宮城県白石市で白石和紙の技術継承に取り組む市民サークルが育てた原料の「トラフコウゾ」が、元々の産地だった旧宇和島藩の愛媛県鬼北町の手すき和紙グループに株分けされた。交雑などで失われた原料を鬼北町で復活させて地元の泉貨紙(せんかし)を作り、和紙産地として交流を深める。
白石市で15日にあった贈呈式は、市内最後の商業生産拠点だった白石和紙工房を2015年3月まで営んでいた遠藤まし子さん(94)方の前で行われた。同市のまちづくりグループ「蔵富人(くらふと)」のメンバーや山田裕一市長、鬼北町の「鬼北泉貨紙保存会」関係者や兵頭誠亀町長、両市町教育長らが出席した。
蔵富人を代表して阿部桂治さん(49)は「トラフコウゾが長い月日と距離を越えて鬼北に戻り、紙となることは喜ばしい。お互いに交流を深めて紙の生産、振興に努めたい」とあいさつした。
鬼北泉貨紙保存会会長の平野邦彦さん(55)は「二つの和紙は他にあまり例がない厚紙。伊達家のつながりで技術指導もあったのだろう。離れていても仲間がいることは心強い。この物語は新しい財産になる」と述べた。
鬼北町には今月中に30株ほど送り、地元の北宇和高などの協力も得て、3~5年かけて原料生産を目指す。
トラフコウゾは、カジノキとも呼ばれ、幹に虎の斑紋のような模様があるのが特徴。一般的なコウゾに比べて繊維が細長く軟らかいため、しなやかで丈夫な紙ができるという。仙台藩祖伊達政宗が紙すきを奨励するため、長男秀宗の治める宇和島藩に自生していたものを持ち帰った言い伝えがある。