何か明確な心配ごとがあるわけでないのに「なんとなく不安な人」も多いのではないでしょうか。
「行動を変える専門家」の永谷研一さんは、「特にいま、仕事や子育てで頑張っているのに、『誰からもほめられない』『自分は何もできてない』と感じている自己肯定感の低い人は多い。そうした人こそ、心を整え、ほんの少しずつでも『前に進んでいる実感』を持つことがとても必要」と話します。
その日の「できたこと」を振り返ることで、自分を深く知り、自己肯定感を上げる科学的なメソッドを紹介する書籍『1日5分 書けば明日が変わる できたことノート』をもとに、3回にわたって解説します。
「根拠のない自信」を持つ人
うまくいっている人は、程度の差はありますが、総じて自己肯定感が高く、「根拠のない自信」を持っているものです。
【図で見る】人はうまく生きるために「純粋な心」の上にフタをし、三角形の「外に見えている自分」を使って過ごしています。
こうした人は、挑戦した経験が多いぶん、他人よりたくさん失敗もしているはずですが、失敗をしていても「この失敗は乗り越えられる」と楽観的に考えています。
では、みなさんは、「能天気な人」と「楽観的な人」の違いが何かわかりますか? 能天気な人は、深く考えていない「天然」な人ですが、楽観的な人はそうではありません。「より深く考えている」人なのです。
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そして、楽観的の反対に、悲観的という言葉があります。この違いもわかりますか?
何かことにあたるとき、実は、楽観的な人も悲観的な人も、同じように「何かまずいことが起こるかもしれない」とは考えています。違いは、楽観的な人は「でも、それを乗り越えられるはずだ」と捉えているということです。
たとえば、岩場の下にいるザリガニを捕まえようとしている場面を想像してください。能天気な人は、何も考えずにとりあえず手を入れて、挟まれて痛い思いをしてしまいます。
楽観的な人というのは「手を入れたら挟まれて痛い思いをするかもしれない。挟まれないように気をつけて、そっと手を入れよう。ただ、万が一、挟まれたとしても、たいした怪我じゃないからチャレンジしてみよう」というように考えます。
一方、悲観的な人はどうかというと、「大きなザリガニがいて、挟まれた途端に指が切れて血がドバーッと出て大怪我をしたらどうしよう……」といった思考にはまってしまいます。
よりよい行動を見つけるために
これはさすがに極端な例かもしれませんが、私が言いたいのは、楽観的な人も悲観的な人も、双方ともちゃんと「リスクを考えている」ということ。
ただ、悲観的な人が過剰に警戒をしてしまう一方で、適度にリスクを考えられるのが楽観主義者です。その意味では、楽観的な人にも悲観的な部分があり、単なる能天気とは違います。
そして、楽観主義者は行動しますが、悲観主義者は殻にこもって行動できなくなってしまうのです。
過去の経験や体験を振り返る「内省」によって、経験から学び、よりよい行動を見出していく方法は、専門的には「経験学習」と呼ばれます。
その方法の1つとして、およそ1万5000人の行動変容データをもとに私が開発したのが、夜、寝る前などに、その日に「できたこと」を書き出し、1週間に一度、それについて内省することで、よりよい習慣を身につけるメソッドです。
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「できたこと」といっても、小さなことでかまいません。たとえば、次のようなことです。
・パソコンの中のフォルダを整理した
・初めてアポイントが取れた
・丸1日、子どもと公園で遊んだ
・いつもより10ページ多く勉強した
・早起きをして満員電車を避け、一駅歩いた
・宴会の幹事を引き受けたことに感謝された
私はこのメソッドを「できたことノート」と名付けていますが、ここでいう「内省」は、頭の中で考えをめぐらすだけでなく、それを文章(内省文)として書きます。
私たちは、「できなかったこと」をどうやったら「できるようになるか」と考えることはよくあります。
ところが、ほとんどの人が、「できたこと」に対してはあまり深く考えません。「できたこと」に満足して、そのことに疑問は持たずスルーして、すぐほかのことを考えてしまいがちです。
だからこそ、いったん立ち止まり、「なぜ、うまくいったんだろう?」と、自分に向かって質問をすると、「こんな原因があったから、こうなったんだな」と考えが深まります。
すると、「次はこんなやり方にしてみようかな」と、工夫することや改善すべき行動を思いつきます。こうして人はよりよい行動を取れるようになっていくのです。
「できたこと」を深く考える質問
内省といっても、何を考えたらいいのかわからない人も多いでしょう。
それを誰でも簡単にできるようにする方法があります。それは、「質問」です。質問をきっかけにして、私たちの「深い思考」はスタートするのです。「できたこと」から深い思考を引き出していくための質問は、次の4つです。
① 具体的に何があったのか?(=詳しい事実)
② なぜそれができたのか?(=原因の分析)
③ いま、素直にどう感じているか?(=本音の感情)
④ 明日からどんな工夫をしてみるか?(=次なる行動)
実際の例として、健康診断を間近に控えたカフェ好きの女性Dさんの内省を見てみましょう。
できたこと:レジ横に並んだ焼き菓子を買うのを我慢できた
①具体的に何があったのか?
7月9日のランチタイム、お気に入りのカフェに同僚のTさんと一緒に入ったが、いつもは追加で買ってしまう、レジ横に並んだ美味しそうな焼き菓子を、買わずに我慢することができた。
②なぜそれができたのか?
ウエストが気になってきたし、最近、体重が増えやすくなったような気がするから。また、今度、健康診断もあるので、それまでには少し絞ったほうがいいと考えたから。
③いま、素直にどう感じているか?
お菓子を我慢できたことはうれしい。自分もやればできるな、と思う。ただ、このまま健康診断を受けるのはちょっと不安。少しは運動をしないとまずいかなと思う。
④明日からどんな工夫をしてみるか?
お菓子を我慢するだけじゃ足りないかもしれない。最近、体を動かしていないから、健康のためにも少し運動をしてみよう。とりあえず明日から、会社ではエレベーターを使わず、階段を歩いてみることにしよう。
「内省」は「反省」とは違うもの
ここでいう「内省」は、「反省」とは違います。
反省のように「できなかったこと」を振り返って原因を探っていくのは苦しい作業ですが、「できたこと」を振り返って内省するのは、むしろ楽しい作業なのです。
そして、さらによくするための工夫や発見があれば、もっとうれしくなりますよね。
考えついた工夫を実践したら、またさらに「できたこと」が増えていくのですから。これを繰り返すことで、自分をポジティブに変化させていくことができます。
また、日々の中で書き出した「できたこと」には、あなたの価値観が表れます。1週間分の「できたこと」はつまり、あなたが人生の中で大切にしていることの集まりです。それを通じて自分を深く知ることは、とても意味のあることなのです。
「内省」とは、単なる日記を書くのではなく、自分を深く観察すること。よく考えて自己分析する行為です。
ところが、深く考えようとしても、なぜか思考が止まってしまうことも多いものです。最後に「思考停止に陥る3つのワナ」を紹介しておきます。
思考停止に陥る3つのワナ
ワナ① 感情が先に立つ
人間ですから感情があります。でも、「うれしい」「楽しい」「悲しい」「不安だ」といった感情が先に立つと、文字通り「感情的」になってしまい、事実を冷静に見つめることができなくなります。
感情に触れることは、行動につながる大切な要素ですが、感情が先にくると、深い思考の妨げになってしまいます。あくまで「事実を冷静に見つめたあとに、感情に触れる」という順番がよいのです。
ワナ② 程度があいまい
程度を表す言葉をいい加減に使ってしまうのは、思考が停止している証拠。「徹底的に」「積極的に」「主体的に」といった「○○的に」という言葉や、「しっかり」「もっと」「はっきりと」などの副詞を使った言葉は、どの程度のことを表しているのかは非常にあいまいです。
たとえば「積極的にコミュニケーションを取る」といっても、実際にどれくらい何をするのかはよくわかりません。
ワナ③ 報告文になってしまう
内省は「自分自身の心との会話」なのに、まるで上司に報告するかのような文章を書いてしまう人もいます。
「今週はできませんでした。すみません。来週がんばります」のような文章は、他人に向かった反省文です。自分の心との本音の会話ではないので、やる気に影響を及ぼすことはなく、前向きな行動につながることはありません。
これら「3つのワナ」によって、人は深く考えることをしなくなってしまいます。
そうした状態に陥らないためにも、先ほどの「4つの質問」があるのです。ぜひこれらを駆使して、より深く自分を知るのに役立てていただければと思います。