「高級食パン」ブームに異変、消費マインドを分析 「高級食パン指数」からわかる消費の先行き

高級食パン専門店の閉店が相次いでいるという。デイリー新潮は1月24日、「ふわふわで甘い『高級食パン』ブームに翳り 半年と持たず閉店する店舗も」との記事を配信し、「最近は人気に翳りが見えてきたようだ」「高級食パンは価格と価値が一致していなかった」「長くビジネスをする気はなかったのではないか」というマーケティングアナリストの分析を紹介した。

約1年前に「高級食パン景気指数」を作成&紹介したエコノミストとしては、反応せざるを得ない報道である(詳しくは東洋経済オンライン・2020年12月18日『「高級食パン景気指数」が示す消費の底堅さ』)。筆者はここで、高級食パンはブランド品などと比べれば手が届かない価格帯ではないが、ちょっとリッチな気分になれる「プチ贅沢」の代表のような商品であり、消費マインドの変化を占うのには最適だとしていた。

消費者の景況感が変わってきている

今回の「ブーム」に異変が生じているという報道について、結論を言えば予想どおりである。筆者が毎月作成している指数でも2021年の秋ごろから「高級食パン」市場の悪化シグナルが出ており、違和感はない。

筆者が機関投資家向けに配信しているレポートでは1月7日に「食品値上げが続く中、家計の『プチ贅沢』機運が維持されるかどうか注目される」と分析していた。今回の報道については「やはり……」という面がある。

たしかに、「高級食パン」の検索数は2021年以降急減しており、一時的なブームが去ったという面はありそうだが、筆者はそれだけではないと考えている。高級食パンブームはそれなりに長続きしたものの、消費者態度がこのところ変化したとみている。

筆者は、家計調査における消費金額と消費数量データより求めた「食パン」の単価を、消費者物価指数の「食パン」の指数で除した「高級食パン景気指数」を独自に算出してきた 。「高級食パン景気指数」は、家計が購入する「食パン」が相対的に高いものに向かっているかどうかを示しており、「高級食パン」の食パン市場全体における「シェア」の代理変数と言える。

「プチ贅沢」と「巣ごもり消費」は一巡

指数によると、確かに足元で急速に悪化している。しかし、「ブームの終焉」のほかに、2021年後半からは何らかの下押し要因があったと考えられる。その正体は、①プチ贅沢マインドの低下と、②巣ごもり消費の一巡、だと、筆者は考えている。

「高級食パン指数」における「ブーム以外」の影響を抽出するため、「高級食パン景気指数」をGoogleトレンド「高級食パン」(キーワードの検索回数)で回帰した残差をみると、2020年央から2021年央にかけて押し上げ方向に寄与したことがわかる。

ちょうど、コロナ禍の行動抑制が強かった期間であり、コロナ禍が「プチ贅沢」や「巣ごもり消費」を促していたといえよう。足元ではこの回帰残差の押し上げ効果が低下しているため、消費マインドは弱くなっている可能性がある。「高級食パン」の不振の背景には、マクロ的な消費者の変化もあるようだ。

「サービス消費」回復なら「巣ごもり消費」は減る

むろん、「巣ごもり消費」が減ってきた背景にはワクチンの普及などによる「経済再開」という面もあるため、日本経済全体にとって必ずしも悪い話ではない。しかし、「経済再開」によるサービス業の回復と「巣ごもり消費」の維持は両立しないという事実も重要である。「経済再開」への期待が高まる中、財消費(モノの消費)が抑えられることで、消費全体としてはそれほどアップサイドがないのかもしれない。

また、当面の個人消費の最大の課題は「食品値上げラッシュ」である。「巣ごもり消費」や「プチ贅沢」の減少に食品値上げの影響が加われば、消費マインドの悪化は免れないだろう。

「高級食パン」ブームの特徴は、他のブームよりもかなり息が長かったことである。Googleトレンドで「タピオカ」「マリトッツォ」のスコアの推移と比べると、「高級食パン」のスコアは典型的なブームとは異なる動きとなっている。

おそらく、「高級食パン」も短期的なブームで終わった可能性もあったが、コロナ禍における「巣ごもり需要」と強制貯蓄(コロナ禍で消費ができなかったお金の蓄積)や現金給付金による特需が「プチ贅沢」のニーズとなり、注目を集め続けたのだろう。そのように考えると、そもそも「ブームの終焉」が、足元の消費者態度の変化によってもたらされている可能性もある。

なお、筆者が知る限り「わらび餅」(正確には「わらび餅ドリンク」)がポスト・タピオカとして(一部で)注目されているようだが、現状では盛り上がりに欠けるようである。「高級食パン」のような時代にマッチした商品はなかなか生まれにくいのだろう。

今後は、新たなヒット消費が注目されるか否かが、プチ贅沢復活のシグナルとなりそうだ。

末廣 徹:大和証券 シニアエコノミスト

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