<特集ワイド>ゲームセンター 今や高齢者の社交場

 ◇菓子、ほうじ茶 無料でどうぞ/毛布、老眼鏡も用意しています/おにぎりやパン、昼食持参組も
 今や電車内でもピコピコ音が日常となったゲーム大国・日本。若者だけと思ったら、大間違いだ。高齢化社会の街を歩けば、ゲームに生き生きと興じるお年寄りの笑顔が見える。【根本太一】
 トレンチコート姿で現れた鈴木史朗さん。かつて「さんまのスーパーからくりTV」(TBS系)で、早押しクイズの司会をしていた人気アナウンサーも御年73歳……にしてはお元気だ。肌のつやも良い。何か体にいいことでも?
 「はい。Wii(ウィー)でボクシングをしています。1日20~30分。けっこう疲れますよ。汗もかく」。ウィーは、家庭でテレビ画面を見ながら体を動かすゲームで、テニスやボウリングもある。
 「それとバイオハザードですね」。こちらは次々襲ってくるゾンビを撃退するゲームだ。「深夜2~3時間はやります」。15年前に発売されるやハマったそうだ。
 「画面がアートのように美しく、何より悪をやっつける快感がありますね。大勢のゾンビを吹っ飛ばした時なんて、同時にストレスも解消されちゃいます」
 なるほど。でも孤独感はないのだろうか。
 「いえ、あまりに強い敵を倒す者同士に連帯感が生まれるんです。(歌手の)加山雄三さん(73)は私の『戦友』です。別のゲームでは、小学3年の孫とも『友人』間の会話がはずみます」
 俗に「バイオハザードは6万点達成でプロ並み」と言われるが、鈴木さんの最高記録はなんと17万8270点。
 首都圏を中心に全国80店舗のゲームセンターを運営する「アドアーズ」(本社・東京都中央区)。月曜午前11時に竹ノ塚店(東京都足立区)を訪ねると、既に30人ほどが興じていた。うち若者は3人だけ。前日にも夫婦連れで来ていた男性や、孫と来ていた女性の姿もある。
 メダル200枚を1000円で交換し、大スクリーンの競馬ゲーム席にいたのは田中一夫さん(69)。現役時代は馬券売り場に足を運んだが、年金暮らしになって「お金のかからない」ゲームセンターに通い始めたという。「平日は毎日だね。テレビで『大岡越前』の再放送が始まる4時前までには帰るけど」
 それにしても明るい店だ。おしぼりや、手を汚さないための手袋もある。え? 菓子とほうじ茶の無料セルフサービスも!
 「茶菓子ぐらい出しなさいとお客様に言われて今年から置いています」と店長の広瀬将人さん(46)。「防寒用の毛布や、老眼鏡も用意してありますよ」
 全日本アミューズメント施設営業者協会連合会によると、04年度に2万5044軒あったゲームセンターは、09年度に1万9213軒に。少子化や携帯ゲームの普及で「大手は店舗を大幅削減し、中小は廃業に追い込まれている」と連合会職員は語る。業界は、暗い・汚い・怖いの「3K」の改善や、団塊の世代など新たな客層の取り込みに必死だ。
 アドアーズも、高齢客の目立つ40店で特別サービスを実施。65歳以上にメダル50枚を増量している竹ノ塚店では、87歳の常連も。「病院帰りに寄ったり。昼食代わりのパンやおにぎり持参の方もいます」。春から秋は午前10時の開店前に列ができるという。
 特に人気なのが「メダル落とし」。挿入口からメダルを流し込み、決まった穴に落ちるとランプがつく。ランプ10個でルーレットが回転し、大量点を獲得できる。メダルはボトルキープのように、翌日用に預けておける。
 塩谷功一さん(73)は今年1月からの常連客。「不良のたまり場と思っていたけど、高齢者が多いと聞いて試しに入ってみたら、面白いし店員は親切だし友人もできるし。家にこもるより楽しいよ」
 地域とのつながりが希薄だった元「会社人間」にとって、会話や交流も楽しめる社交場になっているようだ。
 ◇楽しんで体力増強--介護施設
 「107点。素晴らしいわあ」。潮風香る横浜みなとみらい地区。複合ビル6階のデイサービス介護施設「かいかや」に、女性たちの歓声が上がった。前にはリハビリテインメント(RT)マシン。遊びながら身体機能を高める機械だ。現れたワニをビニール製のハンマーでたたく▽ヘビを踏む▽童謡に合わせ太鼓を打つ ――の3種類のゲームがある。
 通所者の声を紹介しよう。「リズム感が良い刺激なの」=大野道子さん(83)。「足を鍛えて絶対、手押し車なしで歩いてみせます」=橋本久子さん(84)。「笑うと心も若返るの」=暁山(あきやま)佳代子さん(88)。「唯一の楽しみ」と話す簑毛(みのも)弥生さんは、91歳には見えない。
 「たたくことで、目から入る情報が手の動作に伝わる反応時間が短くなる。身体バランスも良くなり、敏しょう性が高まる効果がみられます」。そう解説するのは、九州大付属病院リハビリテーション部の医師、高杉紳一郎さん(52)。高齢者は「転倒」が骨折や寝たきりなどにつながりやすいが、「敏しょう性が高まればとっさに手すりをつかんだり、足を前に出して踏ん張る防御力が出たりする」という。ヘビ踏みゲームも推す。足を開き、爪先や太ももを上げる動きが、すねや腰回りの筋肉を鍛える。
 「耐えるリハビリよりも、楽しみながらの予防医療を心がける時代なんです」
 実は、この介護施設を経営するのはゲーム界大手「バンダイナムコ」グループだ。かいかや社長の河村吉章さん(52)によると、通所者120人のうち1割はゲームを目的にやってくる。「お年寄りには施設に『行かされている』感があるかもしれませんが、私たちは『自ら行きたくなる』施設を目指したいんです」
 RTマシンは現在、全国の約250施設に計330台が設置されている。熊本県の介護施設で理学療法士を務める川畑智さん(31)によると、認知症の可能性が高い14人のうち、7人に改善結果がみられたという。県も09年度、購入の補助費に1000万円を計上した。
 そういえば、鈴木さんも「ゲームは目と脳の動きを良くするのに役立つ感じです」と話していた。「敵は0・何秒間隔で襲ってくる。私は前後左右と上下に気を配る。車を運転していても、スローモーションのようですよ」
 本当だろうか? いずれにしろ、超高齢化社会では、ゲームが一定の役割を果たしていきそうだ。
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