[STOP ネット暴力]人事課長投稿「なめるなよ」「露骨にエコ贔屓する」…内定者自殺

 昨年、東京都内の会社に就職が内定していた男子大学生(当時22歳)が、入社直前に自ら命を絶った。この会社では、内定者全員をSNS交流サイトに登録させ、人事担当課長は頻繁にサイトに接続するよう求めた。サイト内で課長から個人攻撃ともとれる書き込みを受けた男子大学生。遺族側は「強い優劣関係の下で、SNSを使ったパワハラが行われた」として企業側に謝罪や損害賠償などを求めている。(上野綾香)

交流サイト 学生自殺

 男子大学生は2018年5月、パナソニックの子会社「パナソニック産機システムズ」(東京)の内定を得た。同社はこの学生を含めて20人に内定を出し、全員を会員制のSNS交流サイトに登録させた。

 同サイトは投稿内容から学生らの意欲がわかり、内定の辞退者を早期発見する機能を売りにしていた。20人が数多くの課題図書の感想などを書き込むよう求められる一方で、人事担当課長も様々な発言を投稿。遺族側が開示した同サイト上のやりとりによると、18年7月には課長の高圧的な投稿がみられる。

 <誰がいつサイトに入っているかは人事側で見えています><それはそのまま配属の時の、僕たちの手元情報にもなります><入社してからギブアップされると、とっても迷惑です>

 人事権をちらつかせながら、男子大学生らを心理的に拘束していった。

          ◎

 8月、課長の投稿はさらにエスカレートする。

 <死に物狂いで踏ん張って、後は死ぬぐらいしかやることないなぁというところまで追い込んでみて下さい><入社したら、僕は遠慮が無くなりますよ。邪魔だと思ったら、全力で排除に掛かりますから>

 男子大学生には同様のメールも直接送信。11月にはサイトで<やる気がない、やる自信がないなら、早目に辞退して下さい>と内定辞退まで促していた。

 追い打ちをかけたのは、男子大学生が海外旅行から戻った直後の19年2月上旬の、個人攻撃ともとれる課長の投稿とみられる。

 <サイトやってないような やつ は、丸坊主にでもして、反省を示すか?><僕は徹底して、露骨にエコ 贔屓 ひいき するからね。なめるなよ、54のおっさんを!><海外行くなら、行く前に断れよ><空気、読めてるか?>

 「きつい」「死にたい」――。男子大学生は友人にこう漏らし、課長の投稿から約2週間後の深夜、ビル屋上から飛び降りた。

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 「行きすぎた指導があった」。パナソニック産機システムズの担当者は課長の不適切な行為を認め、「サイトという見えづらい世界の中で課長の教育方針を監督できなかった」と釈明する。同社は男子大学生が亡くなった直後にサイトの利用をやめ、内定者向けの相談窓口を社内に設置して対応している。

 遺族の代理人を務める川人博弁護士は「人事担当者と内定者の間には、通常の上司と部下の関係よりも強い優劣関係が存在する。立場の弱い学生が入社前なのに監視され、事実上の研修の前倒しとなっていることは大きな問題だ」と指摘。「男子大学生はSNSを通じて 執拗 しつよう なパワハラを受け、精神疾患を発病した可能性が高い」と推測する。

 両親は「息子は常時サイトへの接続を強いられていた。追い詰めた課長や会社を一生許すことができません」とコメント。同社側に謝罪や再発防止策の実施、損害賠償を求めて交渉している。

「辞退者の8割発見」 サイト販売会社 過去に記載

 「辞退予備群発見機能」「辞退者のうち、80%以上を発見できます」――。

 パナソニック産機システムズが導入していたSNS交流サイトの販売会社(東京)は、こうしたうたい文句をホームページ(HP)に記載してPRしていた。記載は現在、HPから消えている。

 同社は今月21日、「ハラスメント行為をはじめとした行き過ぎた指導が行われないよう、(利用企業への)注意喚起に努める」とコメントした。

 新型コロナウイルスの感染拡大前までは、学生にとって有利な「売り手市場」が続いていたこともあり、同様のサイトは他にもある。企業側が学生の囲い込みを強めていることが背景にあり、あるサイト販売会社の担当者は「『既読』にならない学生を見つけ、電話で状況を把握するのに便利だ」と明かす。

 採用コンサルタントの高田晃一さんは「企業の人事担当者は内定者と真剣に向き合うことが大切で、SNSに頼り切るべきではない」と警鐘を鳴らしている。(畑武尊)

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