「やりたくない仕事」を気持ちよく断る8つのレパートリー

引き受けたくない仕事を上手に断るコツはあるのか。米シリコンバレーでアップルやグーグルなどのコンサルティングをしているグレッグ・マキューン氏は、「断り方がうまい人は、他人から尊敬される。上手な断り方の8つのレパートリーをお教えしよう」という――。

※本稿は、グレッグ・マキューン『エッセンシャル思考』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

※写真はイメージです – 写真=iStock.com/Wuka

■周囲の期待やプレッシャーに負けて、不本意なイエスを言っていないか

少ない時間とエネルギーで最大の成果を出すための考え方を「エッセンシャル思考」という。非エッセンシャル思考の人は、周囲の期待やプレッシャーに負けて、不本意なイエスを言ってしまう。よく考えもせず、相手を喜ばせるためだけに仕事を引き受ける。

単純に、そのほうが気分がいいからだ。

一方、エッセンシャル思考の人は、そうした気分のよさが長続きしないことを知っている。一瞬の満足のあとでやってくるのは、深い後悔だ。なぜこんなことをやらねばならないのかと、相手を恨み、自分を責める。もっと重要な仕事が犠牲になったことに気づき、ショックを受ける。

あらゆる依頼を断れと言っているわけではない。本当に重要なことをやるために、本質的でない依頼を断るのだ。

肝心なのは、絶対にやるべきこと以外のすべてに対して、上手にノーと言うことである。

では、どうすれば上手に断ることができるのだろうか。いくつかのコツと実例を紹介しよう。

■「イエスと言ったら自分は何を失うか」を考える

・判断を関係性から切り離す

誰かに何かを頼まれたとき、私たちはそれを関係性の問題だと思ってしまう。頼みを断ることが、相手を拒絶することだと感じてしまうのだ。この2つを分けて考えなくてはならない。

関係性から切り離して考えたとき、判断はより明確になり、それを伝える勇気と思いやりも生まれてくる。

・直接的でない表現を使う

「ノー」という言葉を使わなくても、ノーを言うことは可能だ。時には直接的な表現を避けて、やんわりと断ることも必要になる。「声をかけてくれてうれしいのですが、あいにく手がいっぱいで……」「行きたいのは山々ですけど、時間があるかどうか……」

・トレードオフに目を向ける

ここでイエスと言ったら、自分は何を失うのだろうか。そのトレードオフに目を向ければ、中途半端なイエスは言えなくなる。どんな判断をするときも、機会コストを忘れてはならない。「もしもこれを選んだら、別のもっと価値あることができなくなる」ということだ。全部やってみよう、という非エッセンシャル思考の罠にはまってはいけない。すべてをやることは不可能だ。失うものを冷静に計算し、納得できる答えを出そう。

・誰もが何かを売り込んでいる

人はみな、何かをあなたに売り込もうとしている。人間不信になれとは言わないが、それが事実だ。商品にかぎらず、物の見方や特定の意見を売り込んでいることもある。相手が何を売り込もうとしているのか、自分はそれによって何を失うのか。それを意識して、より合理的な判断をしよう。

■断ることは「自分の時間を安売りしない」というメッセージ

・好印象よりも、敬意を手に入れる

ノーを言うことで、短期的に相手と気まずくなることはある。相手は「これをしてほしい」と思っているのだから、やはり断られたらがっかりする。それは事実だ。だが、長期的に見ればポジティブな面もある。短期的な気まずさと引き換えに、相手の敬意を手に入れられるからだ。うまく依頼を断ることは、「自分の時間を安売りしない」というメッセージになる。これはプロフェッショナルの証だ。

有名グラフィックデザイナーのポール・ランドは、スティーブ・ジョブズの依頼にノーを言ったことがある。1985年に立ち上げたNeXT社のロゴを探していたジョブズは、数々の有名企業のロゴを手がけていたランドに連絡をとり、「いくつか候補を出してほしい」と依頼した。けれどもランドは、いくつも候補など出さない、とジョブズに告げた。

「仕事はしますよ。それで気に入らなければ、使わなくてもかまいません。候補がいくつもほしいなら、ほかを当たればいい。私は、自分の知るかぎり最高の答えをひとつだけ出します。使うかどうかの判断は、そちらでしてください」

そしてランドは「これしかない」という答えを出し、ジョブズを感動させた。一度はノーと言われて苛立ったジョブズだが、のちにランドについてこう語っている。

「彼は私が知るなかで最高にプロフェッショナルな人間だ。プロとして、クライアントとの関係のあり方を徹底的に考え抜いている」

ジョブズにノーと言ったとき、ランドは熟慮のうえでリスクをとった。そして目先の好印象と引き換えに、長期的な敬意を手に入れたのだ。

エッセンシャル思考の人は、みんなにいい顔をしようとしない。時には相手の機嫌を損ねても、きちんと上手にノーを言う。長期的に見れば、好印象よりも敬意のほうが大切だと知っているのだ。

・あいまいなイエスはただの迷惑

何かを依頼したことのある人ならわかると思うが、あいまいなまま引き延ばされるよりも、はっきり断られるほうがずっといい。できないとわかっているのに「うまくいくように動いてみます」とか、「たぶん大丈夫だと思うんですけど……」などと言っておいて、結局できないというのが最悪だ。あいまいにしておいて結局断るくらいなら、その場ですぐに断るほうがいい。相手へのダメージもずっと少なくてすむ。

■断り方のレパートリーを増やす

エッセンシャル思考の生き方は、ノーを言いつづける生活だ。だから、上手な断り方を何種類も身につけておいたほうがいい。以下に、8つの例を紹介しよう。

1.とりあえず黙る

気まずい沈黙を怖がらず、沈黙を味方につけよう。誰かに何かを頼まれたら、少しだけ黙ってみるのだ。ゆっくり3つ数えて、それから自分の意見を言う。もう少し慣れたら、相手が気まずくなって何か言うまでじっと待ってみよう。

2.代替案を出す

代替案を出して、相手に歩み寄りながら断ろう。先日メールでお茶に誘われたとき、私はこう答えた。

「今は本の執筆で手いっぱいなんです。でも、書き終わったらぜひご一緒させてください。夏の終わり頃でどうでしょう?」

メールは、ノーを言う練習にちょうどいい。文章を何度でも推敲できるし、直接顔を見なくてすむからだ。

3.予定を確認して折り返します

ある知り合いの女性は、有能であるがゆえに誰からも便利に使われていた。非エッセンシャル思考の典型のような人で、能力があるものだから、何でも引き受けてしまう。周囲の人はそれを知っているので、何かあると彼女に頼ろうとする。「このプロジェクトが大変なので、手を貸してくれませんか?」と言われると、彼女はついイエスと言ってしまう。仕事を抱えすぎて、ストレスばかりが増えてくる。

そんな彼女の生活を変えたのは、「予定を確認して折り返します」という言葉だった。

いったん時間をおいて考えると、断ることが容易になる。その場でつい引き受けてしまうことがなくなり、自分のペースで仕事ができるようになった。

■上司からの依頼にはどう断るか?

4.自動返信メール

休暇中や外出中に自動返信メールを使う人は多いと思う。今は返信できないので、あとで折り返しますというものだ。受けとったほうもいやな気持ちにならないし、とても洗練された断り方である。それなら、休暇中にかぎらず普段から自動返信メールを使ってみてはどうだろう?

私はこの本を書いているあいだ、「執筆のために隠遁中」という件名の自動返信メールを設定していた。「現在、本の執筆に忙殺されております。返信が遅くなりますが、どうかご理解ください」

驚いたことに、誰も怒らなかったし文句を言わなかった。執筆が終わるまで返信できないという事実を、そのまま受け入れてくれたのだ。

5.どの仕事を後まわしにしますか?

上司からの依頼は断りづらいものだ。機嫌を損ねたら、どうなるかわからない。それでも、無理な状況で仕事を引き受けてしまうと、結果はよけいに悪いことになる。目の前の依頼を断らなければ、もっと重要な仕事が駄目になるかもしれないのだ。

単にノーと言うのが難しければ、上司にトレードオフを意識させよう。

たとえば、「はい、ではこの仕事を優先でやります。今抱えている仕事のうち、どれを後まわしにしましょうか?」。

あるいはこんなふうに断ってもいい。

「今かなり仕事を抱えているので、これを無理やり差し込むと品質が落ちてしまいます」

私の知り合いも、部下にそうやって断られたと言っていた。筋の通った断り方に納得し、その仕事は別の何でも引き受ける部下にまわしたそうだ。

■親しい間柄ならではの断り方もある

6.冗談めかして断る

親しい間柄なら、冗談めかして断ってしまえばいい。友人からマラソンに誘われたとき、私は「絶対無理!」と言って断った。友人は「まったく、きみらしい答えだね」と笑ってくれた。普段からエッセンシャル思考をアピールしておくと、こういうときに話が早くて助かる。

7.肯定を使って否定する

喜んで引き受けるふりをして、実は断るという高度なテクニック。たとえば「どうぞ僕の車を使ってください。キーを置いておきますね」。親切な言葉を使いながら、運転は引き受けないという意志をきっぱりと表現している。いくらかは力になりたいが、全面的に巻き込まれたくない場合にきわめて有効だ。

■ノーを言うことは優秀な人の必須スキル

8.別の人を紹介する
「僕は無理ですけど、彼は興味を示すんじゃないかな」と言って、別の人にまわしてしまおう。自分を見込んで特別に頼んでくれたと思いたいところだが、実際は誰がやってもいい場合がほとんどだ。

グレッグ・マキューン『エッセンシャル思考』(かんき出版)

アパレル大手のアンを経営するケイ・クリルは、社交の誘いを断るのが大の苦手だった。まったく興味のない交流イベントに参加することもしょっちゅうだった。会場に入った瞬間、後悔することはわかっているのに。

そんなある日、信頼する先輩に「断らなければ駄目だ」と言われた。どうでもいい人やイベントを切り捨てて、本当に意味のあることに100%の力を注ぎなさい、と。それを聞いて、彼女は心が軽くなった。選り好みをしてもいいのだ、と思えるようになった。

やってみると、誘いを断るのは思ったより簡単だった。

「何が重要かを考えたら、断ることは怖くなくなりました。もっと早く気づけばよかった」

ノーを言うことは、優秀な人の必須スキルだ。どんなスキルでもそうだが、はじめはうまくいかないこともある。それでも練習するうちに、だんだん技術が身についてくる。試行錯誤を重ね、腕を磨いていけばいい。そのうちに断り方のレパートリーも増えて、そつなく断れるようになるはずだ。どんな相手からのどんな依頼も、上手に断ることはできる。

最後に、ハイドリック・アンド・ストラグルズ社のトム・フリールCEOの言葉を引用しよう。

「われわれに必要なのは、もっとゆっくりイエスを言い、もっとすばやくノーを言うことだ」

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グレッグ・マキューンTHIS Inc. CEO
「少ない時間とエネルギーで最大の成果を出す」というエッセンシャル思考の生き方とリーダーシップを広めるべく、世界中で講演、執筆を行う。また、アップル、グーグル、フェイスブック、ツイッター、リンクトイン、セールスフォース・ドットコム、シマンテックなどの有名企業にコンサルタントとしてアドバイスを与えている。ハーバード・ビジネス・レビューおよびリンクトイン・インフルエンサーの人気ブロガーでもある。スタンフォード大学でDesigning Life, Essentiallyクラスを開講。著書の『エッセンシャル思考』(かんき出版)と共著書『メンバーの才能を開花させる技法』(海と月社)の原書は、ともに米国でベストセラー入りしている。
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(THIS Inc. CEO グレッグ・マキューン)

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