<管理職>短命?…00年ごろ境に死亡率急上昇

30~50代の男性のうち、会社役員や部課長ら「管理職」と医師や教員ら「専門・技術職」の死亡率が2000年ごろを境に急激に高まり、事務職など「その他の職種」の平均を上回っていることが分かった。働き盛り世代の身辺にどんな危機が迫っているのか。【大槻英二】
 ◇健康格差逆転?
 北里大の和田耕治講師(公衆衛生学)らが3月9日付の英医学誌ブリティッシュ・メディカル・ジャーナルに論文を発表した。和田さんらは、人口動態統計や5年ごとの国勢調査を基に、職種を(1)専門・技術職(2)管理職(3)その他の職種(事務、販売、労務職など)に分類し、それぞれの死亡率(10万人当たりの死亡者数)を分析した。
 その結果、3グループとも1980年以降、死亡率は低下傾向だったのに対し、00年には管理職の死亡率が95年の1.6倍、専門・技術職は1.4倍に跳ね上がり、その他の職種の平均を上回った。
 死因のうち増加が目立ったのは肺・大腸のがん、さらに自殺だ。00年の肺・大腸がんによる死亡率は、その他の職種では95年より低かったが、管理職と専門・技術職では1.3~1.7倍に。自殺による死亡率も、その他の職種の1.4倍に対し管理職は2.7倍、専門・技術職は2.3倍に上昇した。
 生活習慣とも関わるがんが死亡率を高めた原因について、産業医の経験もある和田さんは「管理職の人の方が肥満や飲酒、運動不足が多いという報告がある。多忙を理由に医療機関に行かないなど『診断の遅れ』も背景にあるのではないか」と推測する。
 欧米の先進国では、生活管理への意識が高い管理職や専門・技術職の方が、生産現場などで働く「ブルーカラー」より死亡率が低いというのが「定説」とされてきた。今回のデータから「日本特有の健康格差の逆転が起きている可能性がある」と和田さんは言う。
 ◇リストラ現実に
 死亡率に「異変」のあった95年から00年にかけて、日本の労働環境は激変した。97年に山一証券が破綻するなど企業の倒産が相次いだ。大規模なリストラが現実のものとなり、年功序列や終身雇用制度も崩れ、成果主義が導入された。管理職には、職場の仲間を切らねばならないというストレスや、次に職を失うのは己では、との不安が重くのしかかった。自殺者数が急増し初めて3万人を突破したのは98年だ。
 「そもそも中高年は『心の危機』を抱えやすい時期。組織で上の立場に行けば行くほど周囲に相談しづらくなる。それが問題を悪化させる一因になっているのではないか」。そう指摘するのは、「中高年自殺」などの著書がある筑波大の高橋祥友教授(精神医学)だ。
 ◇周囲に助けを
 高橋さんによると、米国では、企業トップが専属の臨床心理士や精神科医を持つケースも多い。「まずは言葉にして誰かに聞いてもらうこと」と助言する。
 和田さんは「管理職や専門職が疲弊すれば組織は回らなくなる。健康は自分が守るとの意識を持つことが大切」と説き、今回の調査結果を「日本人の働き方を考えるきっかけにしてほしい」と言う。
 本当に病院にも行けないほど忙しいのか。「管理職受難」の時代を乗り切るには、意識改革が求められているのかもしれない。

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