東京、大阪の民放ラジオ13局が、地上波の放送をそのままインターネットで流す「radiko.jp」(ラジコ)の試験放送を始めて3カ月が経過した。パソコンをラジオ受信機にしようという試みは一定の評価を受けている一方、実用化(本放送)に向けてはハードルもあり、業界の試行錯誤はしばらく続きそうだ。(佐久間修志)
■「切り札」に手応え
ラジコの試験放送が始まったのは3月15日。13局で作る「IPサイマルラジオ協議会」が運営し、地上波のラジオ放送がそのままパソコンのネットで聴けるのが特徴だ。ラジオ受信機の減少と、難聴取地点の増加という2つの問題を抱えるラジオ業界にとって、「切り札」として効果が期待されていた。
滑り出しは上々で、協議会によると、延べ聴取回数は5月9日までに約3000万回。平均聴取時間も約22分で、ニッポン放送の磯原裕社長は「思っていた以上の反響」と手応えを口にする。
協議会が実施したリスナー向けのアンケートでも、「これまでより音が聴きとりやすくなった」「ラジオを聴く機会が増えた」などの意見が寄せられ、回答者の約1割は、ラジコによって「ラジオを初めて聴いた」としている。
■権利処理&NHK
協議会は、ラジコの試験配信を8月までとし、9月以降の実用化を目指すが、課題もある。協議会事務局の青木貴博さんは、(1)通信安定化のための設備(2)PR効果をセールスにどうつなげるか(3)音楽などの権利関係の処理-を挙げる。
中でも権利処理は不可欠。協議会理事の田村光広・文化放送デジタル事業局長は「試験放送に限って配信に応じてくださった権利者もいるので、改めて許諾をとっていく。首をタテに振ってくれなければ、試験期間の延長という交渉になる」と話す。
現在は参加していないNHKの動向も注目される。テレビのようなザッピングが可能なラジコでは、語学講座などの人気コンテンツを擁するNHKが参加することで、他局にも多くの新規リスナーが流れると見込まれるためだ。
ただ、NHKのインターネット業務は法律で定められたものに限られ、現段階ではラジコのような業務はできない。4月の記者会見で、福地茂雄会長は「前向きに検討したい」と述べたが、「実施には総務省の許可が必要になる」(日向英実放送総局長)など、一筋縄ではいかないようだ。
■メディア価値上昇
それでも、ラジコによってラジオのメディア価値が見直されているのは確かだ。顧客を自社サイトへ誘導したい企業も、パソコンを開きながら聴けるラジコにメリットを感じているという。
こうした潮流を生かそうという動きも出てきた。文化放送は、ラジオ普及を後押しするためのサイト「教えて!きゅうぷらざ」を4月末に開設した。中身は「ラジオの種類」や「ラジオの聴き方」を紹介する“ラジオ入門”が中心だ。担当者は「ラジコのおかげで、『ラジオって何?』っていう若い人が出てきたので、逃さないようにしたい」と話している。