TVの「ガラパゴス化」 作り手と受け手の段差

【from Editor】
 CSのディスカバリーチャンネルが主催する「科学映像シンポジウム」を聴く機会があった。中心テーマは科学ドキュメンタリーだったが、一般のテレビ番組を意識した発言が多く、興味深かった。
 「ガラパゴス化」。パネリストの一人でTBSニュース23クロス編集長の萩原豊氏は、日本のテレビ番組の状況をそう表現した。大陸から遠く離れているために、生物が独自進化を遂げたガラパゴス諸島になぞらえ、日本で携帯電話などが独自発展している状況を指して使われることの多い言葉だ。テレビでも1億2千万という国内市場を背景に、国内でのみ流通する番組作りが行われているというのである。
 これはお笑いタレントを起用したバラエティー番組などを念頭に置いた発言だろう。もちろんそうした番組を否定するものではないが、「地上波テレビはマスを相手にしているためにポピュリズムに陥りやすい」(元ディスカバリー・ジャパン会長の沼田篤良氏)というのも事実だ。
 一方、萩原氏は「リーマン・ショック以降、視聴者は考える番組を敬遠するようになった」とも述べた。本当にそうだろうか。「日本では制作予算の多くがタレントに使われ、番組の作り込みが難しい」という番組制作会社「テレビマンユニオン」プロデューサーの高橋才也氏が指摘する問題の方が大きいようにみえた。最近の週間視聴率ランキングで、「サザエさん」やNHKの大河ドラマなどが上位の常連となっているのは「見たい番組が少ない」という視聴者の叫びの表れではないか。
 シンポでは面白い試みもあった。NHKが制作するマダガスカルの自然をテーマにしたドキュメンタリーで、導入部分の映像をそのままディスカバリーチャンネルに渡し、ディスカバリーが編集したものとNHKの編集によるものとを比較上映したのだ。
 NHKは淡々と自然を映しながら、ゆっくりとその映像世界に入っていけるように編集されていた。ディスカバリーは印象的な映像を断片化し、突きつけるように次々と提示する。会場の反応は半々、むしろディスカバリーの映像を支持する人が若干多かったように見受けられ、NHKのプロデューサー氏をあわてさせた。
 本当に視聴者が求めるものを推し量るのは難しい。しかし、「こんなものでいいだろう」と作り手が思った瞬間に、視聴者の意識は離れていくと思う。(大阪文化部長 深堀明彦)

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