【北京・石原聖、ワシントン和田浩明】米国と中国の外務、経済担当閣僚らが意見を交わす第6回米中戦略・経済対話が9日、北京で始まり、習近平国家主席が開幕式での演説で「中国と米国が対抗すれば世界の災いになる」として「新型大国関係」の構築と主権の尊重を米国に求めた。オバマ米大統領も声明を出し、「実務的な協力と差異の建設的な管理に規定された『新型』の中国との関係を目指す」と表明。戦略・経済対話に合わせて双方のトップが米中関係についての見解を示すのは異例で、ともに「新型」という言葉を使ったが、定義の違いが浮き彫りになった。
【中国「世界の工場」の衰退】
習氏は今年が米中国交正常化から35年になることを強調し、関係強化を訴えた。昨年6月の米中首脳会談で自らが提唱した「新型大国関係」に繰り返し言及するとともに、「太平洋は両国を受け入れるのに十分な空間がある」と述べ、東シナ海や南シナ海での摩擦に米国が介入しないようけん制。「主権と領土、発展の道の選択を尊重すべきだ」とも述べ、対等な大国として接することを求めた。
これに対し、オバマ氏は声明で「歴史と文化が違う以上、常に意見が一致しないのは想定の範囲」と指摘。中国側が米国との共通認識になったと主張する「新型大国関係」の表現は使わないことで一定の距離を取りながら、具体的成果を目指す協力と政策の違いの管理を図る「新型」の関係を提案した形だ。
米中双方とも対立の回避で一致するが、中国は「新型大国関係」の構築によってチベットや南シナ海などの「核心的利益」を尊重するよう米国に求めている。一方、米国は対立解消に向け、国際的な責任を果たす行動を中国に促すことに力点を置いており、「新型」の関係を巡る溝は埋まっていない。
米国務省によると、9日の戦略・経済対話でケリー米国務長官は「習氏が何度も大国関係の新しい型について話すのを聞いた。だが、新しい型とは言葉ではなく行動によって定義される」との考えを示した。アジア回帰政策に「中国封じ込めの意図はない」と説明したものの、中国に「責任ある役割を果たす」よう求め、国際規範に従うことを促した。
ケリー氏はまた、「話さねばならぬ地域の安全保障問題がある」と指摘。「米中はライバルではなく地域の安保で協力すべきだ」と述べ、中国の要求する「影響圏」の相互尊重ではなく、アジアへの関与を明確にした。
8日の予備的協議では、海洋進出をめぐって主張を通すために実力行使も辞さない構えの中国側に米側は「問題だ」と懸念に加え自制を要求。中国軍将校5人が産業スパイとして起訴されたことを「でっち上げ」と反発した中国が一方的に停止したサイバー作業部会の再開も求めた。
◇米、元相場改革を要求
【北京・井出晋平】経済をテーマにした会合では、米国のルー財務長官が「市場主導の為替相場への移行は重要だ」と人民元相場の変動幅拡大など一層の改革を求めた。中国の楼継偉財政相は9日の対話終了後の記者会見で、「完全に為替介入をなくすのは難しい」と反論。米連邦準備制度理事会(FRB)の量的緩和政策縮小による国際的な資金の流れの変調が「中国を含む一部の国々の為替政策を難しくしている」と苦言を呈した。
中国人民銀行(中央銀行)は今年3月、人民元の対ドル相場の変動幅を1%から2%に拡大したが、年明けから元安が続いており、市場では、輸出に有利になるよう当局が為替介入を行っているとの見方が有力だ。
また、昨年の対話で本格交渉を再開した米中投資協定の交渉を巡っては、中国企業の対米投資を米国が安全保障上の理由で規制していることなどに対して、中国側が改善を求めた。米側も、投資規制の一層の緩和を求めた模様だ。ただ、米中は「早期に高い水準でバランスのとれた協定を妥結すべきだ」(習近平国家主席)と交渉の早期妥結では一致しており、交渉加速を確認するとみられる。
中国は自国主導の国際金融機関「アジアインフラ投資銀行」の設立を目指しており、米国の影響力が強い世界銀行などに対抗する姿勢も見せている。「米国主導の国際金融秩序への挑戦」(外交筋)との懸念が高まれば、米側が圧力を強める可能性もある。