世界で温暖化ガス削減が叫ばれる中、二酸化炭素を大量排出する石炭火力発電所が国内で増設されている。温暖化防止に取り組むNPO法人気候ネットワーク(東京)の桃井貴子東京事務所長は「特に東北に集中している。政府や自治体は異常な状況に歯止めをかけるべきだ」と指摘する。(聞き手は報道部・高橋鉄男)
◎NPO法人気候ネットワーク東京事務所長 桃井貴子さんに聞く
-石炭火発の計画数は。
「東京電力福島第1原発事故後、新設の2基が既に稼働し、現在は44基が計画されている。地域別に見ると、東北の14基は関東(9基)や中国(7基)を上回り、最も多い。全国の電力需要の約3分の1を占める首都圏に電力販売する計画が多いのが特徴だ」
「2016年4月の電力小売り全面自由化に伴い、事業者は首都圏の需要を狙っている。土地が安く、石炭を受け入れる港湾も送電網もある東北を選んでいる。東北単体の電力需要が減っているのに、計画が相次ぐのは異常に映る」
-石炭火発が増え、懸念する点は。
「二酸化炭素排出量は火力発電の中で最も多い。政府は、温暖化対策の国際的な枠組み『パリ協定』に基づき、排出量を2030年までに13年比で26%減らす目標を世界に表明したが、石炭火発が増えれば目標を達成できない」
-政府の姿勢に問題はあるのか。
「原発事故前は石炭火発の新設を事実上認めなかったが、今は原発の代替電源としてフル稼働させている。14年策定のエネルギー基本計画で、発電コストが安価だとして原子力と石炭火力をベースロード電源に位置付け、新設のお墨付きを与えた」
「環境省は、環境影響評価(アセスメント)の実施基準(11万2500キロワット)を下回る小規模石炭火力もアセス対象にするかどうか協議したが、業界関係者の反発で法的拘束力のない指導にとどまってしまった」
-新設は続くのか。
「千葉県内で計画されていた石炭火発が3月、中止された。パリ協定以降、脱炭素社会を目指す動きなどから企業や投資家が『石炭にリスクがある』と判断したのではないか」
「政府は協定を踏まえ、再生エネルギー中心の政策に転換し、過剰な計画に歯止めをかけるべきだ。立地予定自治体も住民の不安と向き合い、事業の妥当性を問うべきだだろう」