◇耳鼻科で原因特定を
「お盆過ぎから、少しずつ来院する患者さんが出始めました」
東京都千代田区有楽町で西端(にしはた)耳鼻咽喉(いんこう)科を開業する西端慎一医師は話す。スギ花粉が猛威をふるう春に比べると人数は10分の1以下だが、秋も「くしゃみや鼻水が止まらない」という症状を訴える患者が増える時期だ。その一部はブタクサやヨモギ(いずれもキク科)などの花粉による「秋の花粉症」だ。
花粉症はアレルギー性疾患の一種で、異物を排除しようとする人体の免疫システムが過剰に反応するために起こる。体内に異物が入ると、それに対応した抗体ができる。そこに再び同じ異物が侵入すると、抗体が反応し、ヒスタミンなどの刺激物質が作られるため、くしゃみや鼻水、目のかゆみなどを引き起こす。
全国の耳鼻咽喉科医とその家族を対象とした大規模な調査によると、08年の花粉症の有症率は29・8%で、10年前に比べると約10ポイント増えた。山梨県や高知県では40%を超えており、「現代の国民病」とも呼ばれる。
原因植物としては春のスギが有名だが、NPO法人「花粉情報協会」事務局長の佐橋紀男・東邦大理学部訪問教授(植物分類形態学)によると、日本で最初に報告された花粉症はブタクサによるもので、宅地開発が相次いだ60年代には関東地方で大きな問題になったという。
ブタクサやヨモギのほか、イネ科のススキやメヒシバ、キク科のセイタカアキノキリンソウ(セイタカアワダチソウ)、アサ科のカナムグラなどが秋の花粉症の原因になる。佐橋さんは「これらの草は今夏の猛暑や日照りでかなり枯れており、今年の秋は花粉が少ない可能性はあるが、注意は必要」と話す。
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秋の花粉症は、気温が下がり出す季節の変わり目に起こるだけに、風邪と間違われやすい。西端さんは「風邪の場合、2~3日すると色の付いた粘り気のある鼻水に変わる。水っぽい透明な鼻水が5日以上続いたり、目のかゆみを伴う場合は、花粉症を疑った方がよい」と指摘する。
西端耳鼻咽喉科のスギ花粉症患者約400人を調べたところ、1~2割程度はカモガヤ(イネ科)やブタクサなど夏から秋にかけて花粉を飛ばす植物の花粉にも反応する抗体を持っていたという。
やっかいな花粉症だが、最大の予防法は原因物質に近寄らないこと。高い樹木で遠方にまで花粉をまき散らすスギと異なり、秋の花粉症を引き起こすのはブタクサやヨモギなどの草花が主だ。「花の咲く位置が低く、よほどの強風でなければ遠くまでは飛ばない。症状のある人は河原や空き地など、雑草の多い場所に行かないことだ」と西端さん。マスクやメガネで花粉の侵入を防ぐのも効果的だ。東京都は春だけでなく、夏から秋にかけても花粉の飛散状況を調査し、ウェブサイト(http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kanho/kafun)に掲載している。
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治療は基本的にスギ花粉症と同じで、悪さをするヒスタミンを抑える抗アレルギー薬(抗ヒスタミン剤)を服用したり、炎症を抑えるステロイド薬を鼻の穴に噴霧するといった薬物治療が一般的だ。西端さんは「最近は眠くならない抗ヒスタミン剤もある。種類も多く、体質によって効き目や副作用の表れ方が違うので、医師と相談して自分に合う薬を見つけることが大切」と話す。
レーザーで鼻の粘膜を焼いて、アレルギー反応を起こす場所自体をなくす治療もある。花粉が飛散する時期の前に実施しておけば、シーズン中は薬を飲まなくても済むが、完治するわけではなく2年ほどで効果が薄れる。何度もレーザー治療を受けた場合の安全性は、まだ分かっていないことも多いという。
アレルギーの原因物質(アレルゲン)を薄めて少しずつ注射し、徐々に体を慣らして体質を変え、アレルギー反応を起こさせなくする「減感作療法」は、今のところ唯一完治する可能性のある治療法だ。しかし、花粉症患者の約3割にはこの治療法が効かず、治療用のアレルゲンはスギやブタクサなど種類が限られているなどの課題もある。
西端さんは「いずれの治療を選ぶにせよ、アレルゲンを特定することが重要だ。ハウスダストが原因なら窓を開けて換気をよくすることが必要だが、もし花粉症なら逆効果になる」と強調する。耳鼻科などでは、4000~5000円の自己負担による血液検査で、アレルゲンを調べることができるという。【西川拓】