「4社兼務で4000万円超も…」急増する”女性社外取締役”になれる人の要件

女性社外取締役のニーズが高まっている。人事ジャーナリストの溝上憲文さんは「女性社外取締役はどこの企業でも引っ張りだこだ。部長職などマネジメント経験のある女性にとっては、社外取締役というもう一つのキャリアステップの道も開けている」という――。

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■EUは上場企業の取締役の33%を女性にすることを義務付け

6月8日、日本の企業経営者を驚かせる情報が欧州からもたらされた。欧州連合(EU)は加盟27カ国の全上場企業を対象に、2026年半ばまでに社外取締役の40%以上、もしくは全取締役の33%以上を女性にすることを義務付ける法案で合意に達した。

すでにフランスでは2011年に上場企業などに17年までに全取締役の40%以上を女性とするように義務づけており、21年に45.3%に達している。イタリアの女性取締役比率も38.8%、ドイツも36%に達しており、今回の法制化でEU全体の底上げを図る狙いがある。EUを離脱したイギリスも今年4月、取締役の40%を女性にすることを求める上場ルールが施行された。

■日本は「女性役員ゼロ」の上場企業が33%

対して日本は上場ルールなどにも数値目標は示されず、女性役員の比率は欧米に比べて大きく見劣りする。6月14日に公表された「令和4年版男女共同参画白書」によると、上場企業の役員に占める女性の割合は7.5%にすぎない。東京証券取引所1部市場上場企業で女性役員がいない企業数は732社、全体の3分の1(33.4%)を占めている(21年7月末)。

日本でも経団連が2030年までに役員に占める女性比率を30%にするよう呼びかけているが、目標と実態が大きく乖離(かいり)しているのが現状だ。女性役員の増加の要請はジェンダー平等の観点からだけではなく、機関投資家からの圧力もある。米コンサルタント会社マッキンゼーの調査によると女性役員の割合が高い企業は、ゼロの企業に比べて利益率が高い傾向にあることがわかっている。さらに「ESG」(環境・社会・企業統治)投資では女性役員の登用が重視され、海外の機関投資家が取締役に女性の登用を促す動きもある。

■「そこまでして権力を得たいとは思わない」

EUの法制化によって日本企業にも機関投資家の圧力がさらに高まる可能性もある。だが女性役員を増やすのは容易ではない。なぜなら候補となる女性部長やその下の課長が多くいる必要があるからだ。前出・白書によると、民間企業の部長級の女性比率は7.7%、課長級は12.4%にとどまっている。少ない役員ポストを女性の部長が射止めるには超狭き門といえる。

それ以外の理由として役員になりたいという女性が少ないという声もある。製薬会社の人事部長は「女性管理職比率は20%近くに達し、部長や部門長に就いている女性もいるが、能力があっても役員になりたいという意欲のある人が少ない。男性の役員は熾烈(しれつ)な出世競争を繰り広げてきた人が多いですが、そこまでして権力を得たいとは思わないし、役員になっても男性ばかりだし、いろんな意味で大変だという思いがある」と語る。

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■女性社外取締役は前年比30%増

こうした事情を考えると生え抜きの女性役員を輩出するのは難しい。そこで注目を集めているのが女性の社外取締役の招聘(しょうへい)だ。2021年3月施行の改正会社法では、上場企業はコーポレートガバナンスの観点から取締役や執行役の業務執行の監督機能を果たす社外取締役の設置が義務づけられている。

またコーポレートガバナンスコードでは「独立社外取締役」を2人以上選任することが要請されている。さらに今年4月4日から東証に設置された大企業の向けのプライム市場では独立社外取締役を全体の3分の1以上選任しないといけないことになっているが、1000人近くが不足すると予測されている。

その中で脚光を浴びているのが女性社外取締役だ。ガバナンス助言会社のプロネッドが集計した21年7月1日時点の東証1部上場企業(2186社)の女性社外取締役は前年同期比30%増の1458人。2人以上の女性社外取締役がいる企業は262社と、前年の1.5倍に増えた。最も多いソニーグループ、三菱UFJフィナンシャル・グループなどは4人、積水ハウス、井村屋グループなど40社を超える企業は3人の女性社外取締役がいる。

■4社を兼務している人も

経歴も多様だ。企業創業者や外資系日本法人の元社長、国内外企業の役員経験者もいれば、元官僚、公認会計士、裁判官・弁護士、大学教授、元スポーツ選手、出版社編集長、芸能人などと幅広い。しかもその多くが複数の企業の社外取締役を兼務しており、中には4社も兼務している人もいる。

それでも女性社外取締役はどこの企業でも引っ張りだこだ。SOICO株式会社が従業員1000人以上の企業経営者・役員300人を対象に実施した「女性社外役員に関する調査」(2021年10月)によると、女性社外取締役をすでに登用している企業は32.3%。「候補者を探している」が21.0%、「候補者の選考を進めている」が13.0%、「採用を検討しているが、まだ探していない」が11.7%。多くの企業が女性社外取締役を求めている。

しかし女性社外取締役を探している企業が多いが、課題と感じているのは「要件を満たす女性候補者が見つからない」が55.6%と最も多い。社外取締役に求められる要件は男女に限らず企業経営の経験者ということになるが、女性の場合は裾野が広い。

女性社外取締役を採用する理由についても聞いているが、「多様性を保ちたい」(29.4%)、「機関投資家や海外の投資家から指摘を受けた」(22.2%)を1番に挙げる企業が多かった。次いで「ESG経営を意識」(11.5%)、「女性の観点から事業への意見がほしい」(10.3%)というものだ。

■元女性ニュースキャスターが社外取締役に

必ずしも経営トップの経験者に限らない。ある大手企業は国内大手企業の執行役員経験者を社外取締役に迎え入れているが、選任理由についてこう述べている。

「経営幹部としてのマネジメント経験、人材マネジメント及びダイバーシティ分野における豊富な知識・経験を、当社の経営監督機能の強化に活かしていただくため、社外取締役として選任しています」(有価証券報告書)。

マネジメント経験に加えて、女性活用など多様性の推進の経験を持つ女性が一つの要件となっている。それ以外にも前述したように元スポーツ選手や芸能人も選任されている。一見、要件がないように思えるが、そうではない。元女性ニュースキャスターを社外取締役に招いた建設関連会社の人事部長はこう語る。

「一つの専門領域で実績を残し、加えてある程度知名度がある人だ。元ニュースキャスターの場合は、社会正義や公正の観点から高い見識と知識を持ち、知名度もある。そして何より女性であることだ。彼女がボードに加わったことで男性経営陣も良い意味の刺激を受けていると聞いている。男性だけの取締役会で物事を決めていく時代ではないし、社会的イメージも良くない」

ただし、そうした社外取締役にふさわしい女性を探すのは難しく、取り合いになっているとも語る。

■平均報酬は663万円、3割が1000万円超

ところで気になるのは社外取締役の報酬だ。朝日新聞と東京商工リサーチが2018年4月末時点で東証1部上場の約1980社の報酬調査によると、社外取締役の平均報酬は663万円。もちろん企業規模によっても違う。日経平均株価に採用されている上場企業225社のうち報酬が判明した218社の平均は1200万円だった。また、デロイトトーマツが発表した2021年度役員報酬サーベイの社外取締役の報酬の中央値は800万円となっている。

前出のSOICOの調査でも「現在採用を検討している女性社外取締役の報酬」についても聞いている。最も多かったのは「1000万円以上」の28.6%。700万円以上は計47.8%となっている。約半数の企業が700万円以上、3割が1000万円以上ということは、女性社外取締役の報酬相場が上昇傾向にあることがうかがえる。

仮に4社兼務すると4000万円超になる。前述したように日本では今後、女性社外取締役のニーズはますます高くなることが予想される。今の会社で1つの専門分野を極め、部長職などマネジメント経験のある女性にとっては、社外取締役というもう一つのキャリアステップの道も開けている。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。
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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)

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