「マツコ×夜の巷」がここまで人気になる理由

テ レビ朝日系で毎週木曜深夜0時15分から放送している「夜の巷を徘徊する」(一部地域を除く)。レギュラー番組を数多く抱える人気タレントのマツコ・デ ラックスが、その名のとおり、夜の街をブラブラ歩いて、気になる店に入ったり、通りすがりの人に声をかけてみたりなどの様子を放送する番組だ。

2015年4月に深夜枠でスタートして半年とまだ歴史は浅いものの、毎週木曜よる11時15分から同じくテレ朝系で放送している人気トーク番組「アメトーーク!」の直後という時間帯のよさも手伝ってか、「夜の巷を徘徊する」は早くも人気番組に成長した感がある。

10月1日(金)には、早くも初のゴールデン進出を果たした。夜7時からの3時間特番で放送され、平均視聴率は12.7%を記録。同時間帯に放送された 「あのニュースで得する人損する人」(日テレ系、12.4%)、「プレバト!!才能ランキング」(TBS系、12.6%)、「VS嵐」(フジテレビ系、 9.7%)など他局の番組を押さえたのだ。競合の他局がアイドルや芸人を大挙動員したのに対し、「夜の巷を徘徊する」で起用したタレントは基本的にマツコ 1人。コストパフォーマンスを考えてもかなりの優良番組といえるだろう。

「街歩き番組」は数々あれど、こちらの番組の特徴はマツコが夜の街を歩くところにある。昼と夜では街の顔が変わる。だから同じ場所を歩いていてもどこか新 鮮さがあり、ほかの「街歩き番組」とはまた異なる魅力が醸し出される。夜、開いている店ということで、どうしても飲み屋街が多くなるが、そういう店の人た ちと絡むマツコはさすがに手慣れたものだ。

店に入る時も、中のお客さんに気遣い、極力邪魔にならないようにと、注意を払う。あの大きな体を小さくして、「ごめんね~ごめんね~」と歩くマツコの気遣いぶりには目を見張るものがある。

昔の「街歩き番組」は事前にリサーチ済みの店を回ることが多かったが、最近の主流は、「行き当たりばったり」にある。裏でアポを取っているかどうかはともかく、アポなし取材と称して、タレント自らに取材許可を取らせることで、「行き当たりばったり」感を漂わせる。

その昔、関西ローカルで「夜はクネクネ」(毎日放送)という番組があった。原田伸郎と角淳一アナ、それに新人だったトミーズ雅が、背中に大きな機材を背負って、ボディガード役としてついて回っていたような。

何をするわけでもなく、ただ行き当たりばったり、気ままに街を歩き、すれ違った人に話し掛ける、それだけの番組だったが、その作られていない感が面白かった。番組自体もヒットし、伝説の深夜番組のひとつといってもいい。

「夜の巷~」の初回を見た時、この「夜はクネクネ」を思い出してしまった。結局、時代や地域は違えども、視聴者が好む番組は変わらないということかもしれない。

この「夜の巷~」では、これまでスタジオでタレントたちを相手にしていたマツコが素人を相手にすることで見せる新たな一面が見られるのも興味深い。

マツコ・デラックスが世に認知され始めたのは「5時に夢中!」(TOKYO MX)のレギュラーになった2005年あたりだろうか。全国区でいえば、「ピンポン!」(TBS)のコメンテーターになった2006年ごろ。

いずれにしてもここ10年のことだ。マツコはわずか10年で、誰もが知る人気タレントになったわけだが、この「夜の巷~」でのマツコの言動を見ていると、その人たらしっぷりがよくわかる。

すっかりやられていたのが、トヨタ自動車の豊田章男社長だ。10月1日に放送された「夜の巷を徘徊する 3時間特番」ではマツコたっての希望ということで、愛知県豊田市にあるトヨタの工場を見学する企画だったが、これになんと豊田社長が登場した。

豊 田社長は自ら、愛車である世界に500台しかないスーパーカー「レクサスLFA」でマツコをお出迎えし、さらには記念館でトヨタの歴史や創業者の苦労話を 語り、工場内をエスコート。最後に、手作業のため、1日3台しか作れない水素を燃料とする燃料電池車「MIRAI」(ミライ)に、これまた豊田社長の運転 で試乗するなど、至れり尽くせりのおもてなしだった。

レク サスLFAに乗れば、「エンジン音が違う」、MIRAIに乗れば「すごい! すごい!」とはしゃぐマツコ。いつもはドレッシーな服装のマツコが、特大の作 業着に作業帽をしている姿が映っているだけでも、絵的なインパクトは大きかった。そりゃ視聴率も取れるはずだ。社長だけでなく、社員食堂では従業員と世間 話をして交流するなど、垣根のないマツコにトヨタの社長以下全員メロメロだった。

マツコといえばTBS系の「マツコの知らない世界」(毎週火曜よる9時放送)で紹介されたさまざまな食材をマツコが食べ、ひとたび「おいしい」と言うだけ で、お取り寄せ殺到、売り切れ続出になる現象が続くほど、影響力がある。今回の企画、トヨタにとってもいい宣伝になったのではないだろうか。少なくとも、 マツコにフレンドリーに接する豊田社長の好感度は上がったに違いない。

この日はほかに、マツコが人生で初めて東京ディズニーシーを体験する企画もあったが、こちらも、来園客の邪魔にならないように気遣うマツコが印象に残っ た。というわけで、今回の3時間特番はとても面白かったのだが、見方を変えてみると、このつくりだと、ともすれば企業PRのように取られかねないというき らいはある。たとえば、マツコはトヨタのテレビCMに出演していた実績もある。

テレ朝お得意の深夜でヒットした番組を、ゴールデンに移動するようなことはせず、当初のコンセプトどおり、深夜枠のままでマツコが街を彷徨う地味な番組のほうが、結局は末永く続くかもしれない。あの「タモリ倶楽部」のように。

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