組織の中に一定数存在する「めんどくさい人」にどう対処したらいいのか。心理学者の内藤誼人さんは「例えば、会議で議論の本質とは異なる小さなことにこだわり、重箱の隅をつつく質問攻めをする人がいます。そうした人を上手にかわすには元英首相のサッチャーさんの実践例が参考になります」という–。
※本稿は、内藤誼人『めんどくさい人の取扱説明書 人間関係がラクになる58のコツ』(きずな出版)の一部を再編集したものです。
■めんどくさい人のトリセツその1:矢継ぎ早に詰問してくる人
<特徴>
・答えられないことを質問してくる
・相手もそれをわかって質問してくる
・早口な人が多い印象
私は、あまりテレビの国会中継を見るのが好きではない。
とくに、野党の政治家が、重箱のすみをつつくように質問攻めにしている様子は、お世辞にも上品とはいえない。
文句をいって、政権与党のイメージをくずそうとするのも野党の仕事だということはわかるのだが、「相手をやっつけるためだけにしている質問」をくり返しているような気がする。
私はそういう場面をあまり見たくないので、しずかにテレビを消してしまう。
「『検討する必要がある』って、具体的にどう検討するんですか!」
「『全員参加の体制をつくる』って、全員とはどこまでをいうんですか!」
こういう質問は、ただ相手をやっつけるためだけの質問のように感じる。
相手がなにを答えても、もともと受け入れる気持ちなどないのだから、答えるだけムダである。
つまり、無益な質問に、えんえんとつき合わされるだけなのだ。これを不毛といわずして、なにを不毛というのか。あまりにしつこく詰問されるので、質問に答える人間が、
「そういう、こまかいことは……」
といおうものなら、
「こまかいこと、とはなんですか! 疑問点はすべて明らかにしておかないと、承知できないのは、当たり前じゃないですか!」
と、さらに食ってかかられるのだから、ほとほとうんざりする。
では、こういう手合いを相手にするときには、どうすればいいのだろうか。
英国ヨーク大学のピーター・ブル博士は、質問をじょうずにかわすことで有名なサッチャー元首相のインタビューを研究し、いくつかの有効な方法について明らかにしている。
それをみなさんにご紹介しておこう。
ひとつめの方法は、相手の質問に攻撃をする方法だ。
「それは仮定の話にすぎませんよね。仮定の話にはお答えできません」
「その質問は、まちがった前提に立っていますね」
「その質問は、不正確ですね」
「その質問は、いまの状況とは、ぜんぜん関係がないですよね」
などと攻撃すれば、相手の質問はやむ。
つぎの方法は、質問に質問をかぶせる方法だ。
「もっと明確に質問してくれませんか」
「抽象的すぎてわかりません。なにか具体例をあげてくれませんか」
などと切り返せば、相手をしどろもどろにさせることもできる。
さらに、相手に質問をさせないという方法もある。
「なるほど、ですが、私の話はまだ途中ですから」
といって、相手に連続で質問をさせずに、ひとつめの質問について、自分で好き勝手なことをしゃべってしまうのである。
これらの切り返し戦術を知っておけば、少しは相手からの詰問にも耐えられるようになるかもしれない。ただし、重箱のすみをつついてくる人は、あなたと議論をしたいのではなく、ただやっつけたいと思っているだけかもしれない。
そういう人だとわかったら、議論などをせず、さっさと負けを認めてしまったほうがいい。
議論をするだけムダなので、最初から議論の土俵にのらなければいいのである。◆矢継ぎ早に詰問してくる人の取り扱い方法
さっさと負けを認めて議論を終わらせよう
■めんどくさい人のトリセツその2:かんたんなことを聞いてくる人
<特徴>
・自分で調べる努力をしない
・なんでも教えてもらえると思っている
・回数が重なるとめんどくさくなる
インターネットで調べればすぐにわかるというのに、自分で調べようとせず、こちらに質問してくる人がいる。
べつに調べる手間はそれほどかからないので、かまわないといえばかまわないのだが、それが積み重なってくると、しだいにイライラしてくる。
1回や2回であれば、笑ってゆるせても、何度もつづくと精神的ダメージを与えることを、アメリカのカウンセラーたちは「マイクロトラウマ」とよんでいる。小さなことでも、積み重なると大きなストレスになるのだ。
では、そういうタイプにイライラさせられないためには、どうすればいいのか。
かんたんな話で、こちらからも相手にあれこれとやってもらうのである。私たちは、「自分ばかりが一方的に利用されている」と思うから、腹が立つのである。同じように相手を利用してやれば、「持ちつ持たれつ」「ギブアンドテイク」という関係が成り立つので、腹が立たなくなるのである。
相手に、ひとつ、めんどくさいこと(自分で調べずにこちらに質問してくる、など)をお願いされたら、こちらからもひとつ、めんどくさいことを相手に求めればよい(自分のためにコーヒーを買ってきてもらう、など)。ひとつお願いされたら、こちらもひとつお願いをする。
こういう関係性を持つようにすれば、マイクロトラウマなどは感じなくなる。なぜなら、おたがいに、おたがいを便利につかうことができるからだ。米国ラトガース大学の心理学者ジェニファー・タイスは、おたがいにパートナーのためになにかをしてあげたり、してもらったりしているカップルのほうが、ずっと幸せであることを確認している。おたがいに依存しあっていれば、私たちはハッピーでいられるのだ。
「まったく、あいつは自分で調べようとしないで、いつも私に質問してくる!」
と目くじらを立てるのではなく、こちらからも小さなお願いをどんどんしていけばいいのだ。彼が自分のお茶をいれようとしているなら、「あっ、ぼくにもついでにいれて」とお願いすればよい。
そうやって、おたがいにギブアンドテイクの関係を築くことができれば、いちいち自分に質問してきたとしても、まったくなんの痛痒(つうよう)も感じなくなる。政治や外交もそうで、日本人の多くはいろいろな要求や注文をつきつけてくるアメリカに、にがにがしい気持ちでいることが多いと思うが、べつにガマンなどせず、こちらからもバンバン要求や注文をつきつけてやればいいのである。
一方的に要求を呑まされるから気に入らないのであって、こちらも同じように要求をぶつければ、相手からなにを要求されても気にならなくなるのだ。◆かんたんなことを聞いてくる人の取り扱い方法
自分からも、かんたんなことをお願いしよう
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内藤 誼人(ないとう・よしひと)
心理学者
立正大学客員教授、有限会社アンギルド代表取締役社長。慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。社会心理学の知見をベースに、ビジネスを中心とした実践的分野への応用に力を注ぐ心理学系アクティビスト。趣味は手品、昆虫採集、ガーデニング。『すごい! モテ方』『すごい! ホメ方』『もっとすごい! ホメ方』(以上、廣済堂出版)、『ビビらない技法』『「人たらし」のブラック心理術』(以上、大和書房)、『裏社会の危険な心理交渉術』『世界最先端の研究が教える すごい心理学』(以上、総合法令出版)など著書は200冊を超え、、近著に『めんどくさい人の取扱説明書』(きずな出版)がある。