新卒社員が辞めない会社の上位300社をランキングにしました(写真:Jake Images / PIXTA)
新年度を迎え、多くの企業で入社式が行われた。コロナ禍3年目となる今年の入社式は、対面形式で行う企業が増えた。企業にとっては、同期社員と直接交流する機会を設けることで、会社への帰属意識を持ってもらい、モチベーションを維持したいという狙いもある。しかし、そうして入社した社員でも、そのうち約3割が入社後3年以内に離職するとされている。
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もちろん、中には新卒社員がしっかり定着している企業もある。今回は『CSR企業総覧(雇用・人材活用編)』2022年版掲載の「新卒社員の3年後定着率」の最新データを基に、定着率の高い企業をランキングにした。以下、上位企業の傾向や特徴的な取り組みについて紹介していく。
なお、本ランキングは同誌掲載企業1631社のうち、2018年4月の入社人数(3人以上)と3年後の2021年4月1日時点の在籍者を開示している1156社を対象としている。800位までの同ランキングおよび男女別の3年後定着率ランキングは、『CSR企業白書』2022年版に掲載している。
ランキング1位の定着率100%は98社
ランキング1位の定着率100%には98社が並んだ。そのうち、2018年4月入社人数が最も多かったのは医療用漢方薬を手がけるツムラで54人。入社3年目までの社員等を対象に、推奨資格取得のための受験料・教材費を会社が負担する「ベーススキル習得支援制度」、語学学習費用の一部を支給する「語学支援制度」を導入するなど人材育成に積極的だ。
働きやすさに関しても、フレックスタイム制度や勤務間インターバル制度を導入しており、年間総労働時間は1816時間、月平均残業時間は12.7時間と短い(契約社員を含む)。人材育成への手厚い支援とワーク・ライフ・バランスの充実が新卒社員の定着につながっている。
続いて多かったのは総合不動産大手の三井不動産で42人。同社は前回ランキングでも定着率100%だ。海外MBA取得のための派遣留学制度や、大学院等への修学・資格取得などに利用可能な休職制度を設けている。実際に、社員1人当たりの年間教育研修費用は19万3000円とトップクラスで、人材育成に取り組む姿勢は数値にも表れている。
さらに、上下水処理設備の施工管理等を手がけるメタウォーターが32人で続いた。同社はコアタイムなしのフレックスタイム制度や、毎月の所定労働時間を週4日間働くことで満たす週休3日制度を導入するなど、柔軟な働き方の拡充を進める。また、テレワークを活用した単身赴任の解除にも取り組んでいる。
以下、日立物流(入社人数30人)、東急不動産ホールディングス(29人)、一正蒲鉾(28人)、エバラ食品工業(27人)、京三製作所(26人)と続く。
退職者1人によって定着率100%に届かなかったのは、99位のブラザー工業(定着率98.7%)、100位のSCREENホールディングス(98.5%)、101位の任天堂(98.3%)の3社。
ブラザー工業は、若手社員を海外グループ会社へ派遣して研修を行うトレーニー制度を導入するほか、育児や介護との両立などについては定期的な社内情報交換会等を開催している。
また、SCREENホールディングスは、一斉退社日や勤務間インターバル制度を導入し、2023年3月期までに年間総実労働時間を1800時間に削減する、という数値目標の達成に取り組んでいる。
海外拠点が多い任天堂は、婚姻関係に当たる同性パートナーがいる社員について、実際の婚姻と同等に扱うパートナーシップ制度を導入するなど、ダイバーシティー関連の取り組みを進めている。
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以下、102位には定着率98.1%で、住友商事(入社人数162人)、浜松ホトニクス(106人)、KOA(53人)、カゴメ(52人)が続いた。
最後に、本ランキング掲載企業を入社人数が多かった順にみると、トヨタ自動車(1924人、222位)、三菱電機(1112人、286位)、デンソー(987人、195位)、ホンダ(784人、236位)、第一生命ホールディングス(778人、227位)、東海旅客鉄道(772人、236位)となった。
このうち入社人数が最多だったトヨタ自動車は、独自の「トヨタ生産方式」を業務にも応用して効率化に取り組む。休暇に関しても、2020年度の有給休暇取得率は87.9%と高水準だ。また、社会貢献活動にも積極的で、2020年度の社会貢献支出額は187億円と国内トップクラス。ポイント制度を組み合わせたボランティア活動「恩返し活動」も実施している。
こうした、マルチステークホルダーを重視する姿勢が、新入社員を惹きつける1つの要因になっているかもしれない。
今年は新卒3年後定着率が前年を上回った
『CSR企業総覧(雇用・人材活用編)』によると、新卒3年後定着率は年々低下傾向にあった。しかし、今年は平均81.3%で前年80.6%を上回った。テレワークが増えて出社のストレスが減った、対面での転職活動が難しくなったなど、コロナ禍による社会変化が新卒社員の定着率にも影響を与えていると考えられる。
また、近年は日立製作所、富士通、KDDIなどジョブ型の人事制度を導入する企業が増えている。「人生100年時代」といわれ、以前よりも転職は一般化してきているかもしれない。
しかし、社会経験の少ない新卒入社者にとって、そうした流れはファーストキャリアの重要性が高まることにつながるだろう。定着率が高い企業は、若手の育成にしっかり取り組んでおり、待遇面でも良好な企業が多い。引き続き、定着率は就活・転職時の重要な指標といえるだろう。