「カワサキ」バイクは、なぜ急回復したのか 新興国で″趣味″としての需要が拡大

川崎重工業の2輪(バイク)事業に元気が戻ってきた。
2013年度の同社「モーターサイクル&エンジン」部門の売上高は3100億円と前期から2割以上増え、部門営業利益は130億円(前期は23億円)前後まで改善する見込みだ。利益貢献額は、旅客機の構造部位などを製造する航空宇宙部門(250億円)に次いで大きく、今後も成長が期待されている。
総合重機メーカーの川崎重工にとって、2輪は唯一の消費者向けビジネス。最大のボリュームゾーンである小型は手掛けておらず、スポーツ・レジャー用途の中大型バイクに特化している点が特徴だ。
このため、2012年度の販売台数は50万台と、ホンダ(1549万台)やヤマハ発動機(609万台)、スズキ(231万台)に比べて格段に少ない。ただ、中大型分野では「NINJA(ニンジャ)」シリーズを中心に海外でも高い知名度を誇る。
■4年連続で赤字を計上
かつて2輪事業といえば、川崎重工の最大の稼ぎ頭だった。得意の欧米市場で単価の高い大型バイクが売れ、2007年度までは安定的に200億円前後の利益を上げていた。
が、リーマンショックを契機に欧米で需要が激減したうえ、円高進行も打撃となり、2008年度からは4年連続で赤字を計上。業績不振を受け、東南アジアへの生産移管を加速する一方、モータースポーツバイクの世界最高峰レース「モトGP」からの撤退も余儀なくされた。
その2輪事業の収益が回復してきた理由は2つ。1つは、一連の構造改革で損益分岐点が下がったところに円高是正の追い風が吹いたこと。もう1つが、新興国での販売拡大だ。
2013年度の川崎重工の2輪総販売台数は約55万台(推計ベース)と、前年から1割拡大。依然として欧米市場の回復が鈍い中、新興国での販売が約41万台(前期は35.7万台)に増え、全体を牽引した。
同社2輪の新興国販売台数の2ケタ成長は4年連続で、水準としては4、5年前に比べてほぼ倍増。全販売台数に占める新興国の構成比は今や7割以上、金額ベースでも4割を超えるまでになっている。
■趣味としての需要高まる
その大半は、インドネシアやフィリピン、タイを中心とする東南アジアだ。同社の2輪事業を率いる紀山滋彦・常務執行役員は、「東南アジアで2輪と言えば、日常生活に欠かせない移動手段としての小型2輪が常識だった。しかし、近年は経済成長で所得水準が上がり、趣味として中大型バイクを楽しむ文化が着実に広がっている」と分析する。
代表例がインドネシア。同国の2輪市場規模は台数ベースでインド、中国に次いで大きく、年間で約770万台に上る。そのほとんどは川崎重工が手掛けていないスクタータイプなどの小型実用バイクだが、スポーツ・レジャー用の中大型バイクも市場規模が年間100万台を超えるまでになった。主な購入層は20~30代の男性だ。
川崎重工はこのインドネシアを最重点攻略地域と位置づけ、ジャカルタなどの都心部でPRイベントを定期的に開催。現地の所得水準ではまだ大型バイクは手が届きにくいため、インドメーカーにOEMで作らせた排気量200CCの機種をインドネシア専用モデルとして投入するなど、中型サイズのラインナップを拡充。こうした施策により、150~250CCを中心に同国での販売台数は年間15万台まで増え、2輪事業の牽引役となっている。
■中国市場にも参戦
さらに新たな市場として、昨年から市場規模の大きな中国での2輪販売にも乗り出した。中国では中大型サイズでも現地メーカーの極端に安いバイクが人気を集め、自動車と違って、日本や欧州メーカーは苦戦を強いられている。
川崎重工ではタイや日本から中国に中大型バイクを輸出し、現地に設立した販社を通じて、上海などの都市部を中心に販売。世界的なブランド力や性能の高さをアピールするとともに、現地ディーラー網の整備を急ぎ、5年以内に最低でも年間5000台以上の販売を目指す。
大きな柱へと育った東南アジアに続き、中国市場も攻略できるかどうかが、中長期的な事業成長の大きなカギとなりそうだ。

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