発電のほか、東大生産技術研究所が久慈市で波力発電システム実証実験を進めている。ことし夏、出力43キロワットの発電装置を海域に設置する計画。事業費は全体で8億円。うち潮流発電分は3億2000万円。

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