2次元のキャラクターに扮(ふん)して動画の投稿や配信を行う「Vチューバー」のマネージメントなどを手掛けるANYCOLORの株価が上昇基調だ。創業者の田角陸氏は26歳で、保有株式の時価が10億ドル(約1490億円)を超すビリオネアとなった。
ANYCOLORは2017年5月に設立。月ノ美兎や壱百満天原サロメら140人以上のVチューバーが参画するプロジェクト「にじさんじ」の好評などで事業規模を拡大し、今年6月8日に東証グロース市場に上場した。
9月14日に公表した上場後初となる5-7月期(第1四半期)の営業利益は21億円と、前期(22年4月期)実績の42億円の半分を稼ぎ営業利益率は約36%に達した。増益の背景には英語圏向けの売上高が前年同期比で大幅に増え、営業レバレッジが改善したことがあり、今期(23年4月期)の営業利益も55億-65億円と大幅な成長を見込んでいる。
株価はそれを受けて大幅な上昇基調となり、一時初値から約2.7倍まで上昇。田角氏は9月下旬までにビリオネアとなった。
ANYCOLORの資料によると、発行済み株式総数の45.33%を保有する田角氏の資産は上場直後の株価上昇に伴い1000億円を超える場面もあったが、最近の円安進行もあり、円ベースで資産が増加してもドル換算では10億ドルに届かない状況が続いていた。
企業価値でキー局越え
19日の終値は前日比2.4%安の1万2070円と4営業日ぶりに反落した。終値ベースの時価総額は約3620億円と、グロース市場全体の時価総額ランキングで転職サイト「ビズリーチ」運営などを手掛けるビジョナルに次いで2位に付けている。既存のメディア企業との比較では在京キー局首位の日本テレビホールディングスを上回っており、田角氏の保有株の価値は1700億円近くまで膨らんでいる。
松井証券の窪田朋一郎シニアマーケットアナリストは、ユーチューブの動画配信で収益化できている企業は多くないが、ANYCOLORに関してはグッズ販売なども含めてうまく利益成長につながっていると分析。日本のアニメ技術は、欧米企業に比べて絵柄の質が高いことでも評価されているのではないかと述べた。
Vチューバーは海外でも市民権を得てきており、海外売上高が足元で大きく伸びていることが決算で確認されたことも株価上昇の要因で、海外で稼ぐと利益が大きく膨らむ状況だと指摘。日本のサービス企業で円安がプラスに働く会社は少なく、今後大きく成長できる可能性はあるとした。
ANYCOLORの事業モデルは、仮想現実(VR)版のタレント事務所でVチューバーの発掘から育成、管理を手掛けてユーチューブ上の番組配信で広告収益を得るほか、一般のタレントと同様にファンクラブやグッズ販売、企業とのタイアップ企画などからの収入もある。
配信の内容はゲームの実況プレーのほかトークや音楽演奏などがメーンで、ユーチューブのスーパーチャット機能を使って視聴者が「投げ銭」としてVチューバーに一定額のお金を贈る行為も普及しており、これも有力な収入源となっている。
コンテンツ市場調査を行うヒューマンメディアの長谷川雅弘氏はANYCOLORについて、大規模な設備を必要とせず、収益性が高いタレント事務所という業態に加えてVチューバーという新しい分野だけに、米テスラと同じような「未来への期待」を背景に株価が上昇しているとの見方を示す。
NFT(非代替性トークン)、メタバースなど急成長が見込まれる新技術との親和性も高いとみて、投資価値が見いだされているのだろうと述べた。
魔法のような、新体験
一方、長谷川氏はVチューバーの体や表情の動きなどに関して、ANYCOLORの技術は業界の中でも特に高いわけではないとも指摘。凝った技術を導入するとコストが高くなるとした。松井証券の窪田氏は成長の持続性について、今後の決算を見極める必要があると述べた。
ANYCOLORに田角氏への取材を依頼したが、実現しなかった。広報担当部署に記事に対するコメントを求めるメールを送ったが、現時点で返答は得られていない。
田角氏は公式ウェブサイトでVチューバービジネスに目を付けた経緯について、「ユーザーが主に接するメディアの変化、テクノロジーの進歩がきっかけ」だったと説明している。
日本のアニメコンテンツは、世界に誇れる数少ない産業の一つと考えているとも強調。それを「アップデート」し、今後は日本だけでなく世界中に同社のミッションである「魔法のような、新体験を」提供し、「日本を代表するグローバルカンパニー」を目指すとした。
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