<特集ワイド>B級ご当地グルメ 「うまくいっている町少ない…」バブル憂える声も

 ◇とはいえ、入賞すれば知名度アップ 目指せ第2の富士宮
 正月三が日が過ぎて、ごちそうにも飽きが来た頃。あなたは何が食べたくなる? 年末年始の帰省でB級ご当地グルメを楽しんだ人も多いはず。今、地域活性化の起爆剤として全国各地でブームとなり、さながら「B―1バブル」の様相という。さて、今年はどうなるのか。【中澤雄大】
 「もう『B級グルメ』をやめようかという話もあるんですよ」。「B級ご当地グルメでまちおこし団体連絡協議会」(通称・愛Bリーグ)の俵慎一事務局長の言葉に耳を疑った。俵さんの声は浮かない。「バブル的な状況になってしまって、うまくいっている町は少ない」というのだ。
 愛Bリーグは、地域で愛されてきた「安くてうまい」B級グルメの全国ネットワーク化を目指して発足。イベントなどを通じて地域の名物料理を全国発信することに取り組んできた。昨年9月、神奈川県厚木市で開かれたB級ご当地グルメの祭典「B―1グランプリ」は、首都圏では初めての開催で、過去最多の46団体が参加した。会場は43万5000人もの人出でにぎわった。
 使った箸による投票で、大会グランプリは初出場の「甲府鳥もつ煮」に決定。大会後も甲府市は鳥もつ煮ブームに沸く。観光客らが鳥もつ煮を提供する市内のそば店に押し寄せ、店外に行列ができるほどの人気だ。愛Bリーグも09年に社団法人化し、昨年は東京事務所を開設した。現在、57正・准会員が加盟し、3月末までに70程度まで増える見通しという。
 それなのに、なぜ?
 「グランプリの本来の目的は、食べ物を売るのではなく、あくまで町おこし。地元住民が見過ごしてきた“宝物”を再確認することが重要なのに、必要以上に金をかけて順位を上げることにこだわるようになってきた。高くてうまいのは当たり前。独自の食文化と創意工夫がないと、ブームは終わってしまう」と俵さんは懸念する。愛Bリーグ関係者によると、テレビのB級グルメ特集の影響力も大きいという。「不景気の中、安い製作費で一定の視聴率を稼げるため、今や放送局側の重要なコンテンツ(題材)に育った。『地方の時代』というコンセプトにも合致する。順位付けというバトルの要素が加わると、視聴率アップも期待できる」との構図だ。
 各地のB級グルメの成り立ちは「B級グルメが地方を救う」(田村秀・新潟大教授 集英社新書)などに詳しい。市町村や観光協会、商工会など行政・経済団体が中心になって普及宣伝に努めるケースの他、市民有志が知恵を出し合って全国的に認知された静岡県富士宮市の「富士宮やきそば」や、青森県八戸市の「八戸せんべい汁」などの例がある。料理の誕生時期も、戦後復興期の食卓を支えたものから、地元活性化のため考案された開発型とさまざまだ。
 ひとたび当たれば効果は絶大。富士宮やきそばの地元経済波及効果は、地元コンサルタント会社によると総額439億円に上るという。ただ、こうした成功例はまれだ。粉を使った料理の普及に努める日本コナモン協会(大阪市)会長で、食文化研究家の熊谷真菜さんは「食は手軽に見えるが、保守的な要素がある。地域の歴史文化にはぐくまれ、地元に根付いた食べ物でないと、参加団体が盛り上がるだけで、町のブランド化にはつながらない」と指摘。「にわか作りの味の“寿命”は3年程度」という。
 「地産地消」といった地元に根付いた食材を再認識し、地域の活動に光を当てるという見方はできないか。八戸せんべい汁など各地のご当地グルメの盛り上がりに期待する青森県出身の直木賞作家、長部日出雄氏は「都会との格差が広がる地方にとって、愛する郷土色を発信するチャンス。若者を呼び込むことにもつながるのではないか。地元住民にとっても豊かな富に気付く良い機会につながっていってほしい」と語る。
 一方、「順位にこだわるな、というのはきれいごと」と苦笑するのは、先のB―1グランプリに初出場した三重県四日市市の「四日市とんてき」協会会長の小林慶太郎・四日市大准教授(地方自治論)だ。今回は残念ながら選にもれた。
 野球のグラブ形に切れ目を入れた分厚い豚肉に、ニンニク風味の濃い口ソースとキャベツの千切りが特徴の四日市とんてき。発祥は50年以上前。市内の中華料理店が、コンビナート企業などの港湾労働者に手軽なスタミナ料理として提供したのが始まりだ。70年代以降は一般家庭の食卓にも上るようになり、喫茶店のメニューにも登場した。ただ「名物」とは思われていなかったという。
 なぜ、とんてきに着目したのか。実は、小林さんが01年春に同大学に赴任する際連想したのは「四日市ぜんそく」「公害の町」だった。
 「かつてのような大気の汚れはないのに、住民が自分の町に誇りを持っていないことが気になった。仲間と調べてみたら、自慢のできる農産品などがたくさんあった。何か売り出せないか」。研修会などで知り合った市職員らと検討を続け、07年秋、B級グルメとしてひそかに定着していたとんてきに白羽の矢をたてた。提供する店を紹介する地図や応援歌などを作製。徐々に地元メディアにも取り上げられ、市内の小中学生対象の意識調査では、とんてきで観光客を呼び込むといった意見も聞かれるようになった。
 ただ市民の中には「一部の店が出すだけで名物じゃない」といった冷ややかな反応も。実際、同協会の活動に市は「無反応」。市役所ホームページで市長が食育の重要性を語っているが「とんてき」には触れずじまいで、市農水振興課も「とんてきは一般家庭ではほとんど食べないでしょ。協会の活動も最近の話」と素っ気ない。しかし、市観光協会が10年夏から週末限定で開催して人気を集めた「四日市コンビナート夜景クルーズ」では、とんてき定食が提供された。観光協会側は「地域の魅力の一つとして選んだ。反応は一長一短あるが、新年度も検討したい」と話す。
 B―1グランプリは、今秋、兵庫県姫路市に舞台を移す。小林さんは「四日市は名古屋への通勤圏内。将来の人口減少を見据えて市の魅力を高めていかないと、危機的状況になる。四日市に対するイメージを覆すためにも今年も頑張りますよ」と大まじめだ。たかが、とんてき。されどとんてきなのである。
………………………………………………………………………………………………………
 ◇「特集ワイド」へご意見、ご感想を
t.yukan@mainichi.co.jp
ファクス03・3212・0279

タイトルとURLをコピーしました