PRESIDENT Online 掲載疲れを取るにはどうすればいいのか。東京疲労・睡眠クリニックの梶本修身院長は「疲れを解消するには、家で1日まったく何もしないで過ごすより、軽い運動をしたほうがいい。また、スマホは脳疲労の原因になるので、リフレッシュ時間には使わないほうがいい」という――。
※本稿は、梶本修身『疲労回復の専門医が選ぶ 健康本ベストセラー100冊「すごい回復」を1冊にまとめた本』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。
■「何もしないでのんびり」はかえって疲れる
平日にがんばって働いてようやく迎えた週末、あなたはどうやって過ごしますか?
「まずは疲れを癒したいから、とにかく休む!」
「何もしないでのんびり過ごす!」
そんな声が聞こえてきそうです。でも、それではかえって翌日、翌週に疲れを持ち越すことになりかねません。
24歳までプロスキーヤーとして活動し、アメリカでスポーツ医学やスポーツマネジメントを学んだ後、現在はスポーツの名門大学でもあるスタンフォード大学でアスレチックトレーナーとして活躍する山田知生さんは、著書『スタンフォード式 疲れない体』のなかで、「『動かない1日』が疲れを助長する」と指摘しています。
■人は動きつづけているのが本来の姿
“今感じている疲れ”を対症療法的にすばやく解消する手段として、山田さんが取り入れているのが「動的回復法」というメソッドだそうです。これは、文字どおり、体を動かして回復をはかるという方法。
「体を動かせば疲れないの?」
「そもそも疲れている日に、体を動かしたくないよ」
と思うかもしれません。でも、「1日まったく体を動かさないのはよくない」のは事実です。その理由を次のように説明しています。
「『疲れないために、じっとしている』よりも、体を軽く動かしたほうが、血液の流れが促進されて脳と筋肉にたくさん酸素を送ることができ、疲労物質の滞留を防ぐことができるのです」
「脳(中枢神経)はそもそも『体を移動させる』ためにできていて、原始時代からその構造はあまり変わっていないそうです。
つまり、人は動きつづけているのが本来の姿ということ。(中略)『働きすぎて疲れた日』は、『体を動かせていない日』であることも多いはず。だからこそ、軽い運動で疲れを取るのが効果的です」
『スタンフォード式 疲れない体』より
■軽めの有酸素運動20〜30分がちょうどいい
ここで大切なのは、“軽く”体を動かすということ。まったく動かさないのもよくないですが、やりすぎもよくありません。「ほどほど」が大事です。
どのぐらいが「ほどほど」かというと、一例として「『ゆっくり走る』『泳ぐ』という軽めの有酸素運動を20〜30分すると、血行がよくなって、筋肉のこりがほぐれていく」と山田知生さんは紹介しています。
私がよく一般の方にアドバイスするのは、「隣の人と会話ができる程度の軽い運動がいいですよ」ということ。ハードな運動よりも、そのぐらいの軽い運動のほうが圧倒的に健康によく、健康長寿につながることがわかっています。
■「幸せホルモン」は疲労回復にも効く
体を動かすことの大切さを「セロトニン」という脳内物質の観点から説明しているのが、『医者が教える疲れない人の脳』です。著者の有田秀穂先生は、セロトニン研究の第一人者で、セロトニンに関する本を50冊以上書かれています。
セロトニンとは、脳内で分泌される神経伝達物質のこと。感情や精神面、睡眠などの大切な機能を健全な状態に保つために重要な役割を担っていて、セロトニンの分泌が減ると元気や意欲がなくなったり、うつにつながったりすることから、「幸せホルモン」とも呼ばれます。
脳の疲れとの関連でいえば、自律神経の働きを調節してくれる作用があるので、セロトニンがしっかり分泌されると、疲れをやわらげてくれるともいえます。
有田秀穂先生が提唱する、セロトニン神経(セロトニンをつくり、脳内に分泌させる神経)を活性化する方法、すなわち「セロ活」の極意はシンプルです。
太陽の光を浴びること、そして、リズム運動をすること。リズム運動といっても、難しく考える必要はなく、リズムよく歩くことも、立派なリズム運動とのこと。ですから、スロージョギングやウォーキングのような“ほどほどの運動”は、脳内でセロトニンを増やして、疲れた自律神経の働きを調節する意味でも疲労回復におすすめです。
■脳を癒すオキシトシンを出す方法
それともう一つ、有田秀穂先生が「脳内のストレス解消の秘薬」として紹介しているのがオキシトシン。これも脳内で分泌される神経伝達物質の一つで、脳内のストレス中枢を鎮める作用があります。つまり、オキシトシンが十分に出ると脳の疲れも癒されます。
オキシトシンを分泌する方法として、よく知られているのは「心地よいスキンシップ」です。
例えば、子どもと遊ぶ、ペットとたわむれる、心地よく誰かとおしゃべりする、など。あたりまえですが、おしゃべりといっても、頭をフル回転させなければならないような小難しい仕事の話などでは、疲労回復にはなりません。
大切なのは「心地よさ」です。運動も「ほどほど」が大事で、スキンシップも「心地よさ」が大事。疲労回復には、適度な刺激が大切なのです。
■現代人の脳を刺激するスマホ、SNS
ところで、みなさんは今、手元にスマホがありますか? ほとんどの人が肌身離さず持ち歩き、こまめにチェックしているのではないでしょうか。
これは、脳を休めるという点では大問題です。TwitterやYouTubeのようなSNSにしても、ネットサーフィンにしても、リアルタイムで更新が続けられているので、半永久的にそれらの情報を追いかけることができます。
その間、脳は交感神経優位の興奮状態がずっと続くので、自律神経が疲れて脳疲労を起こす大きな要因になります。
脳を鍛える“脳番地トレーニング”を提唱する、医師の加藤俊徳先生も、著書『脳とココロのしくみ入門』でスマホ依存の問題に触れています。
スマホが手元にないと不安になるようだと危険。それは麻薬中毒やアルコール依存とまったく同じ依存症状のはじまりだ、と指摘し、なぜスマホを手放せなくなってしまうのか、その理由を解説しています。
脳は、あることをして楽しさを感じると、それを学習して繰り返す性質がある。スマホ依存もまさにその典型です。
スマートフォンにハマる脳は、ちょっと新しい情報に触れることを楽しいと感じる脳です。ニュースアプリ、SNS、動画サイトで絶え間なく更新される最新情報にわくわくするのです。
『イラスト図解 脳とココロのしくみ入門』より
■眼精疲労は「目の疲れ」だけではない
また、交感神経を高ぶらせた状態で手元の画面を見るという行為自体、疲れを生みます。眼精疲労を招くのです。
眼精疲労が、目の疲労だと思っている人は多いでしょう。ところが、眼精疲労にも自律神経が深くかかわっていることがわかってきたのです。
肉食動物は、獲物を獲るとき、交感神経を高ぶらせながら、遠くを見て獲物を探します。だから動物は、交感神経優位で緊張状態を維持している間は、目のレンズを薄くして遠くを見るように設計されているのです。
ところが、デスクワークが主流となった現代人は、交感神経を高ぶらせながら、近くの画面を見て仕事をしなければいけなくなりました。つまり、デスクワークをするために脳を交感神経優位に保ちながら、一方で目のレンズに対しては副交感神経優位にして近くを見なければならない矛盾。それが眼精疲労の正体なのです。
スマホもパソコンも現代ではなくてはならないツールなので、手放すわけにはいきません。でも、仕事や家事の合間にリフレッシュのためにスマホを見る、ネットサーフィンをする……といったことが、かえって疲れを増幅させていることはわかっていただけたでしょうか。
■悩みの種になる人間関係を整える
最後にもう一つお伝えしたいのが「環境」の大切さです。つまり、安全・安心で快適な環境をつくること。嫌いな人が近くにいたり、不快な場所、危険な場所にいたりしていては心も体も休まりませんよね。交感神経が興奮しっぱなしになり、副交感神経優位のリラックスした状態にはなりません。
現代人にとって、日頃、悩みの種となる環境といえば人間関係ではないでしょうか。職場“環境”も、家庭“環境”も、結局のところ人間関係の問題です。
2013年に出版され、世界累計で500万部を超える大ベストセラーとなった『嫌われる勇気』では、「すべての悩みは『対人関係の悩み』である」と断言します。哲学者と青年の対話を通して、「どうすれば人は幸せに生きることができるのか」というアドラー心理学の考え方を教えてくれる、この本。安全・安心で快適な人間関係を築くためのヒントを得られると思います。
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梶本 修身(かじもと・おさみ)
東京疲労・睡眠クリニック院長
医師・医学博士。大阪大学大学院医学研究科修了。2003年より産官学連携「疲労定量化及び抗疲労食薬開発プロジェクト」研究統括責任者。自らプログラム作成したニンテンドーDS『アタマスキャン』は30万枚を超えるベストセラーとなり、脳年齢ブームを起こす。著書に『すべての疲労は脳が原因1・2・3』(集英社)、『寝ても寝ても疲れがとれない人のための スッキリした朝に変わる睡眠の本』(PHP研究所)などがある。「ホンマでっか⁉TV」ほか、「ためしてガッテン」、「世界一受けたい授業」、「林修の今でしょ!講座」など、TVやラジオにも多数出演。
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(東京疲労・睡眠クリニック院長 梶本 修身)