仙台市が工事などで撤去した道路照明灯の電力契約を解除し忘れ、約1億5000万円の電気代を無駄に支払っていたことが判明した。解約の手続きを業者に任せきりにし、チェックを怠ったことが巨額損失を招いた。郡和子市長は「職員個人の責任は問えない」とするが、市のミスによる損害の穴埋めに税金を使うことには疑問の声が多い。
(報道部・長谷美龍蔵)
<定額の契約>
市建設局によると、解約を忘れた電力契約は1800件。このうち約4割が水銀灯の契約で、2005~10年に、約3万基の水銀灯を蛍光灯に交換した際、解約を忘れたとみられる。
道路改良などに伴う照明灯撤去後も、電力契約が続いたケースも見つかった。いずれも使用量に関係なく一定額を支払う契約。市は解約漏れが少なくとも10年時点で1800件あり、その後の8年間で計1億5360万円を支払ったと推測する。
<口頭で依頼>
市内の道路照明灯は約8万6000基。各区役所の道路課が台帳を作成し、管理していた。台帳には所在地や東北電力が付与する契約者番号などが記され、照明灯を撤去すると台帳からデータを削除していた。
電力契約を誰がどう解除するのか、決まった手順はなかったという。東北電の認定業者が撤去工事を請け負うことが多いため、工事の発注課や各区道路課の担当者は、解約手続きを業者に任せていたとみられる。
依頼文書を残したケースは皆無に等しく、口頭で頼むことが常態化していた。業者が実際に解約したかどうか、事後の確認もしていなかった。電気代の請求書は半年に1度、各区道路課に届いたが、解約漏れに気付くことはなかった。
<責任問えず>
「信頼を損ね、申し訳ない」。郡市長は5日の定例記者会見で陳謝し、再発防止を誓った。だが、「誰の責任とは言いにくい。組織的な問題の方が大きい」として、職員に損失の弁償を求めない考えを示唆した。
台帳にデータが残っておらず、照明灯を撤去した正確な時期を特定できないことが理由の一つ。担当した可能性のある職員の記憶もあいまいで、ミスの所在を明確化できないという。
市は電気代返還が可能か、東北電に交渉する方針だが、「約款上、難しい」(郡市長)とみられる。現時点ではミスの穴埋めは市民の負担となる公算が大きい。
インターネット上では「市民が尻拭いするのはおかしい」「仕方ないでは納得できない」「関係者全員で弁償すべきだ」などの厳しい意見が飛び交う。
職務上の失敗で、公務員が個人の責任を問われる例は少ない。しかし、神奈川県綾瀬市では、市立小学校のプールの給水栓を19日間閉め忘れ、100万円余りの上下水道代が発生した問題で、市教委が1月、教育長や校長ら7人に一部賠償を求めた。
宮城県庁のカラ出張や食糧費の不正支出問題では、浅野史郎前知事の政治判断などもあり、県職員が1996年10月から77カ月かけ、利子を含め約8億4000万円を分割返還した。
仙台市議の一人は「1800件の全部は無理でも、可能な限り、解約忘れの責任者を特定し、弁償を求める努力をすべきだ。市長や幹部職員の給与カットなど、何かしらのけじめも避けて通れない」と指摘する。