「トヨタのできる人」が365日実践する3大習慣

昨今、「生産性向上」が日本企業の大きなテーマになっています。しかし、「実際に生産性を上げるためにどうすればいいの?」と悩むビジネスパーソンも少なくありません。

1兆8311億円(2017年3月期)もの純利益を生み出す一方で、1台の自動車を60秒足らずで生産し、生産性向上に日々努めてきたトヨタでは、どのような方法で生産性を高めているのでしょうか。トヨタで40年の経験をもつトレーナーたちが日々実践してきた習慣を紹介した『仕事の生産性が上がる トヨタの習慣』の中から、トヨタのできる人が日々実践している習慣を3つ紹介します。

習慣①ラクをする

当然ですが、仕事は大変である必要はありません。同じ成果を得られるのであれば、「ラク」に仕事ができたほうがよいに決まっています。実は、トヨタでは生産性の高い仕事をしている人ほど、ラクに仕事の成果を出せるよう日々改善しているのです。

トヨタ生産方式を支えているのが、「改善」です。徹底的にムダを省き、生産効率を上げるために、今よりもさらによいやり方に変えていく。この改善活動に全社員で取り組んでいるところに、トヨタの大きな強みがあります。

改善は、言い換えれば、現場の「困った」を解決することでもあります。どんな仕事にも「困っていること」があるはずです。「これまでずっとこのやり方で続けてきたから」という理由で、しかたなく続けている作業も存在します。

OJTソリューションズのトレーナーが改善指導を行っている企業で、こんなことがありました。ある部品を取り付ける生産ラインでは、作業者が毎回、床に置かれた箱の中から部品を取り出していました。そのたびに、作業者はかがまなければならないので、ひざや腰に負担がかかります。しかし、ずっとこの方法で作業をしてきていたため、作業者は「そういうものだ」とあきらめ、不満を口にすることなく、この動作を繰り返していました。

そこでトレーナーは、作業者がわざわざかがまなくても部品を取り出せるように、作業台の上に部品を置くスペースをつくるようアドバイスしました。すると、体をほとんど動かすことなく、部品を取り出せるようになり、作業スピードもアップ。何より作業者が、「これまでよりずっとラクになった」と喜んでくれました。

トヨタでのキャリアが40年を超えるトレーナーの井上陸彦は、こう言います。

「困りごとは、改善を生む“金の卵”です。現場で困っていることに手をつけて、ラクに仕事ができるように変えていく。困りごとの改善を繰り返すことによって、力を抜いて快適に仕事ができるようになるのです。また、そうすることで、短い時間で正確な仕事ができるようになります」

「ラクになる」ことを嫌がる人はいません。モチベーションのアップにもつながるため、自ら知恵を絞り、動くようになります。リーダーが部署の生産性を上げたいなら、「生産性が上がる」などと言うよりも、「ラクになるよ」と部下に言ってあげるほうが効果的です。

オフィスワークでも、面倒だけれど続けている仕事、時間ばかりかかって苦痛な仕事など困っていることがあるのではないでしょうか。

たとえば、飛び込み営業。新人営業だと度胸をつけたり、ベテラン営業でも今までにない切り口のニーズを発見できるというメリットもあります。しかし、昔から行われてきた手法ではあるものの、断られてばかりで効率が悪いと感じている営業担当者であれば、SNSなどインターネットを活用したり、セミナーと称してお客様を集めたりすることを検討してみる。「飛び込み営業がうちの伝統だ」といった理由だけで続けているのであれば、やり方を変えると、よりラクに成果が出るかもしれません。

「会議が多い」「会議が長い」といった悩みを抱えているなら、ほかの方法で代替できないかを考えてみる。報告がメインの会議であれば、メール連絡のみで済むかもしれません。あるいは、そもそも必要のない会議があるかもしれません。

「こっちのほうがラクになるのではないか」という発想をもつことによって、仕事の改善は進み、生産性の高い仕事ができるようになるのです。

習慣②スキルを「視える化」する


スキルを一覧にした「星取表」

1人の社員しかできない――。そんな仕事があると、その人材が退職や異動などの理由で職場を離れると、ちょっとした混乱状態になり、生産性も低下していきます。

そうした事態を避けるために、トヨタでは、それぞれの部署のメンバーが、どんなスキル(技能)をもっているのかをマトリックス表にしてまとめています。つまり、個人のスキルを「視える化」しているのです。

スキルを一覧にした表を「星取表(ほりとりひょう)」といいます。メンバーがそれぞれのスキルに対して、どの程度習熟しているかを4分割した円で表します。

たとえば、「一人で作業ができる」なら1つ、「時間通りに作業ができる」なら2つ、「トラブル時に対応できる」なら3つ、「改善や部下指導ができる」なら4つ――というようにレベルによって、円内を塗りつぶしていきます(まだ1人で作業ができない状態なら、白いままです)。

「星取表」のメリットについて、トヨタで40年以上のキャリアをもつトレーナーの小倉良也は、次のように指摘します。

「星取表にまとめることによって、誰がどの作業を、どのレベルでできるのかがひと目でわかります。どのスキルをもっている人が不足しているのかも、一目瞭然になるため、管理監督者は、不足しているスキルができる人を育てることで、シフト管理や配置転換もしやすくなります。

特にトヨタでは、『優秀な人から社内横断プロジェクトなどを担当させ、外に出す』という習慣があります。その人材の穴埋めをするために、誰にどんなスキルを身に付けさせるかも、星取表とにらめっこしながら検討していきます」

「星取表」によるスキル管理は、どんな職場でも応用できます。営業の現場であれば、「商品知識」「プレゼン能力」「クレーム対応」「書類作成」など、必要とされるスキルを細分化し、星取表を作成します。これを部署内で視える化することによって、それぞれのメンバーがどんなスキルをもっているのかが一目瞭然となり、全体のバランスを見ながらスキルの習得を促すことができます。

また、個人のスキルを視える化することによって、メンバー1人ひとりが、自分のスキルはどのレベルなのか、どのスキルが足りていないのかに気づくことになるので、個人の危機感や向上心をかきたてることにつながります。

習慣③「さあ、どうしてやろうかな」が口ぐせ

短時間でラクに仕事をするだけが生産性向上に結びつくわけではありません。付加価値の高い仕事をすることも生産性向上のためには必要です。

仕事に真剣に取り組んでいると、ときに困難にぶつかることがあります。これまで経験したことのないような新しい仕事、背伸びしなければできないようなチャレンジングな仕事など……。これからの苦難を想像して、二の足を踏み、見て見ぬふりをしたいと考えるかもしれません。

しかし、トヨタでは、あえてむずかしいことに挑戦することが習慣化しています。そうした困難こそ、貴重な学びの機会ととらえているのです。

「トヨタには、困難を困難と考えない上司がたくさんいた」と話すのは、トヨタで40年以上の現場経験をもつトレーナーの中上健治です。

「私のトヨタ時代には、困難な事態に直面したときでも、決して弱気な発言をしない上司がいました。困難を前に立ちすくむのではなく、『さあ、どうしてやろうかな』と、すぐに問題を解決する方法を検討し始めるのです」

「私は当時、塗装の部門に所属していました。下や横に位置する面を塗装するのはむずかしくはなかったのですが、天井に貼りついている面を塗装するのは簡単ではありませんでした。塗料は液体なので、天井に吹きつけるとどうしても重力で垂れ落ちてしまうからです。この問題に直面したとき、多くの作業者は、『これはできない』と諦めモードでしたが、その上司は、『さあ、どうしてやろうかな』と言って、試行錯誤を始めました。そして、塗料が垂れ落ちないように斜め方向から少しずつ吹きつけるという方法で、この問題を解決しました。

今振り返ってみると、困難な問題に果敢に立ち向かう人ほど、技術も向上していきましたし、昇進もしていきました。むずかしいことにチャレンジすることで、その経験がその後の仕事にも生かされたのだと思います」

トラブルをどう解決するかで今後の仕事にも影響が

なかには、一生に一度しか経験しないような大きなトラブルに見舞われることもあります。そのような重大問題を前にして、及び腰で対処するのか、それとも前向きに解決に向けて動くのか。どちらを選択するかは、その後の仕事にも大きな影響を及ぼします。

 

まったく同じような問題は起きなくても、そのときに問題解決に奔走したことによって得られた経験は、別の機会で必ず生きてきます。トレーナーの中上は、こう続けます。

「私はロボットに塗装の作業を教える(ティーチングという)仕事もしていましたが、困難な仕事に果敢に立ち向かい、絶えず技能を磨いてきた人は、ロボットにティーチングするのも得意です。カンコツ(仕事をうまくやるための勘やコツ)を理解しているすぐれた技能をもつ人が教えると、ロボットはスムーズな動きで、ムダがない。一方、そうではない人が教えると、ムダな動きが多く、仕事の仕上がりにもムラがあります。誰がロボットにティーチングしたか、すぐにわかるくらい差が出るものです」

誰でもできる簡単な仕事ばかりしていたら、スキルは磨かれません。それこそロボットに代替されてしまいます。一方で、多くの人が逃げ出したくなるような困難に立ち向かうことが習慣化している人は、独自のカンコツを身に付けていきます。だから、工場の自動化、ロボット化が進んでも、その技術を生かすことができるのです。

チャレンジして失敗するかもしれない。しかも、すぐには生産性向上には結びつかないかもしれない。しかし、チャレンジした経験は必ずどこかで生き、付加価値の高い仕事を生みます。「さあ、どうしてやろうかな」。問題に直面するたびに、こんな言葉をつぶやくことが習慣になれば、日々成長できるだけでなく、結果的に生産性の高い仕事につながるのです。

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