TV業界、戦々恐々 派遣労働見直しで最長3年

テレビ番組の制作現場が、政府が進める派遣労働の見直しに戦々恐々としている。厚生労働省の有識者研究会(座長・鎌田耕一東洋大教授)が8月、最終報告書に26の専門業務区分の撤廃を盛り込んだことで、従来「専門性が高い」としてディレクターやアナウンサーとして長期間働き続けることができた派遣労働者が、3年で職を失う可能性が出ているからだ。制作現場や有識者からは「考え直すべきでは」との声も上がっている。(本間英士)
 ■ディレクター・アナウンサー…現場の要「番組が死ぬ」
 「派遣スタッフの中には番組創設時から中心にいて、その人がいなくなれば『番組が死ぬ』ほど重要な人がいる。最終報告書の通りに改正されれば、現場にとって死活問題になる」
 東京都内のテレビ制作会社に所属し、大手テレビ局にAD(アシスタントディレクター)として派遣されている30代の男性はこう話す。有期契約で、現在5年以上にわたり同じ番組を担当しているという。
 男性によると、制作現場でテレビ局の社員は派遣スタッフへの指示と査定が主な仕事で、実作業に携わるのは派遣スタッフが多いという。彼らは情報番組など同じ分野で長期間働いているため経験豊富で、現場の要になっている。
 別の30代の男性派遣ディレクターは、最終報告書の通りになれば「人材育成の点でも問題がある」と指摘。現場では「3年目にようやく動き方が分かり、上からも信頼される」といわれており、男性は3年で職場が変われば「経験や人脈が生きてこない。3年で一からキャリアを積み上げるのは厳しい」と語る。
 最終報告書では「時代が変わり、専門性の判断が難しくなった」として「26業務」の区分を廃止し、他の業務と同じく最長3年の制限を設けることを提言している。厚労省側はその意図を「最大3年ごとに職場を変えることで、派遣の方にキャリアアップを図ってもらえる」と説明する。
 派遣には、実質無制限に働き続けられる「無期契約」もある。しかし無期契約を結べるのは「プロデューサーやベテランなど一部に限られる」(制作会社関係者)という。
 政府は年内に労働政策審議会(厚労相の諮問機関)で結論をまとめ、来年の通常国会で労働者派遣法の改正をめざす考え。厚労省需給調整事業課は「最終報告はたたき台。今後労使双方の関係者らを交えて議論を深めたい」としている。
 テレビ業界に詳しい上智大の碓井広義教授(メディア論)は「最終報告書が実現すれば、番組の質が下がる可能性が高く、人材育成への影響でテレビ業界全体の地盤沈下を引き起こす恐れがある。現場の意見を聞いて、議論を重ねるべきだ」と話している。

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