「理論価格がまったく成立しない」マンション大暴落の底なし沼

新型コロナウイルスの影響は、商業施設、住宅といった不動産市場にも大きな影を落としている。不動産コンサルタントの長嶋修氏は「現在のマンション・一戸建て販売については、理論価格がまったく成立しない状況。底なし沼だ」という――。

■国内不動産市場は「底なし沼」

「国内外からの観光客でホテルや店舗向け需要が高まっていること、それに働き方改革で職場環境を改善しようと、より広いスペースを確保しようとする会社が増えてオフィス需要が高まっている」

先月公表の全国地価公示(1月1日時点)で躍ったこうした文言も、どこかに吹き飛んでしまった。国内不動産市場の現状は「底なし沼」だ。

国内・海外の株価はもちろん経済指標も軒並み大幅悪化。WTO(世界貿易機関)は8日、2020年の世界のモノの貿易量が前年比で最大32%減るとの予測を公表しており、NTTドコモのデータによれば緊急事態宣言後の週末4月12日、東京や大阪などの中心部では、感染拡大前の水準に比して、70%以上人出が減少した。

政府による不要不急の外出自粛要請や緊急事態宣言に加え、3月の外国人新規入国者数は15万2000人と前年同月の250万4000人から9割超減(出入国在留管理庁)。また2月の国際収支統計(速報・財務省)によれば旅行収支の黒字は前年同月比71%減の579億円と、2015年9月以来の低水準。人が動かなければ経済も動かず、不動産市場には大打撃だ。

■ホテルの稼働率、百貨店の売上高は壊滅的

まずはホテル業界。3月の稼働率は30.5%で、とりわけ東京、大阪はともに20%台に低下。リーマン・ショックや東日本大震災後は60%程度だったのに比して格段に落ち込みが激しく、休館や開業延期が相次いでいる。民泊やマンスリーマンション、貸会議室やイベント会場などは言うまでもない。

商業系も壊滅。3月の売上高についてJ.フロントリテイリング(大丸松坂屋百貨店)は43%減、高島屋は36.2%減、三越伊勢丹ホールディングス(三越伊勢丹)は39.8%減、そごう・西武が31.9%減、エイチ・ツー・オーリテイリング(阪急阪神百貨店)が28.1%減とインバウンド需要がほぼゼロになったことに加え、3月の景気ウオッチャー調査によると、街角景気の現状判断指数(DI)は前月から13.2ポイント下がり14.2となった。08年リーマン・ショックや11年東日本大震災後を下回る。飲食などのテナントを抱えるビルもアウト。

西村康稔経済再生相は13日の参院決算委員会で、新型コロナウイルスの感染拡大による自粛要請に応じた店舗に対し自治体が独自に行う休業補償について、国から地方自治体に配分される臨時交付金は財源に充てられないと答弁するなど、業界は戦々恐々だ。オフィス系には今のところ影響は見られないが、コロナ騒動で急速に進展するリモートワーク化で、オフィス床ニーズには大きな減少圧力がかかる。

■新築マンション・一戸建て販売はほぼストップ

住宅系はどうか。まず、新築マンション・一戸建て販売は、ほぼストップといっていい。三井不動産レジデンシャルや住友不動産・三菱地所レジデンスは一部を除いて新築マンションモデルルームなどの販売拠点を閉鎖している。

大手ハウスメーカーの2020年3月の受注速報によると、消費税増税の影響が残るなかで、新型コロナウイルスの影響もあり、戸建住宅を中心として落ち込みが目立ち、大和ハウス工業は戸建住宅受注が20%減、住友林業は30%減、旭化成ホームズ32%減、積水化学工業・ミサワホーム・パナソニックホームズも軒並み2ケタ減と全く振るわないが、4月以降はもっと悪い数字が出るだろう。

足元ではH形鋼など主な建築用鋼材の流通価格が需要不足によって前月比2%下落、前年比では5~10%の減少幅で推移しており、事態が長引けばやがて建築費の下落圧力になりそうだ。清水建設は13日、建設現場において勤務者がコロナ感染したことから7都府県での工事を原則中止すると発表しており、足元ではさらなる需要減が見込まれる。

■各国は家賃滞納者に猶予を与えているのに…

賃貸住宅市場には、一部を除いて大きな影響は出ていない。人は必ずどこかに帰らなければならないからだ。しかし残業がなくなったり、仕事そのものがなくなったりすれば家賃を支払うことが難しくなる向きは増える。

米国では個人や企業が家賃を滞納しても、家主は120日間延滞料を徴収しないとする経済対策法が成立。さらに家主がローンを払えなくても、60日間は金融機関が差し押さえできず金融機関に返済の6カ月延期を求めることができ、最大1年は支払いを先延ばしできる。期間終了後も、家主は通知後30日以内の立ち退き要求ができない。

英国では、6月30日まで家賃未払いを理由とした家主による退去要請を禁止。ドイツは家賃滞納による解約を禁止、4~6月分の家賃に限って2年間支払いを猶予する他、小規模の自営業者を対象に最大1万5000ユーロ(約180万円)をスピード給付する制度を導入した。オーストラリア政府も7日、家賃滞納による契約終了や、未払いに伴う手数料と利息の徴収を禁じると発表。シンガポール政府も企業や個人事業主に最大6カ月の家賃の支払い猶予を与える措置を決めた。

こうした他先進国の措置に比べわが国政府は、家主に賃料支払い延期を要請するに留まる。

■中古マンション市場の先行きはどうなる?

中古マンション市場は、とりわけ都心部において日経平均株価と連動する。

【図表】「日経平均株価」と「都心3区中古マンション成約㎡単価」

現在の都心中古マンション成約平米単価は、株価が2万4,000円水準のもので、もし株価が1万9,000円程度で推移するなら、10~15%程度下落してもおかしくはない。ニューヨーク・マンハッタンの住宅価格は1~3月に11%下落、「外出自粛により住宅物件を見に行くことが難しくなった」「市況の先行き不透明感から消費者が売却を控える傾向が強まったこと」といった傾向が響いた。

都心マンションがアベノミクス以降1.7倍程度上昇したのに対し、東京郊外や神奈川・埼玉・千葉の上昇率は1.2~1.3倍程度と限定的で、下値もしかりだろう。

【図表】首都圏中古マンション平米単価の推移

■今後の相場は「政治動向」次第になる

一戸建ては新築・中古とも一部を除き、アベノミクス以降せいぜいプラス5%と、さしたる上昇を示していない。

【図表】不動産価格指数(住宅/南関東)

新築マンション市場は大手デベロッパーによる寡占化が進み、かつての経済危機時のように投げ売りから暴落へ向かうといった市場構造にはないが、このままだともちろん一定程度下げて売るしかないだろう。

現時点での不動産市場は、理論価格が全く成立する状況になく、結局は新型コロナの終息いかんにかかっている、としか言えない。仮に一定程度の落ち着きを見せた後は「政治動向」次第だろう。

12年の民主党から自民党の政権交代以降、株価や不動産市場を支えてきたのは「アベノミクス」であり「日銀の政策」だからだ。仮に安倍政権がチェンジということになれば、「必要があればちゅうちょなく追加の金融緩和に踏み切る」(黒田日銀総裁・9日)といった現行の姿勢が変わる可能性もある。

■「次の首相」がどのような経済政策を打ち出すか

共同通信による最新の電話世論調査では、安倍内閣の支持率は40.4%で、3月26~28日の前回調査より5.1ポイント減。不支持率が43.0%と上回った。「休業補償すべきだ」82.0%、「布マスク2枚を評価しない」76.2%といった声が響いた。

とはいえNHKの最新世論調査における各党の支持率は「自民党」33.3%・「立憲民主党」4.0%・「国民民主党」0.5%・「公明党」3.3%・「日本維新の会」1.6%・「共産党」2.9%・「社民党」0.6%・「れいわ新選組」0.5%「NHKから国民を守る党」0.2%・「特に支持している政党はない」45.3%と、消去法的に自民党しかなく、野党が束になってもかなわないといった情勢だ。

一方で『週刊文春』は「和泉首相補佐官が厚生労働省大坪審議官とのコネクティングルーム宿泊にこだわり、外務省側はその調整に奔走していた」「森友問題で自殺した近畿財務局職員の手記公表」など、現政権に対する打撃を緩めておらず、産経新聞・FNNの最新合同世論調査において「次の首相にふさわしい政治家は、石破氏がトップ」と、現首相や小泉環境相を上回っており、そうなるとアンチ安倍政権といった姿勢を隠すこともしなかった石破氏がどのような経済・財政政策を標榜するのかに注目が集まる。

いずれにせよ「アフターコロナ」の世界は、不動産市場に限らず激変必至だろう。

———-長嶋 修(ながしま・おさむ)
不動産コンサルタント
さくら事務所会長。1967年生まれ。業界初の個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」を設立し、現在に至る。著書・メディア出演多数。YouTubeでも情報発信中。

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(不動産コンサルタント 長嶋 修)

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