健康的に過ごすための睡眠リズムとは何か。日本睡眠学会理事で医師の櫻井武さんは「高齢者になると日中に動くことも少なくなり、短い睡眠でもこと足りるようになり朝型になる。同時に不眠を訴える人が急増するが、睡眠習慣は、過去の自分と比べるのではなく、今の状態に合わせることが大切だ。自分が朝型か夜型かは、ウェブ上にある『朝型夜型質問紙』の19項目の質問に答えると『超朝型』『朝型』『中間型』『夜型』『超夜型』を判定してくれる。判定結果をもとに、自分の生活習慣を見直してみるといい」という――。
※本稿は、櫻井武『すぐに実践したくなる すごく使える睡眠学テクニック』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。
基礎代謝量の低下に伴い40〜50代から少しずつ朝型に
「朝型」か「夜型」かといった睡眠のタイプ「クロノタイプ」に合わせて就寝時刻を決めることが理想です。このクロノタイプは、遺伝的要因によってある程度決まっていますが、年齢によっても変化します。
10代では、ほとんどの人が夜型ですが、40〜50代で少しずつ朝型になっていき、その傾向は、年を重ねるほど強くなっていきます。これは、呼吸や体温を維持するなど無意識に行っている活動で消費されるエネルギーである「基礎代謝量」が低下するからです。
日中に活発に動くことも少なくなり、短い睡眠でもこと足りることも関係します。その結果、高齢者になると睡眠時間が短くなり、朝型になるのです。
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また、女性の場合は「プロゲステロン」という女性ホルモンの影響もあります。プロゲステロンは、眠気を誘う作用があることがわかっています。
月経前や妊娠前期は女性ホルモンが多く分泌されるため眠気が強くなるのです。逆に、女性ホルモンの分泌量が減少する閉経後は、眠りの質が低下していきます。とはいえ、ホルモンの影響は体の仕組みの問題だから、睡眠習慣に関してはあまり気にすることがないでしょう。
8時間睡眠なのに「3時間しか眠れない」という思い込み
高齢者になると、不眠を訴える人が急増します。この訴えのなかには、本来ならば睡眠が足りているのに、夜型だったころの自分と比べて、思うように眠れていないと思っているケースも少なくありません。なかには、昼間に必要以上の仮眠をとってしまい、その結果、夜の睡眠の質が低下しているケースも多いのです。
さらにいえば、実際には8時間の睡眠をとっているにもかかわらず「3時間ぐらいしか眠れなかった」という人もいます。これは「自分は眠っていない」という思い込みによるいわゆる「睡眠誤認」でしょう。
いずれにしても、睡眠習慣は、過去の自分と比べるのではなく、今の状態に合わせることです。
自分が朝型か夜型かは、ウェブ上にある「朝型夜型質問紙」である程度は知ることができます。この質問紙では、19項目の質問に答えて「超朝型」「朝型」「中間型」「夜型」「超夜型」を判定してくれます。判定結果をもとに、自分の生活習慣を見直してみてください。
朝型か夜型かを知ることと同時に大切なのは、自分のもっとも適している状態、常日ごろの調子の良い状態を把握し、それをキープすることです。
「年をとって体力が落ちたから長時間眠れない」は間違い
新生児の赤ちゃんは、ミルクを飲むとき以外はほとんど眠って過ごします。1歳ぐらいになると、昼間に起きている時間が増え、夜眠ると、朝まで連続して眠ることができるようになります。
昼寝が必要なのは、小学校に上がる前くらいまでで、その後は成長するにつれて、日中はずっと起きていることができるようになります。
このように睡眠は、年齢によって大きく変わってきます。年を重ねると睡眠時間は短くなります。なかには、寝るためには体力が必要で「年をとって体力が落ちたから長時間眠れなくなった」と思っている人もいますが、これは間違った認識です。
基礎代謝が低下することは先に述べましたが、年齢とともに体内時計が変化して、サイクルが短くなることも睡眠時間が短くなる要因の1つです。
睡眠に関わるホルモン「メラトニン」の分泌が減り、逆に覚醒ホルモン「コルチゾール」は年をとっても分泌量が変わらないどころか増えていきます。さらにいえば、睡眠と脳の発達は関係していると考えられており、加齢による「脳の老化」によって、睡眠の必要性が少なくなっているのです。
60代以降では、睡眠の質にも変化が現れます。深い睡眠が少なくなっていき、N3のノンレム睡眠は、ほとんど見られなくなります。
60代以上で6時間以上眠れる人は稀である
加齢による筋力の低下も、睡眠の質の低下につながります。舌やのどの筋力が低下すれば、舌の根元やのどの奥の部分が落ち込み、いびきや睡眠時無呼吸症候群を招きます。さらに、尿を溜める膀胱は筋肉でできているため加齢により硬くなります。
また膀胱をハンモックのようにして支える骨盤底筋も年齢によって緩みが生じます。これらの筋力が低下することで夜間にトイレに行くことも増えていきます。
このように、年をとると、睡眠時間が短くなるうえに、睡眠の質も低下します。
しかし、悩む必要はありません。一般的に60歳では6時間ほどの睡眠で十分だと考えられています。60代以上で6時間以上眠れる人は稀といっても良いくらいです。
6時間以上眠れていないからといって、睡眠時間を多くしようとしても、眠れないことがストレスになって不眠を意識することにつながります。
また寝床で過ごす床上時間を含めた睡眠時間が8時間以上の人は、7〜8時間の人と比べて死亡リスクが1.5倍も高くなるとの報告もあります。
ベッドでダラダラ過ごすよりも、床上時間を減らすことで睡眠効率が上がり、不眠が改善するケースもあるのです。
日本は「1日の平均睡眠時間」が圧倒的に少ない
睡眠に悩みを抱えている人のなかには「早寝早起き」を目標としている人もいます。「早寝早起きが健康に良い」と、いろんな場面で言われ続けてきた人は多いはずです。しかし、これも現代社会においては、幻想といっても良いでしょう。
早寝早起きは必ずしも良いわけではありません。たしかに、早寝早起きをしている人は「体内時計が整っている」とはいえるでしょう。しかし、睡眠学を研究している者からすると「体内時計が整っている」だけでは十分ではありません。
人によって体内時計のリズムが違うことが明らかになった今、早寝早起きをするだけで、健康的な生活を送ることができるという科学的根拠はないのです。重要なのは必要な睡眠時間を確保することです。
経済協力開発機構(OECD)が、2021年に加盟33カ国を対象に行なった「1日の平均睡眠時間の調査」によると、全体の平均時間は8時間28分で、もっとも少なかったのが日本で7時間22分。次が韓国の7時間51分でした。
とくに日本は平均睡眠時間より1時間も短くなっています。日本の都市生活者はさらに少ないとされています。その一方、平均睡眠時間がもっとも長いのが南アフリカの9時間13分。次いで中国の9時間2分、アメリカの8時間51分です。
米シンクタンクのランド研究所は、2016年に日本人の睡眠時間が6時間未満と少ないことで生じる経済的な社会損失は年間15兆円になるとの試算を報告しています。
「惰眠を貪る」=睡眠は「だらしない」?
睡眠時間が短いほうが「真面目で勤勉な国」と思う人は、かなり時代に乗り遅れています。もはや、寝る間を惜しんで働くことが美徳とされる時代ではなく、睡眠不足が、生産性を低下させ、国民の健康を脅かしかねないことにもっと意識を向けるべきでしょう。
「惰眠(だみん)を貪(むさぼ)る」という睡眠を貶める言葉もあります。とかく睡眠は「だらしない」「なまけている」と捉える人がいまだに多いようです。
絵本『ウサギとカメ』では、足の速いウサギが寝ている間に、コツコツ歩いているカメに抜かれます。本来、カメは、ウサギと競っておらず、ゴールという目標だけを目指していたことを教える話ですが、幼いころに読んだこのお話を「惰眠を貪る」と誤って解釈している人もいるかもしれません。
睡眠における言説には、誤ったものや時代にそぐわないものが少なくありません。正しい理解で、睡眠に対する意識を高めていってください。
———- 櫻井 武(さくらい・たけし) 医師、日本睡眠学会理事 医学博士。筑波大学医学医療系および国際統合睡眠医科学研究機構教授。筑波大学大学院医学研究科修了。日本学術振興会特別研究員、筑波大学基礎医学系講師、テキサス大学ハワード・ヒューズ医学研究所研究員、筑波大学大学院准教授、金沢大学医薬保健研究域教授を経て、現職。1998年、覚醒を制御する神経ペプチド「オレキシン」を発見。平成12年度つくば奨励賞、第14回安藤百福賞大賞、第65回中日文化賞、平成25年度文部科学大臣表彰科学技術賞、第2回塩野賞受賞。著書、テレビ出演など多数。 ———-