「微小粒子状物質(PM2.5)」による大気汚染が懸念される中、PM2.5の大気中濃度を測定し成分を分析するビジネスが熱を帯びてきた。環境省は、発生源の解明や健康への影響調査に役立つデータの集積を今後の課題の一つと位置づけており、これを支援する環境測定関連企業の役割も増すことになる。
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PM2.5は、大気中に漂う粒子状物質のうち直径2.5マイクロ(1マイクロは100万分の1)メートル以下のもの。中国で1月、PM2.5による大規模な大気汚染が発生し、西日本でも高濃度の同物質が観測された。これを機にPM2.5の飛来などを懸念する声が日本で強まっている。
これを踏まえ、環境省の専門家会合は2月末、住民に注意喚起を促すための暫定的な指針値などを決め、自治体に協力を呼び掛けた。その際に示した課題の一つが成分分析の充実だ。
こうした中、自治体支援を強化するのが環境コンサルタント業の環境管理センター(東京都八王子市)。同社は3月、東京都が発注するPM2.5の測定・分析業務を5年連続で受注したと発表した。同社は、濾(ろ)紙で採取した微量のPM2.5を慎重に扱い、温度や湿度が厳重に管理された部屋で専門家が分析するなど経験を積んできた。
同社首都圏支社の清水重雄・執行役員支社長は「PM2.5の発生源に有効な対策を取るためには、自動測定器といったハードだけでなく、精緻(せいち)に分析するソフト力も必要だ」と強調。自社の分析センターを生かし、PM2.5対策関連事業で年間売上高1億円をめざす。
富士通グループも、IT(情報技術)を活用した環境情報監視システムを約50自治体に納入してきた実績を通じ、ソフト力を磨く。同システムは、大気に含む汚染物質の濃度を常時監視し環境基準を超過した場合などに住民に警報する仕組みだ。
その一端を担う富士通クオリティ・ラボ(川崎市中原区)は、環境行政支援やコンピューター機器に悪影響を及ぼす腐食性ガスの調査経験を生かし、PM2.5の濃度測定から成分分析を行うサービスを昨年4月に開始。来年に累計30件の受注を狙う。
◆発生源解明へ
PM2.5の環境基準が告示されたのは2009年9月。これを受けて環境省は、同物質の試料を年4回の頻度でフィルターで採取し成分を分析する内容のガイドラインを策定した。同社はそれに沿って自治体のPM2.5分析を支援し、最終的に「質量に占める炭素成分や無機元素などの割合」といった組成データを報告してきた。
グループビジネス開発室長を務める木谷晃久執行役員は「来月から組成データを基に発生源を推定する活動も始めたい」と意気込む。想定される発生源は化石燃料を燃焼する国内工場から、海外からの移流までと多様だ。しかし割合が分かれば起源を突き止める可能性が高まる。
成分分析ビジネスが活発化する中、環境省も「蓄積したデータを生かす方策の検討に着手したい」(大気環境課)考えだ。ただ、財政難もあって自治体の取り組みは進んでいない。環境省が対策で連携する約130自治体のうち、成分分析を行う地域は3分の2にとどまる。
とはいえ国内の不安軽減だけではすまされない。日本総合研究所社会・産業デザイン事業部の三木優マネジャーは「アジア各国の経済発展を踏まえるとPM2.5による大気汚染は越境問題に発展する可能性がある」と指摘。その上で「政府がPM2.5対策で主導力を発揮する戦略をアジア全域の視点で考え民間のノウハウも役立てるべきだ」と力説する。
これまでも国境を越える環境対策に貢献するため、日本は自動車の排ガス規制強化などに対応する技術を磨いてきた。精度の高いPM2.5のデータを集積し、広域への拡散を予測する「シミュレーションモデル」を構築する展開が官民連携で進めば、この分野でも存在感を高められるはずだ。監視網充実に続く成分分析の実行力も問われている。(臼井慎太郎)