<路上押し売り>高齢男性ご用心「口車に乗りやすい」

東京都内で路上を歩く高齢男性に腕時計などを突然手渡し、現金を払わせる行為を繰り返したとして、警視庁は8月下旬、都内の男2人を都迷惑防止条例違反 (押し売り行為)容疑で逮捕した。2人は「高齢男性は口車に乗りやすく、半年間で100人以上から計約500万円を得た」と供述しているという。心理学の 専門家は「もらったらお返しをしなければという心理を突いた手口。無防備なところを不意打ちされるので被害に遭うリスクが高い」と注意を呼びかけている。 【斎川瞳】

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逮捕されたのは、八王子市みつい台1、建設会社役員、児玉満(63)と昭島市昭和町5、無職、田中大悟(32)の両容疑者。容疑は今年3~7月、新宿区内 の路上で60~80代の男性3人に腕時計や財布、バッグなどが入った紙袋を押しつけ「いくらでもいいから」などと要求し、現金2万~10万円を支払わせた としている。

警視庁によると、児玉容疑者らは高級車に乗って大通りに行き、車を止め「これ、あげる」などと通行人にいきなり声をかけて腕時計などを押し付け、困惑し た相手に現金を要求する手口を繰り返していた。「若者は金を持っていないし、女性は警戒して金を出さない」として裕福そうな高齢男性を狙ったと供述してい る。

押しつけた腕時計などは高級品に見えるものの数千円程度で仕入れていた。警視庁は、高級ブランド品と偽ってはいないことから、詐欺には該当しないとしている。

消費者心理に詳しい立正大心理学部の西田公昭教授は「何かをもらったら、とにかくお返しをしなければという人間心理を『返報性のルール』というが、それ を悪用した手口で、実は昔から使われるだましの手法だ」と指摘する。その上で「男性は女性に比べて『自分は大丈夫』という思いが強い一方、いざ被害に遭っ た時、周囲に援助を求めるのが苦手な場合が多い。手持ちの金を渡すことで怖い目に遭わないで済むなら仕方ないと思ってしまう傾向もある」と話している。

◇「催眠術にかかったよう」岩見さん被害

毎日新聞特別顧問で政治評論家だった岩見隆夫さん(故人)は、週刊誌「サンデー毎日」2011年3月27日号のコラム「サンデー時評」で「赤坂の路上で体験した『詐欺もどき』」と題して、この手口の被害に遭った体験を書いていた。

東京・赤坂の路上を歩行中、突然、外国車が真横に急停車し「やあ、どうも」と知り合いのように声をかけてきた「ロータリアン(ロータリークラブの会員)」を名乗る男に腕時計を押し付けられ、3万円を取られたという体験談だ。

男は「これ、もろうてください。私はいらんから」と窓越しにペアの腕時計の入った箱を押し付け、岩見さんが「とんでもない」と返そうとすると「そんなら運転手にビール代をやってください」と謝礼金を要求したという。

岩見さんは「とにかく早業」「あっという間に品物を持たされていた」「催眠術にでもかかったよう」とその時の状況を描写している。

「真っ昼間、都心の雑踏のなかだ。かっぱらいはいるかもしれないが、図々しくも面と向かって声をかけてくるなんて、想定もしていなかった」と油断を反省し、「特に高齢者が狙われている。みなさん、ご用心!」と結んでいた。

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