経営において本質的に大事なことは、たったひとつ。それは、会社が「生きている」ことである。
『現場力を鍛える』『見える化』など数多くの著作があり、経営コンサルタントとして100社を超える経営に関与してきた遠藤功氏は、「30年間の結論」として、会社や組織は「見た目の数字や業績」より、本質において「生きている」か「死んでいる」かが重要だという。
30年の集大成として『生きている会社、死んでいる会社――「創造的新陳代謝」を生み出す10の基本原則』を上梓した遠藤氏に、「死んでいる会社」の「死んでいる現場」に共通する「6大NG」について解説してもらう。
現代の社会は「死んでいる現場」が激増している
30年の長きにわたって、経営コンサルタントという仕事をやってきた。100社以上の会社と濃密なお付き合いをし、ここ10年近くは複数の会社の社外取締役、社外監査役としても経営に関与してきた。
その経験を通して確信して言えることがひとつある。それは「会社は生きていなければならない」ということだ。「生きている会社」と「死んでいる会社」をどう見分けるのか。それは「現場」を見れば一目瞭然である。
会社は価値創造を営んでいる。その最前線が「現場」である。「生きている現場」は活気があり、そこで働く人たちの目がイキイキとしている。しかし、その「現場」の活気が乏しく、そこで働く人たちの目が死んでいたら、競争力ある魅力的な価値など生まれるはずもない。
その典型例が、日本の製造業で頻発する品質検査不正である。鉄鋼、自動車、油圧機器など日本を代表する企業の「現場」で、品質の根幹である検査データを偽るというありえないことが続出している。「現場」が死にかけている典型的な症状である。
「死んでいる現場」は製造現場だけではない。物流の現場、小売りの現場、サービスの現場などあらゆる「現場」の質が著しく劣化し、さまざまな問題が露呈し、会社の屋台骨を揺るがす事態が起きている。航空会社でも、パイロットから基準を大きく超える血中アルコール濃度が検出され、逮捕されるというありえないことが起きている。
「現場」は日本企業の競争力の根幹である。この状況を放置していたままでは日本企業の未来などありえない。
それでは、「死んでいる現場」はどう見分ければよいのか。ここでは、6つのその典型的な危機的症状を紹介したい。
「死んでいる現場」に見られる6つの症状の1つ目は、「未来の目標が定まっていない」ことである。
「現場」を未来に向かわせることが大切
【1】未来の目標・ゴールが定まっていない
「死んでいる現場」はきわめて近視眼的で、目先のことばかりを気にする。「今日の出荷をどうしよう」「顧客のクレームにどう対応しよう」など、今起きている事象を、「なんとかこなす」ことばかりに目がいきがちである。
「現場」は価値創造の当事者だから、今日、明日のことを考え、実行することは重要である。決められたノルマを果たすことは、「現場」の任務である。しかし、それだけでは「現場」に活力は生まれない。
「生きている現場」になるために重要なのは、ワクワクするような「未来への共感」である。そのためには、目指すべき「未来像」を大きく掲げ、「現場」と共有しなければならない。未来の目標・ゴールが定まっていなければ、「現場」はその日暮らし、その場しのぎを繰り返すだけである。
【2】外を見ようとしない
「現場」は閉鎖的かつ同質的な空間であり、集団である。外の世界に関心が薄く、外を見ようとしない。だから、自分たちを取り巻く環境の変化にきわめて鈍感である。自分たちだけの世界に閉じこもり、内向きになり、内部の論理ばかりが幅をきかせるようになる。
会社は変わりゆく環境の中で、変わり続けなければならない。そして、現場も「生きている現場」として環境変化に対応できなければ、会社が永続することはありえない。
にもかかわらず、「死んでいる現場」は自分たち以外の世界が大きく変わろうとしている事実を知ろうともしない。外を見ないのだから、刺激を受けることもなく、学習しよう、自分たちを変えようという意欲が湧いてくるはずもない。
「死んでいる現場」の3つ目の症状は、「自分たちの常識に凝り固まっている」ことである。
”過去の常識”を否定せずに、”新たな常識”は生まれない
【3】「過去の常識」に凝り固まっている
「死んでいる現場」は、外を見ようとしないのだから、「過去からの自分たちの常識がいかに今の世の中とずれているか」に気づくこともない。いつまでたっても「これまでの常識が正しい、これまでの常識でこれからもやっていける」と勝手に思い込んでいる。
「現場」は日常的なオペレーションに従事しているから、これまでの「常識」を否定しにくいのは事実である。「過去の常識」どおりにやったほうが無難で、リスクもなく、楽である。
でも、それでは「現場」は進化しない。今の「生きている現場」に求められているのは、「過去の常識」を否定し、「新たな常識」を生み出すことである。
過去の成功体験がもたらす「過去の常識」ほど、会社の進化を妨げるものはない。「過去の常識」をむやみに信じることは、思考停止を意味している。思い込みほど怖いものはない。
【4】惰性に流されている
多くの会社の「生きている現場」ではオペレーションの品質を高めるために、さまざまな活動が行われている。5S(整理・整頓・清潔・清掃・しつけ)活動、改善活動、QC(品質管理)活動など、効率化や業務品質を高めるための活動が長年にわたって実施されている。
こうした活動は一見地味だが、「現場」の基礎体力を磨くとても重要なものである。スポーツ選手にたとえれば、筋トレである。筋トレをおろそかにして、一流になったスポーツ選手はいない。
しかし、「死んでいる現場」ではこうした活動が形骸化し、やらされ感ばかりが蔓延している。何のためにやっているのか、なぜこうした活動が必要なのかを理解もせず、「上からやれと言われているからやっている」といった惰性に流されている。これを放置したままでは、「現場」の士気は上がらず、成果が上がるはずもない。
「現場から主体的にモノを申さない」ことも、「死んでいる現場」でよくある症状である。
【5】モノを申さない
多くの「死んでいる現場」では不満や不安が渦巻いている。人手が足りない、設備投資してくれない、方針がコロコロ変わるなど、経営に対する不信感が根強い。
だからといって、「現場」が主体的にモノを申し、発言したり、提言したりしているかといえば、そうではない。陰でこそこそ文句を言うことはあっても、上司や経営陣にモノ申すほどの気骨はない。
「現場」は価値創造の当事者であり、主役である。「生きている現場」は未来に向かって、建設的、前向きな意見をどんどんあげている。これは、会社にとってきわめて重要である。
陰でグチるだけの「死んでいる現場」のままでは、生き返ることなどありえない。
【6】「変なプライド」だけはある
「死んでいる現場」はモノを申すことはしないくせに、「変なプライド」だけは高い。自分たちが会社を支えている、過去にはこうやって成功してきたという歪んだ自負心だけが突出している。
「現場」にとってプライドは大切である。自分たちの仕事に誇りを持つことは、間違いなく仕事の品質を高める。
しかし、「プライド」と「自慢話」は違う。過去の自慢話ばかりをとうとうと語る「変なプライド」は、「現場」の進化の邪魔をする。
「生きている現場」にある真のプライドとは、過去の成功体験をあっさりと捨て去り、未来に向かって突き進もうとする心の持ちようのことなのである。
全社を挙げて「死んでいる現場」を本気で再生せよ
現場が「死んでいる」状態になっている原因の多くは、実は「現場」にあるのではない。その真因は経営トップや本社、本部にある。経営トップが夢やビジョンを語らず、本社、本部が構築する制度や仕組みが機能不全になっているために、さまざまな問題が症状として「現場」で露呈するのである。
もちろん、「現場」自らも大いに反省し、変えるべきことは変える、正すべきは正すことが求められる。しかし、「死んでいる現場」という事象を「現場の問題」に矮小化してはならない。
「現場」はこれまでも、そしてこれからも日本企業の屋台骨であり、根幹である。その「現場」を元気にし、強くし、そして会社の主役にすることが、すべての日本企業に求められている。
「生きている現場」をつくることは、全社を挙げて本気で取り組むべき最重要な経営テーマである。それが実現できれば、日本企業は必ず再生できると私は確信している。