「1日中ゲームをしている子どもがぴたりとやめる」精神科医が勧める意外すぎる裏ワザ

新年に立てた目標を達成するのは大人でも難しく、子どもにとってはなおさらです。精神科医の井上智介さんは「よくある悩みは『1日中やっているゲームをやめさせたい』というもの。これには有効な裏ワザがあります」といいます――。

※写真はイメージです – 写真=iStock.com/Cn0ra

■目標なんて、疲労と挫折の元

新年に「今年は○○しよう」「目標は○○」と新たな挑戦をする人は多いですが、僕はそういった目標は立てないほうがいいと思います。なぜならスタートダッシュで頑張りすぎて疲れてしまい、あっという間に息切れして挫折する人があまりに多いからです。そして、「挫折した」という結果だけが残ってしまう。

目標を立てて疲弊するぐらいなら、あえて「無理せず目標を立てない」という選択をしてほしいと思います。

私たちがこんなふうに新年の目標を立てるのは、子どもの頃から親や先生に「今年の目標は何ですか?」と聞かれてきた記憶があるからでしょう。それで当たり前になっているのかもしれません。

でも、あなたは去年の正月に立てた目標を覚えているでしょうか? 途中で挫折していたとしても、目標そのものを忘れてしまっていたとしても、その1年が満たされないものになったわけではないと思います。1年の目標というのは、それくらいの重さしかないものです。

特に正月はお祭りムードがあり、休み中で余裕もあります。そこで立てる目標は勢い任せで、実現性が低いものも多い。それでうまくいかず、疲労感や挫折感だけが残るぐらいなら、やはり立てないほうがいいのではないでしょうか。わざわざ自分を苦しめるようなことをする必要はありません。

■どうせ立てるなら「休み」の目標を

ただ、どうしても目標を立てないと気がすまない人もいるでしょう。そういう人には「休み」の目標を立ててほしいです。新年の抱負が実現できない理由の一つに、「忙しいから」というのがあります。日常生活に忙殺されて目標どころじゃない。だからこそ休みをとることを目標にしてほしいのです。

休みの目標を立てるときのポイントは2つあります。一つ目は数字を入れることです。たとえば「実家に帰省しよう」なら、「実家に“年3回”帰省しよう」と数字をからめた目標を立てます。

2点目は、スケジュールにあらかじめ休みを組み込んでしまうこと。「今年は2回温泉旅行に行こう」が目標なら、5月のゴールデンウィーク、9月の連休、など、早めに行く予定をおさえてしまうのです。「時間ができたら」と後回しにしていると、なかなか休みは取れません。新年に休みの予定を入れて、それを実行することを目標にすると良いと思います。

■自分の「意志」だけに頼らない

そもそも、目標を立てて新しいことを始めても、なぜ三日坊主で終わってしまうのでしょうか。ダイエットや英会話、資格取得の勉強……途中で挫折したことのある人は少なくないでしょう。人間は、楽なほうに流れる動物だからです。ですから、自分の意志の力だけで実行しようとしても難しい。実行するための環境を整えることが大事なのです。

何か新しいことを始める、行動を起こすときの流れを、「目的」「行動」「結果」に分解して考えてみましょう。例えばダイエットであれば、「○キロやせたい」という目的が、「ランニングをする」という行動につながり、減量という結果がある。英会話であれば、「TOEICで○点を取る」という目的に対し、「毎日夕食の後、1時間勉強する」という行動、TOEICのスコアアップという結果があります。

このうちの「行動」の前と後が大事です。

まず、行動の前には、その行動を促すためのフックをたくさん作りましょう。フックをいかに多くつくるかが、続けられるかどうかを決めることになります。逆に、フックが少ないと三日坊主になりやすい。

■ポイントは「フック」と「ごほうび」

たとえば仕事が終わり、家に帰ってからスポーツジムに行こうとする場合を考えます。いったん家に帰ると、そこからまた支度をしてスポーツジムに行くのはおっくうになってしまいます。でも帰宅せずに仕事からスポーツジムに直行するようにすれば、続けるハードルがかなり下がります。「家に帰らず仕事から直行」がフックになっているわけです。

朝、ランニングしようという人は、ランニングウエアを着たまま寝て、起きたらすぐに飛び出せるようにするのもいいかもしれません。早起きをして着替えるという面倒くささが軽減されます。

スポーツジムに行くのも、一人だとサボりやすいですが、友だちと一緒に行くようにする。スポーツジムで友だちをつくるのもいいでしょう。昼休みに筋トレの動画を見るなどして、気分を盛り上げておくこともフックになります。

そして「行動」の後には、「ごほうび」を用意します。これが、行動を起こすための動機付けになります。「週に3回続けたら、ちょっとおいしいスイーツを少し食べていいことにする」「週末にちょっといいお酒を飲むことにする」など、自分で自分の鼻先に「にんじん」をぶらさげるわけです。

「行動」の前には、行動するハードルを下げるためのフックをたくさん作る。そして、「行動」の後には、モチベーションになる「ごほうび」を用意すること。こうして、続けるための環境を整えるのです。

だいたい3週間くらい続けると、行動は習慣になります。さらに続けると、フックやごほうびがなくてもできるようになるはずです。むしろ、やらないと気持ちが悪くなり、やらないことのデメリットが出てきます。ですからまずは何とか3週間続けてみてください。

■正攻法は「ルールとペナルティ」

自分で立てた目標は、フックとごほうびで何とか達成できるかもしれませんが、これが子どもとなると、なかなか難しいかもしれません。よくある悩みは、「1日中やっているゲームをやめさせたい」といったものです。

子どもにゲームを辞めさせたいときの正攻法は、ルールとペナルティの約束を決めることです。たとえば、ルールとして1日1時間までにして、それを破ったら3日間ゲームなしというペナルティを作る。この約束は、子どもだけではなく親も必ず実行してください。「今日はまぁいいか……」と少しでも親が甘い顔をすると、すぐに破綻してしまいます。

しかし、子どもの行動を制限することが苦手な親や、子どもが泣いたりすねたり怒ったりすると、情にほだされてうまく約束を守れない親もいます。

■「約束は約束」徹底的にやらせる

こうした場合は、本人と約束をして、思う存分ゲームをやらせてあげましょう。本人が「毎日3時間ゲームをやりたい」というなら、それを約束にします。今までは、親が決めた約束を子どもに守らせていたわけですが、子どもが自分で決めた約束を、自分で守らせるスタンスに変えるのです。

そして、何があろうと、毎日3時間は絶対にやらせます。夜になって眠くなろうが、見たいテレビがあろうが、毎日きっちりやらせる。やっていなかったら「ゲームをやりなさいよ」「なんでやってないの?」と声をかける。

人間は強制されるとすごく苦痛を感じます。好きでやっているはずのゲームですら、強制されるといやになります。強制された3時間と、自分で選んだ3時間は全然違うのです。大人も同じで、どんなに楽しいことでも強制されるといやになりますよね。

親から「ゲームしろ」「ゲームしろ」と言われたら、子どもはだんだんゲームばかりやっていることがしんどくなって、違う刺激がほしくなります。いくら甘いものが好きでも、毎日甘いものばかりは食べられないのと同じです。

眠い目をこすってまでゲームをしている姿を見ると、逆に親もかわいそうに思えてくるかもしれませんが、そこで折れないように頑張ります。折れると、子どもは「好きなときにやればいいんだ」と思ってしまいます。親は、「約束でしょ?」と徹底的にやらせます。

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■強制されるとやりたくなくなる

実際、ある相談者にこの方法を提案したところ、親が決めたルールを無理に守らせているわけではないので続けやすいうえに、「自分の発言に自分で責任を持つ」ことを学ぶ練習になると実感されていました。

子どもは、最初はうれしそうに3時間のゲームを楽しんでいたそうです。しかし、さすがに毎日どんな時でも3時間もゲームをやるのはしんどいのか、親から強制されるのが気分が悪いのか、約束を守らないことが出てきたというのです。

そこで、約束を見直すことにして、ゲームをする時間や頻度を減らすことになりました。これを繰り返すと、子どもは強制されるゲームに義務感を持つようになり、続けるのがつらくなってきました。

半年くらいかけて、最終的には「週5日、1日1時間以内」という約束に落ちつきました。ここまで来ると、週5日ゲームをやらない日があっても、親の方は無理してゲームをさせたりはせず、そのまま様子を見るようになったそうです。

なかなか勇気のいる方法ですが、どうせ放っておいても何時間もゲームをしてしまうのであれば、一度やってみてはいかがでしょうか。

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井上 智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医
島根大学医学部を卒業後、様々な病院で内科・外科・救急科・皮膚科など、多岐の分野にわたるプライマリケアを学び、2年間の臨床研修を修了。その後は、産業医・精神科医・健診医の3つの役割を中心に活動している。産業医として毎月約30社を訪問。精神科医・健診医としての経験も活かし、健康障害や労災を未然に防ぐべく活動している。また、精神科医として大阪府内のクリニックにも勤務
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(産業医・精神科医 井上 智介 構成=池田純子)

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