熊本地震が発生して以降、C2Cコマース(個人間商取引)サービス「メルカリ」に、被災地支援をうたったさまざまな「商品」が出品されています。単なる チャリティーとしての出品だけでなく、ちょっと不思議な出品も散見されます。ジャーナリストのまつもとあつしさんが、その現状と背景を解説します。
◇被災地支援をうたい出品、売り上げを寄付
メルカリは、パソコン上のネットオークションではなく、スマホ上でフリーマーケットのように迅速・手軽な商取引ができるサービスです。ネットオークショ ンよりもハードルが低く、いわば空白地帯で急速に利用者を増やしてきました。アプリのダウンロード数は3200万に達しています。
メルカリのアプリで、「熊本 支援」などの言葉で商品を検索すると、たくさんのアイテムが出品されていることがわかります。その多くは、「売り上げの一部を義援金として寄付します」と いうものです。寄付する割合と送り先が明記してあるケースが多いのですが、それらが明記されていないケースもあるのが気になるところです。出品者とやり取 りできる公開コメント欄があるので、寄付を目的に購入する際は質問できます。ただし、回答が得られるかは出品者の対応次第です。
また、出品した支援物資を熊本在住の人が購入すると、購入金額を発送の荷物に同封することで、実質無償で届けるといった使われ方もされているようです。 こうした出品の多くは、メルカリが規約で定める最低価格300円に設定されています。ただ、宅配便で現金を送るのは、通常、宅配業者の約款に違反します。 支援物資の発送手段も徐々に整ってきているので、発送できるかどうかも確認しながら最適な手段を選ぶと良いでしょう。
◇ツイッターなどのSNSを使いたくない人たち
それ以上に筆者の目を引いたのは、被災者への救援物資の配布を伝えるために、情報を「出品」している例があることです。出品するためには必ず価格を設定 する必要があります。間違って購入されないよう高額な設定にしているケースが多いようです。情報拡散の協力を求めたある出品は、29万円でした。
そして利用者が本来、商品について質問する公開コメント欄で、熊本地震やその支援についての情報を交換している例もあります。従来、ツイッターなどの ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で共有・拡散されていた情報が、出品という形でメルカリに掲載されているのです。つまり、メルカリが SNS代わりに使われているということです。なぜでしょうか。
メルカリと同様に、ツイッターは見かけ上は匿名で利用できますが、文字数制限や、いわゆる炎上のリスクがあり、ITに詳しくない人は投稿を敬遠しがちで す。また、ツイッターやフェイスブックには、公式にお金や物品のやり取りをする仕組みがありません。そこで、こうしたツールを使わずに、少しでも被災地支 援をしたいという気持ちを持つ人たちが、慣れ親しんでいるメルカリで支援や情報交換に取り組んでいると、筆者は考えています。
こうした動きは、支援物資や情報のニーズを結ぶマッチングの場所が、まだネット上に見当たらないために起きているのではないでしょうか。
◇メルカリを通じて情報のマッチングを試みる利用者
メルカリも、こうした使われ方を想定していなかったでしょう。利用規約では、「商品の売買を目的としない取引」「宣伝や捜し物など、商品でない情報の投 稿」を禁止していますが、現在のところ熊本地震支援に関する出品は削除されていません。メルカリは、出品アイテムへの監視を強化することを表明しています が、それが追いついていなかったり、支援の動きをあからさまに禁止することにためらいがあるのかもしれません。
東日本大震災では、被災地で本当に求められているものをどう知り、届けていくかというマッチングが課題になりました。
例えば、ネット通販大手アマゾンでは、避難所ごとに「ほしいものリスト」を用意し、支援者はリストに挙げられたアイテムを購入することでマッチングを実 現しています。個人間商取引が前提のメルカリでは、そのようなマッチングが利用者個人の「無理のある工夫」で試みられているという印象です。
メルカリが利用者間で独特の使い方をされているのは、スマホを利用したマッチングに高いニーズがあるからでしょう。この領域には、日本ならではの新たな情報サービスが成立する余地が、まだまだ残されていることを予感させます。