NHKオンデマンド 起死回生へ値下げ攻勢、1本210円に

 過去に放送した番組をネットなどで配信する有料サービス「NHKオンデマンド」で、NHKは12月から、「特選ライブラリー」で提供する番組1本当たりの視聴料の上限を315円から順次、210円に引き下げる。サービス開始から約2年で会員獲得は順調なものの、収入が伸び悩む同サービス。今後は「牛丼業界などを参考にした」という低価格攻勢で、起死回生を目指す。(三宅陽子)
 NHKオンデマンドをパソコンで視聴するための会員登録者数は、9月末現在で約52万人。平成20年のスタートから右肩上がりだが、収入は不振が続き、21年度予算では23億円の見込がわずか3億円だった。目標とする23年度の単年度黒字化、25年度の累積赤字解消にはほど遠い状況だ。
 当初は会員が増えれば収入も上がるとみられたが、「大いなる誤算だった」と小原正光NHKオンデマンド室長。毎月番組を購入しているのは会員の7%前後にとどまる。番組1話を無料配信する“お試し”も実施したが、継続した購入にはつながっていない。
 そうしたなか、NHKが望みを託すのは低価格攻勢。今年2月、放送後2週間以内の「見逃し番組」の見放題コースを月額1470円から945円に値下げしたところ、収入は1月の1400万円台から8月は2200万円台にまで増加。同コースの収入は、売り上げ全体の半分を占めるまでになった。
 この成功を受け、NHKは、過去の人気番組を中心とした「特選ライブラリー」で提供する番組の単価を、12月から値下げすることを決定。同ライブラリーにも定額サービスを導入することを検討している。
 ■問題番組は視聴できず 公共放送の「使命」か「ビジネス」か
 「あの番組がなぜ見られないのか」-。NHKオンデマンドで見たい番組を探していると、こうした疑問を抱くことが少なくない。
 たとえば、番組改変が問われた「ETV2001 シリーズ 戦争をどう裁くか 第2回 問われる戦時性暴力」や、約1万人の集団訴訟が起きている「NHKスペシャル シリーズJAPANデビュー アジアの“一等国”」は特選ライブラリーで視聴できない。後者についてNHKは「係争中のため」と説明するが、受信料で作られた番組を、支払い者である国民がチェックする目的では十分活用できないことになる。
 過去の番組の提供には出演者らの許諾が必要で、経費も手間も膨大にかかる。NHKは「最近は『見逃し』で人気を得た番組を『特選』に入れることが多い」としており、採算のため“売れ筋”をラインアップにそろえたい意向がにじむ。
 立教大学の服部孝章教授(メディア法)は「NHKの番組は公の財産であり、社会的に問題になったものや、売れないものもすべて含めてアーカイブスとして見られる状態にしておかなければ意味がない」と話す。赤字が続く状況についても「オンデマンドがビジネスとしてやっていけると思うのは大きな間違い。安定的に運用できる別の仕組みが必要」と提案する。
 NHKオンデマンドは公共放送の「使命」なのか、それとも「ビジネス」か。平成25年度までに累積赤字が解消されなければサービスの継続自体が再検討されることになっており、その位置付けの見直しも求められそうだ。
 ■「火の魚」がイタリア賞受賞 NHK、来月からオンデマンドで提供
 NHK広島放送局が制作したドラマ「火の魚」が、優れたテレビやラジオ番組を顕彰する国際コンクール「第62回イタリア賞」(イタリア放送協会主催)のテレビ単発・ミニシリーズドラマ部門で、最優秀賞「イタリア賞」を受賞した。同作は11月1日から、NHKオンデマンドの「特選ライブラリー」で視聴可能になる。
 「火の魚」は昨年7月、NHK広島で放送。瀬戸内海の島を舞台に、偏屈な小説家、村田(原田芳雄)と、病を抱える女性編集者、折見(尾野真千子)がぶつかり合いながらも心の交流を深めていく様子を描いた。
【用語解説】NHKオンデマンド
 ブロードバンドでNHKの過去の番組が見られるサービス。平成20年12月に運用を開始し、現在3千本以上の番組を提供。番組単価は105~315円で、視聴期間は「見逃し番組」が購入後1日間、「特選ライブラリー」が3日間。「見逃し」には定額見放題コースもある。

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