東日本大震災と2016年4月の電力小売り全面自由化を機に、自治体が出資などで関与する地域新電力「自治体新電力」の設立が、東北でも相次いでいる。再生可能エネルギーなど電力の地産地消と、地域活性化を目標に掲げる。事業成果の拡大には業務を見直し、収益を地域に循環させる取り組みの実現にかかっている。(報道部・高橋鉄男)
東松島市の一般社団法人東松島みらいとし機構は16年4月、地域新電力に参入した。市内の太陽光発電設備などから電力を調達し、公共施設や企業に供給する。契約電力量は当初の約3倍の約1万1000キロワットまで増えた。
他にも多くの事業を手掛ける。市のふるさと納税業務や、被災地で育てた大麦を使ったビール醸造、婚活事業も担う。今春から市のパークゴルフ場も運営する。
幅広い活動を支えるのが、自前の電力需給管理だ。地元雇用の3人が担当となり、24時間を30分ごとに分けて電力を調達して需要と釣り合わせる計画を作成。供給の前日に電力融通を指揮する国の「電力広域的運営推進機関」に提出する。この業務の利益率は高く、18年度は約2000万円の経常利益を見込む。
常務理事兼事務局長の渥美裕介さん(34)は「需給管理がもたらす利益が、利幅の薄いまちづくりや公益サービス運営の原資になっている」と手応えを語る。
東北で設立、設立予定の自治体新電力は、表の通り11法人。需給管理を自前で行うのはわずか3法人で、残りはノウハウがある大手などに委託している。
需給管理を外部委託した場合、委託料がかさみ、利益は域外に流出する。新電力に詳しい京都大の稲垣憲治研究員は「雇用や税金で地域に回るお金が10分の1に減る」と分析する。従業員ゼロというケースも少なくないという。
現状を見直す動きもある。山形県が15年に33.4%を出資した「やまがた新電力」は18年11月、需給管理を外部委託から自前に切り替えた。自前転換は東北で初めてとされる。供給電力の再生エネ比率が8割に上る同社は委託時、プロパー社員がいなかった。現在、需給管理は正規雇用した20代の1人が担う。近く、3~4人体制にする考え。
同社の冨樫昌樹さん(46)は「供給先ごとに使い方も分かり、需要に応じた独自のメニューづくりができるといい」と意欲的だ。
自前転換は、新電力による地域活性化をうたう一般社団法人ローカルグッド創成支援機構(東京)が後押しした。高額の需給管理システムやノウハウを格安で提供する。東松島みらいとし機構とローカルでんき(湯沢市)も支援先だ。
稲垣研究員は「電力の地産地消よりも、地域にお金が回っているかどうかを評価の物差しにするべきだ。自前の需給管理は、その第一歩になる」と語る。