客観的な統計データをもとに都道府県を比較分析する「データで読み解く」シリーズ、第4回は「大学生の生活事情の変化」というテーマで語っていきます。
改元もからんだ空前の大型連休も終わり、大学に進学した子どもの五月病が気になる向きも多いかもしれません。また最近では、奨学金の返済問題や学生のブラックバイト問題など現代の大学生にまつわるお金の問題が多く報道されています。その陰で、授業料や仕送りで頭を抱えている親御さんや、生活費の確保のために授業そっちのけでバイトに勤しむ学生も少なくないと思われます。
一方では自らの学生時代を振り返って「それほど苦労しなかった」と思っている人も少なくないはず。そこで今回は、大学生の生活事情の変化について物価の観点から考えてみました。
「国立大の授業料」は上がったのか?
まずは授業料を見てみましょう。国立大学の授業料の推移は以下のようになっています。
[図表1 国立大学の授業料:実数]
1950年に3600円だったものが、2016年は53万5800円まで、実に148.8倍も上昇しています。とはいえ、この間に物価が大きく変動しており、これらを単純に比較することはできません。そこで、消費支出を元に1950年の物価を2016年の物価に置き換えて計算してみました。
消費支出とは家計調査で毎年発表されている2人以上の世帯の月間消費支出で、1950年は1万1980円、2016年は28万2188円となっており、66年間で家計の支出が23.5倍に上がったとも考えられます。これを授業料に当てはめてみると、当時の3600円は現代の8万4600円に相当することになります。
この方式で換算した国立大学の授業料が以下のグラフです。
[図表2 国立大学の授業料:換算]
1970年代まで7~9万円で推移しており、この間は物価にあわせてスライドさせていたようです。これが1970年代後半から急激に上昇しています。
この数値は物価の変動も織り込んだものなので、物価上昇率をはるかに上回る速度で授業料が上がっていることを意味しています。これは当時の大学生の半分以上を占めていた私大の授業料との格差が大きく開いたため、国立大学の授業料を値上げする方向に政策転換したのが原因です。
授業料と反比例する「仕送り額」
実際に、私大の授業料と重ね合わせてみると、1970年代にかけて両者の差が開いていることがわかります。1970年代後半以降、国立大学が授業料を上げると、私立大学もこれに追随するように授業料を上げており、両者がイタチごっこのように授業料を上げています。
[図表3 国立大学の授業料・私立大学文系授業料]
そんな授業料の急上昇のあおりを受けたのが、仕送り額です。家計調査によると2017年の仕送り額は年額5637円。これは仕送りしている家庭だけでなく、していない家庭(仕送り額0円)を含めた平均額です。授業料と同様に現代の価値に換算した仕送り額の推移を見ると、1950年代はじめは1000円台だった仕送り額は1970年代に5000円台に到達。
[図表4 仕送り額]
その後1990年代にはピークとなる8503円まで上昇しますが、その後は大きく下落し1970年代と同じ5000円台にまで下がっています。
1970年代から現代にかけて大学進学率が40%弱から60%弱に上昇し、仕送りをする家庭が増えていることを考えると、実質的に1960年代の水準まで後退していると考えらます。
続いて下宿生にとって切実な家賃の変遷を見てみましょう。小売物価統計調査の東京都区部の家賃を戦後から現代まで調査しています。数字は調査年代によって、1畳だったり、1坪だったりするので、ここでは関東大都市圏の共同住宅1住宅あたり延べ面積である37.96平方メートルに換算して比較しています。
[図表5 家賃]
上記と同じく現代の価値に換算して比較すると、1950年代に1万円台前半だった家賃は高度経済成長期に急上昇し、1970年代に7万円台に到達。その後は安定しますが、バブル期に再び上昇し、現代では10万円台になっています。これも現代の大学生にとって苦しい懐事情の原因の1つと言えそうです。
大学生の味方「ラーメン」はどうだ?
次に食事面を見てみましょう。大学生がお世話になることが多いラーメン価格の推移を小売物価統計調査で調べてみました。現代の価値に換算した数字を見ると、こちらは1950年代から1990年代まで一貫して400円前後で推移しており「物価の優等生」ぶりがうかがえます。その後、ラーメンブームの影響から2000年代から上昇し600円近くに達しています。
それでも授業料ほどは上がってはおらず、食の面では今も昔も学生の強い味方となっているようです。
[図表6 ラーメン価格]
さらに学生の収入面を見てみましょう。喫茶店の店員などの学生向けのバイトは今も昔も最低賃金に近い時給になっており、ここでは東京都の最低賃金の推移を見てみます。こちらも現代の価値に換算した数値でデータが残る1973年代から1980年代まではほぼ時給500円で推移。
[図表7 最低賃金]
バブルが崩壊した1990年代に600円まで上昇。その後、2000年代後半から再び上昇し、現在では1000円近くまで上がっています。時給面は昔よりも倍近く上がっていて、学生には心強い結果となっています。
最後に、1973年を100としたときの価格の推移をまとめたのがこちらの表です。
[図表8 まとめ]
やはり目を引くのが国立大学授業量の急激な増加ぶりです。2017年の数値は1500、つまり15倍にも上昇しています。国立大学に比べて元々高かった私立大学文系も約7倍に増えています。
一方、仕送り額は1990年代前半までは私立大学文系の上昇率に追従しましたが、バブルが崩壊し、いわゆる”失われた20年”に入ると右肩下がりになっています。高騰する学費と不景気に耐えきれなくなった家庭の様子がうかがえます。
その他の家賃、ラーメン価格の価格も右肩上がりですが、それよりも最低賃金の上昇率が上回っているので、なんとかカバーできています。
これらのことから、物価が上昇しているのに仕送りは減り、苦しくなった懐事情をバイトで支えている状況が見えてきます。一方、一時期の「大学レジャーランド」批判を受けて、大学は学生の授業参加や成績判断を厳格化しており、以前ほどバイトに励むこともできません。一昔前の学生生活が牧歌的にさえ見える苦しい状況と言えるでしょう。
少子高齢化が進み、経済の縮小も心配される現代の日本。せめて日本の未来を支える学生だけでも安心して学べる環境にしてあげたいものです。
(編集協力:株式会社バーネット)