ここ最近、「退職代行サービス」をよく耳にするようになった。先行したEXIT社の「EXIT」というサービスを皮切りに、合同会社ゼロの「SARABA」や、ウラノス法律事務所の「ウラノスの退職代行」といった競合サービスが乱立している。
簡単にサービス内容を説明すると、退職希望がありながら退職できないユーザーに対して、退職手続きをアドバイスし、退職の連絡を本人に代わって行うというものだ。その際にサービス利用料を3万~5万円(EXITの場合で、アルバイトの退職は4万円、正社員の退職は5万円)を支払う。
何を隠そう、筆者の所属する会社でも、新サービスとして退職代行サービス「リスタート」を開始した。転職支援をしている中、「前の会社を辞められない」という相談を数多く受けてきたため、退職から転職までのサポートを一貫して行えるような体制を作りたい、と考えたからだ。
では、なぜ今、このような退職代行サービスが求められるのか、その原因や背景について触れていきたい。
相次ぐ退職代行サービスへの参入
まず、退職代行のサービスの流れは、下記の通りとなる。
STEP1 : サービス申し込み
STEP2 : 担当者がLINEや電話にてヒアリング(退職理由、退職交渉の状況等)
STEP3 : 料金支払い
STEP4 : 退職者本人が対応する必要がある事項の実施(退職届の提出、制服の返却等)
STEP5 : 担当者が会社に退職連絡を代行(退職理由の説明等)
STEP6 : 退職完了
なお、弁護士のいる法律事務所を除けば、非弁活動(弁護士以外の人が報酬をもらって法律にかかわる仲裁や和解の交渉をすること)は、法律違反になる。そのため退職代行サービスの事業者ができることは、非弁活動にあたらない退職の伝言や説明、質問などに限られる。UZUZでも非弁リスクを避けるために、顧問弁護士の指導を受けながら業務を行っている。
しかし、皆さんは不思議に思わないだろうか? なぜ、最大5万円という決して安くはない料金を払ってでも、退職代行サービスを利用する人がいるのか。退職自体は労働者の権利として認められているため、退職届を提出すれば、早ければ2週間で退職することができる。
それでも、退職代行サービスを利用せざるを得ない状況を作り出している背景について、考えてみたいと思う。
弊社を訪れる相談者の話を聞いていると、退職代行サービスを利用するケースには、大きく3つのケースがある。
ケース1 「パワハラ上司」への恐怖から退職できない
実際に相談に来る事例のほとんどは、この「パワハラ上司」による退職ケースとなっている。パワハラ上司は、退職代行を依頼する理由となっているだけでなく、退職の直接的な理由にもなっていることが多い。
日常的に高圧的、かつ部下の人格否定に近い叱責を行う傾向があり、退職者は上司に対して、嫌悪感を通り越して恐怖心が芽生えてしまっている。上司の意にそぐわないことを言えば、叱責されることがわかりきっているので、退職を切り出したくても、自分では切り出すことができない状況がある。
理由をつけて辞めさせないケースも
ケース2 引き継ぎが完了するまで退職できない
引き継ぎが完了するまで退職できず、その引き継ぎに時間がかかりすぎるケースも少なくない。業務が専業化され、ある特定の業務をほぼ1人で担当するなど、属人化されていたり、引き継ぎのためのマニュアルがなかったりといった職場に多く見られる。
そのため、自身の業務をゼロからマニュアルに落とし込み、後任を育てない限り、辞められない状況となっている。時には人員不足のため、「後任者が採用されるまで」と言って、退職を引き延ばす会社もある。結果として、退職したい時期に退職ができなくなり、場合によっては退職を諦めるというケースもある。
ケース3 のらりくらりと退職話をかわされて退職できない
一度は退職の意向を上司に伝えても、「一旦預かる」と言われたまま、一向に話が進まないケースもある。上司から退職の手続きを進めることはなく、自分から退職の話をしても、「退職の原因となっている状況を改善している」「もう少し時間をかけて考え直してみては」と、時間を稼ぐような対応が多い。
こうしたことが起こる背景には、評価制度や人員不足が大きく影響している。特に退職者が出ると管理職にとっては自らの査定に響くため、ネガティブな評価を避けたいと考える上司が多いように感じる。人員面でも、退職者が出ると業務を分散させなければならず、残った現場社員の負荷がさらに増す。2のケースと似ているが、長期戦に持ち込むことで退職への気持ちが沈静化する、退職を諦めることを期待しているようだ。
このように、退職代行サービスを利用するケースでは、退職の意思が固まっているにも関わらず、会社(特に上司)との直接交渉が難しく、仲介者が間に入る必要がある点が共通している。
退職の意思を固めているということは、仕事へのモチベーションも下がっているため、会社にとっても、その社員をどうしても引き留めなければならない理由はないように思う。しかし、実際のところ、社員をあの手この手で引き留めようとする会社は存在する。今後さらに「社員を辞めづらくする会社」が増えていくと予想している。
なぜなら、売り手市場の傾向が今後もしばらく続くため、人員を補充するとなると、採用コストがかさむと考えられるからだ。さらに厳しい状況となると、お金をかけても採用できない状況すら発生し得る。世代構成的にも、少子高齢化が進み、退職者(特に団塊の世代)が増える一方、入社者(新卒採用)が減るため、人員を現状維持させることすら難しくなる。
また”ブラック企業の烙印”を押される業界や企業も近年増えている。厚生労働省から、労働基準関連法に違反した企業リスト(労働基準関係法令違反に係る公表事案)が公開されたり、口コミサイトやマスメディアによって、ブラック企業(業界)がすぐに広まるようになってきている。新卒3年内離職率などが高い企業は「労働環境が良くないのでは?」と、特に新卒や若手人材から敬遠される傾向だ。
それによって、飲食や介護、建設業界のような不人気となってしまった業界は、採用がより一層難しくなっている背景から、「労働環境の改善」よりも「人材の引き留め」を最優先させる会社が増えてもおかしくはない状況となっているのだ。
精神疾患になってから辞めるのでは手遅れ
基本的には、費用がかかる退職代行サービスを利用するより、できるだけ自力で退職した方がいい、と筆者は考えている。費用がかかること以外にも、自力で退職した方が円満退社となることも多く、退職後も一緒に働いた人たちとの人間関係を継続することができる。
ただ、今の仕事を続けていると、精神疾患(うつ、適応障害など)を患ってしまう恐れがあるのであれば、話は変わってくる。退職代行サービスのような外部のサポートを受けてでも、早急に退職を進めた方が良い。一度精神的に病んでしまうと、回復に時間がかかってしまうだけでなく、退職後の転職活動も難航してしまう恐れがある。
何よりも自分の健康が第一なので、場合によっては「退職代行サービス」というものを利用できるよう、そういったサービスがあるということだけでも、頭の片隅に置いておいて損はない。