「環境格付け」で高評価の日本企業が増えたわけ 政府の支援が後押し、株価上昇の好循環も

温室効果ガス削減の努力など、環境分野の情報開示の取り組みで優れた企業を評価しているのが、イギリスに本部を置く国際非営利組織CDPだ。気候変動、水資源、森林保護の3分野について、企業の環境分野における努力や情報開示の質をAからDマイナスまでの8段階でランク付けしている。

 そのCDPによる気候変動分野の評価でこの1月、番狂わせが起きた。20日に発表された2019年の評価結果において、2018年(20社)の2倍近い38社の日本企業が最上位のAリスト入りし、企業数でアメリカを抜いて世界首位に躍り出たのだ。

 評価の対象となったのは全世界の企業約8400社で、そのうちAリスト入りした企業は179社。Aリスト入りした日本企業は21%を占めた。

日本企業にいったい何が起きたのか

 「Aリストは、回答企業の2%しか該当しない。そのAリストで日本が国別でトップになったことで、ロンドンやニューヨークなど世界各地のCDPオフィスでは、『日本企業にいったい何が起きたのか』と話題になっている」

 CDPジャパンの高瀬香絵シニアマネージャーは、1月20日の記者会見で衝撃の大きさをそう表現した。

 CDPの評価が重みを持つのは、世界の525の機関投資家(運用資産総額約96兆ドル)がCDPの取り組みに賛同していることにある。ESG投資が拡大する中で、高評価を得られないと投資家からの資金が入りにくくなっている。そのことを背景に全世界で8400社以上の企業がCDPに回答している(日本企業の回答社数は356社)。回答企業の時価総額は全世界の時価総額の5割以上を占めているという。

 CDPの評価で最上位のAを獲得するには、厳しい条件を満たす必要がある。「気候変動課題のガバナンス体制に、取締役レベルで密に対応しているか」「温室効果ガスの削減目標がパリ協定で定められた目標と整合しているか」「再生可能エネルギーの調達率が全体のエネルギー使用のうちでどのくらいの割合を占めているか」などが評価の尺度になる。それぞれにおいて点数付けされ、一定の評価を得た企業に限り、Aリスト入りできる。

 Aリスト入りした企業は、株価の面でもアウトパフォームの傾向が読み取れる。株価指数の算出・管理を行うヨーロッパの金融サービス企業STOXXは、CDPのAリスト企業だけで構成される指数を設定している。

 同指数は、グローバル企業1800社を対象とした指数よりも年率で平均5.5%アウトパフォームしている(2011年末から2019年頭までの実績)。とくに、機関投資家によるESG投資が本格化してきた2016年あたりからその傾向は顕著になっている。

さまざまな業種の企業がAリスト入り

 今回Aリスト入りした38社は、トヨタ自動車や積水ハウス、パナソニック、アサヒグループホールディングス、東京製鉄、丸井グループ、小野薬品工業など、さまざまな業種の企業で占められている。

 5年連続のAリスト入りとなったソニーの神戸司郎・執行役常務によれば、「2050年をメドに環境負荷をゼロにする長期ビジョンを2010年に策定し、温室効果ガス削減の努力を続けてきた。そのことに加え、全社レベルで再エネ導入を進めてきたことなどが評価されたのではないか」という。

 ソニーでは製品設計の不断の見直しにより、全製品の消費電力を2018年度時点で2013年度比51%削減。2040年までに自社で使用する電力の100%を再エネで賄う方針を明らかにしている。

 4年連続でAリスト入りした川崎汽船は「風力エネルギーの活用により船の運航における燃料消費を20%削減すべく取り組みを進めている」(浅野敦男専務執行役員)と語っている。

 アスクルは、自社グループで使用する電力のすべてを再エネ電力で賄う取り組みの「RE100」に加盟し、2030年までに達成すると宣言している。

 38社もの日本企業がAリスト入りした背景には、政府による支援もある。

 環境省は、今世紀末の気温上昇を産業革命時から2℃以内に抑えるべく、「企業版2℃目標」の設定支援事業を3年以上にわたって実施している。温室効果ガス削減をパリ協定と整合的に進める取り組みである「サイエンス・ベースト・ターゲット」(SBT)の認定企業は増えており、SBT認定企業数(60社)はアメリカの61社に次ぐ世界2位となっている(1月20日現在)。

 SBT認定されると、CDPによるリーダーシップ評価の「削減目標」で高得点につながる。

 また、G20金融安定理事会の「気候関連財務情報開示タスクフォース」(TCFD)の報告書への賛同企業数で日本は世界トップとなっている。経済産業省が「TCFDサミット」の第1回会合を日本で開催するなど、日本企業に賛同を強く働きかけていることが背景にある。CDPの質問はTCFDに準拠したものになっており、TCFD賛同企業の多さがCDP回答企業数の増加につながっている。

再エネ調達の後れが今後足かせに

 もっとも、Aランク入り企業が増えているからといって有頂天になっていられない状況もある。

 CDPジャパンの高瀬氏は「日本企業が高評価を獲得し続けるには、再エネ調達を大幅に増やしていく必要がある」と指摘する。というのも、「(Aリスト入りのハードルが)2020年以降、上がる可能性がある。その場合、再エネ調達で後れを取っている日本企業に不利に働く」(高瀬氏)ためだ。再エネ調達の遅れは、評価項目の1つである温室効果ガス削減状況での低評価にもつながる。

 Aリスト企業のうち、アップルやグーグルの親会社であるアルファベットなどは自社で使用する電力の100%を再エネで賄うことに成功している。これに対して、日本企業は全般に再エネ調達の遅れが目立つ。石炭など火力発電への依存度が高く、国内での再エネ電力の普及が遅れているためだ。

 CDPジャパンは、再エネ導入促進策の強化とともに、温室効果ガス排出削減目標の引き上げや炭素税の導入など「意味のある水準でのカーボンプライシング規制」の導入を日本政府に求めている。いずれも、エネルギー政策の根本的な転換につながるものだ。

 そうした取り組みが進まなければ、日本企業の環境への取り組みは壁に突き当たることになる。世界的なサプライチェーンから外される懸念もある。「Aリスト企業数世界一」が今後も続くかは未知数だ。

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