<LINEスタンプ>「長者」の人気制作者も

無料通信アプリのLINE(ライン、東京・渋谷)が5月に始めたスタンプ販売サイト「クリエイターズマーケット」が人気だ。スタンプは、ラインのやり取りで使われる大きい絵文字のようなもの。マーケットでは個人の作品を1セット(40個入り)100円で販売できる。代金はラインと制作者で半額ずつ分け合う仕組みで、人気制作者の中には「スタンプ長者」も現れている。【横山三加子】
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 スタンプは企業が有名キャラクターの絵柄を販売したり、宣伝のために無料配布したりしている。ラインが「企業の発想には限界がある。面白いスタンプが出てくるよう表現を利用者に委ねよう」(スタンプ企画チームの渡辺尚誠マネージャー)と計画を練り、審査に通れば個人でも販売できるスタンプのマーケットを設けた。予想以上に人気が広がり、11月7日時点で制作者27万人が世界145カ国・地域から参加し、3万セット(種類)以上を販売している。審査は3~4カ月待ちの状態だ。
 半年間の販売数で、上位10セットの平均販売額は3680万円。制作者はその半分、平均1840万円程度を手にした計算になる。
 「こんな切羽詰まったスタンプは自分しか使わないと思っていたので、売れて驚いている」と話すのは、「文字打ってる場合じゃねえ!」というセットを制作したA-kit(あきっと)さん。東京都世田谷区の20代の女性で、普段は理容師として働き、趣味で漫画を描く。キャラクターの表情や仕草で気持ちを表現したものが主流の中、スタンプ内に文字を多く入れ、メッセージ代わりに使えるようにしたのが特徴だ。例えば「今から行きます」「全力で急ぎます」という二つのスタンプを続けて送れば、文字を打ち込むよりも簡単だ。便利さがうけ3カ月で約1000万円を得た。
 ただ、使い道はパソコン購入に箱根旅行程度。祖母が老人ホームに入居し、パートナーも病弱なため「急な出費があっても安心できるように蓄えておく。仕事もやめない」と堅実だ。制作中の次回スタンプは“萌(も)え”がテーマのパンダ柄。「売るため、だとつらい。これからも自分のほしいスタンプを作っていく」
 「何で売れたのかはいまだに分からない。すし好きが多いから?」と苦笑するのは、マグロやいくらなどすしのキャラクタースタンプ「寿司(すし)ゆき」の作者で兵庫県尼崎市在住のあわゆきさん(37)。マーケット開始初日に人気トップに躍り出て、数時間で「高級すし店『すきやばし次郎』に2人で行ける」約6万円をゲット。これまでの収入の合計は、制作コストを差し引いても「車が買える額」に達した。本業はウェブ製作だが、9月にはスタンプ作りの指南書を出版。年末にはキャラクターのぬいぐるみがゲームセンターに登場する。「寿司ゆき」の販売も台湾、タイからコスタリカ、ベラルーシまで66カ国・地域に及ぶ。
 「作品が実物のぬいぐるみになったり、海外で買ってもらえたりするのは感慨深い。市場は大きくチャンスが増えた」とあわゆきさん。とはいえ「簡単に売れるものでもないと思うし、運も必要。金もうけを考えずにやっていきたい」と自然体だ。スタンプ収入はやはり貯金している。
 ラインによると、制作者の約半数はデザインなどの仕事の経験がない。職業では「会社員」が3割以上で最も多く、「専業主婦・主夫」「パート・アルバイト」も各1割以上だ。渡辺さんは「一般の方の参加がこれほど多いとは予想外だった。スタンプ長者まではいかなくても『家賃を賄える』など生活を豊かにしてもらえたら」と言う。

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