「夢追い型の専門学校」から見える進路格差の悲惨 データで見る「夢」は就職に結びつかない現実

かつて進学や就職は生徒の可能性を伸ばし未来を切り開くものであった。しかし現在は格差を固定化したり拡大させたりするものになっている。教育ジャーナリストの朝比奈なを氏は、非現実的な「夢追い型」の大学・専門学校に進学して貧困スパイラルを断てない現実や、旧態依然とした慣例がまかり通り離職率が高まる一因となっている高校生の就活といった、進路選択の問題を提起している。著書『進路格差 <つまずく生徒>の困難と支援に向き合う』より、置き去りにされる高校生と支援者の声をお届けする。

データに見る、「夢」は就職に結びつかない現実

専門学校の分野別の就職率はどのようになっているのだろうか。専門学校には、「就職に強い」というイメージがつきまとうが、それは本当なのだろうか。

厚生労働省と文部科学省が2022年3月に公表した2021年度の各学校種卒業生の2月1日現在の就職率は、大学が89.7%、短大が86.9%、専門学校が81.6%であり、一般的なイメージを裏切る数値になっている。この数値は専門学校全分野の平均であり、専門学校では分野ごとに就職率が大きく違うと想像できる。

■専門学校の分野別入学者数

そこで、専門分野ごとの詳細を探しても明確な数字がなかなか入手できない。各分野の就職状況を示す研究を探して、ようやく以下の論文等を入手することができた。

まず、2005年に、当時、国立教育政策研究所高等教育研究部長だった塚原修一氏が発表した「専門学校の新たな展開と役割」に分野別の就職率が明らかにされている。それによれば、2004年の段階で、専門学校の各分野の就職率は大きな差が生じている。

「医療」系の各系統は90%を超えて最も高い就職率となっており、しかもそのほとんどが関連分野に就職している。他では保育や介護等を担う「教育・社会福祉」系、自動車整備、情報処理等も高就職率を示している。

その一方、「服飾・家政その他」が53.5%、「演劇・映画」が51.9%、「外国語」が39.5%、「音楽」が38.1%で、関連分野への就職率も高くはない。

この10年後の2015年の状況は、文部科学省の「これからの専修学校教育の振興のあり方検討会議」の第9回の参考資料の中に示されている。これを見ると、この年の専門学校全体の就職率は80.8%であった。

同資料では専修学校全体の分野別就職率も明らかにされている。それによれば「教育・社会福祉関係」が87.2%、「衛生関係」86.1%、「医療関係」85.8%、「工業関係」80.1%となっている。低いほうは「文化・教養関係」41.6%、「服飾・家政関係」59.6%である。

専修学校全体の統計ではあるが、専修学校卒業生数のうち専門課程が約84%を占めているので、全体の傾向が推測できる。

アニメ・ゲーム分野に進んだ専門学校生の就職は…

このような動向を見て、専門学校を就職面で分類したのが、現在、滋慶教育科学研究所職業人教育研究センター長の志田秀史氏である。同氏は2017年の博士論文の中で、就職状況によって専門学校の分野を3つに分類する試みを行っている。

それは、1. 就職型(工業、商業事務、医療、教育・社会福祉、スポーツ、食、美容、農業・バイオスフェア(動物等)分野)、2. デビュー型(パフォーマンス(俳優、ミュージシャン、ダンサー、漫才師等)分野)、3. 就職・デビュー折衷型(コミュニケーションアーツ(アニメ、ゲーム、デザイン)分野)の3つである。

卒業後、すぐに正社員または契約社員として専攻した分野にほぼ全員が就職する分野が「就職型」である。「デビュー型」は正社員もしくは契約社員としてほぼ全員が就職することが困難な分野であり、「就職・デビュー折衷型」は「デビュー型」よりも雇用契約は成立しやすいが、それは見習いやアシスタント契約で独立前の雇用と考えられる就職の仕方である。

志田氏の分類は、先行論文・調査資料での就職率の傾向の理由付けとして説得力がある。

僅少な研究ではあるが、各分野での就職率の差は以前から大きく、また、就職に関する慣例も異なることがわかる。そして、学力が低い層の高校生が選択する傾向が強い音楽やアニメ・ゲーム等の分野には独自の慣例があり、また、就職率も高くないと想像できる。

自分の「好き」を重視してこれらの分野を選んだ高校生が、将来長きにわたってその分野に関連する仕事に従事できる可能性、経済的に十分に自立できる可能性は残念ながら高くないと推測せざるを得ない。

そもそも、アニメ・ゲーム業界は、有名なアニメ監督や人気のゲームクリエイター、大手ゲーム会社正社員などの年収は高いが、アニメやゲーム制作の実務に関わる人の多くは収入が低いという格差でも知られている。 

つまり、学力の低い層からの専門学校進学は、その分野に関する先天的な才能に恵まれている場合を除いて、将来の格差解消には結びつき難いといって間違いないだろう。

日本学生支援機構の奨学金を利用しての進学者が多い現状がある。専門学校での学修が安定した職業生活を可能にしないのであれば、卒業時に多額の借金を背負っている学生は、その後の生活設計が非常に不利になる。

昨今、奨学金が返済できず窮地に立つ、あるいは自己破産に追い込まれる若者の存在が話題になっているが、そこには専門学校を出た若者も多数含まれる。専門性が活かせる職でなければ、大卒より低い賃金形態となる専門学校卒業生のほうが奨学金の返済には厳しい状況になるのだ。 

どの専門学校も、「好き」や「得意」を仕事にする、「夢」を将来に活かす等と高校生に向けて謳い、就職に強いという一般的なイメージを前面に打ち出してアピールする。本当に「好き」や「夢」を将来の職業や経済的自立に結びつける役割を果たしているのか、専門学校側に自問を促したいところである。

多くが地元の中小企業に就職する

さらに、専門学校進学が将来の生活の安定につながるのか、考えてみたい。

文部科学省が専門学校の今後の方向性を決めるにあたり、大きな影響を持ったと思われる調査がある。同省の委託を受けて、東京大学が2013年に実施した「高等教育機関への進学時の家計負担に関する調査研究」と、株式会社リベルタス・コンサルティングが2015年に発表した「専修学校生の学生生活等に関する調査研究」である。

この当時、経済的理由で高等教育機関を中退する者、奨学金返済が滞る者の増加が社会問題となり、それに対する対策を講じるために同省が委託したものと考えられる。

どちらの調査も高等教育専門家のみが委員に選ばれ、送り出す側の高校や受け入れる側の専門学校の教職員が委員となっていないことに疑問を感じるものの、家計やアルバイト、進路選択の動機等詳細の質問が行われているため、貴重な調査研究と言える。

これらの調査研究で、両親の年収が低いほど専門学校への進学割合が高まっている点が指摘されている。これは、現在、学力の高い高校ほど授業料減免率が低い、つまり、家計収入が高いこと、さらに学力が低い高校では専門学校への進学が多いことを別の面から証明することになろう。

同じ傾向は、2021年12月に発表された国立教育政策研究所高等教育研究部の「高校生の高等教育進学動向に関する調査研究」第1次報告書でも言及されている。

2015年の調査研究では就職に関しても調べている。専門学校進学者159名に対する調査ではあるが、4年制大学進学者と比べて実家所在地からの移動が少なく、3人に2人は出身都道府県にある学校に通っていることがわかった。また就職では、学校が所在する都道府県内に就職する率が7割で地元定着率が高い特徴も見られた。

調査対象者の中に含まれる都・府の居住者の割合が不明のため断定はできないが、地元での就職が多いことから、中小企業への就職者が多いと推測できる。この点は、早くは塚原氏の先掲論文でも指摘されていた。

賃金格差は進路格差が生む

日本では大企業の所在地は東京、大阪など大都市であることが通例だ。東日本大震災や新型コロナウイルスの影響で本社を地方に移す企業が話題になったこともあるが、それも新興企業がほとんどで、動き自体も拡大していない。

中小企業で働く率の高さは、現在の日本の労働環境としては決して有利なものではない。

最近のニュースでも、大企業は過去最高益、過去最高の内部留保を積む一方、下請けである中小企業は円安による原材料のコスト高分を製品価格に上乗せすることも認められず、経営に苦労する厳しい現実がしばしば報道されている。

賃金面で見ても、大企業と中小企業の賃金格差は大きく、それは都道府県ごとの平均収入額の差にも直結している。

また、地方再生の試みは数多く行われているものの、恒常的な成功を収めている地方は非常に少数だ。「地方には働く場がない」という言葉を聞くが、費用を使って専門学校で多様な分野を学んでも、介護や医療以外の仕事を探せないという現実は歴然と存在している。

上述の専門学校卒業生の就職の特徴からは、専門学校出身者は、就職できたとしても最初から不利な条件を含んだ就職となっていることが残念ながら認められる。

朝比奈 なを:教育ジャーナリスト

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