福岡市の推計人口が150万人を超えた。同市は2010年以降、政令市の中では人口の増加率と増加数が共に最大。34年のピーク時には約160万6300人になる見通しだ。しかし、増える人口は課題も生む。福岡市は雇用格差や治安悪化などの問題を抱え、周辺自治体では人口流出が加速する。九州・山口に福岡市一極集中はプラスかマイナスか。【下原知広】
「福岡は九州全体の堰(せき)になっており、福岡がなければ関東や関西に人が出る可能性がある」。推計人口150万人突破は5月1日。人口増は、経済力、都市の魅力のバロメーターとも言える。同13日の福岡市役所での定例記者会見で高島宗一郎市長は、3~4年後に神戸市を抜き政令市で5番目の人口規模となる意欲を示した。
福岡市の人口増は単純に見ると、九州・沖縄からの転入が多いためだ。福岡県がまとめた11年10月~12年9月の福岡市への転入は約7万9000人。その6割近くが九州・沖縄からだった。特に転入が転出を上回る転入超過は15~24歳の層に多く、超過部分の8割近い。大学や第3次産業が集積するため、進学や就職で移住するケースが多いのだろう。
「海も近く山もあるし、交通の便が良く、天神で買い物もできるので住みやすい」。市出身のフリーターの男性(22)は福岡市の魅力を語った。しかし、昨年3月に長崎県大村市から移住したネイリストの女性(22)は少し違う。「物があふれ、商業施設が密集しているけど、お金がないと楽しくない。みんなどうやって生活しているのだろう」。今年3月に那覇市から来た美容師の女性(20)は「夜は治安が悪い。自転車も多くて怖い」。
国勢調査から福岡市の15歳以上の被雇用者に占める非正規雇用の割合を見ると、00年の約15%(約7万6180人)が、10年には約36%(約18万8000人)に。福岡労働局は「福岡市はパート労働者が多い。若年労働者が失業状態で移住してくる場合が少なくない」とみる。
また、市内の刑法犯認知件数(10年)は人口1000人当たり19・08と政令市では大阪、名古屋に次いでワースト3位。福岡市は「認知件数は減っているが政令市の中では厳しい状態だ」。打開策はなかなか見えない。
逆に、福岡市の周辺では人口流出が進む。北九州市は04年4月に100万人を割り込んだ。長崎県は福岡市への人口流入が福岡県、東京都に次いで多く、長崎市は11~20年の10年間に約2万1000人減ると試算する。
周辺は生き残りに躍起だ。北九州市は「技術の集積した物作りの街としての強みを生かしたい」。長崎市も「平和都市、水産資源などで磨きをかけるしかない」と、都市の個性の明確化を狙う。熊本市は九州新幹線をばねに人口増を目指そうと、福岡市を通勤圏ととらえて見学ツアーで転入者を募っているが、いずれも模索は続く。
都市間格差を広げ、福岡市内の暮らしやすさを低下させる「福岡市一極集中」。関西学院大の大谷信介教授(都市社会学)は「もう一極集中の時代ではない。一人一人が豊かさや暮らしやすさとは何かを問い直す時期に来ている。九州には歴史や文化など多くの面で魅力がある。九州だからこそできることがあるはず。それを九州全体で考えていく必要がある」と語った。