「YouTube広告」ではもう稼げない…業績悪化に苦しむグーグルが狙う”新たな市場”

主力の広告事業に陰りが見え始めた

7月26日に、グーグルの持ち株会社である米アルファベット(以下、グーグル)が4~6月期の決算を発表した。最終利益は前年同期比14%減の160億200万ドル、2四半期連続の減益に陥った。主力の広告事業の成長鈍化が顕著だ。それは、サブスクリプション型のビジネスモデルの行き詰まりを意味する。

決算説明資料において、スンダー・ピチャイ最高経営責任者(CEO)はクラウドコンピューティング(クラウド)と人工知能(AI)の分野に経営資源を再配分する方針を明確に示した。グーグルは広告分野でのサブスクリプションビジネスから、クラウドを軸としたビジネスモデルの再構築を加速させようとしている。

ピチャイCEOがその先に見据えるのは“ウェブ3.0”の世界だろう。ウェブ2.0の世界では、一部の大手IT先端企業が優先的にサービスを提供する。それと異なりウェブ3.0では個々人が常時、より能動的にネット空間に接続する。それによってわたしたちの生き方は劇的に変化する可能性が高い。より多くのビジネスチャンスを手に入れるためにグーグルは各国の企業と提携して、よりスピーディーかつ大規模にクラウドやAIを用いたビジネスモデルの確立を目指すだろう。

「サブスク」ビジネスだけではもう稼げない

4~6月期のグーグルの決算を確認すると、広告のサブスクリプションビジネスが行き詰まり始めた。グーグルにとって広告収入は成長を支えた祖業に位置付けられる。1998年に創業したグーグルは検索機能の強化によってヤフーからシェアを奪った。その上でグーグルは検索とデジタル広告を結合した。

グーグルは、個々人の検索内容を分析し、検索者の関心をピンポイントで突くアルゴリズムを開発し、デジタル広告サービスを提供した。顧客の企業は、的を絞った効率的な広告戦略を実行できるようになった。顧客はグーグルの広告サービスを一定の料金を支払い続けることによって利用する。このようにしてグーグルのサブスクリプション・ビジネスモデルが形成されたと考えられる。

4~6月期の広告事業では、観光関連の広告が増えた。米国では感染の再拡大が落ち着き、旅行に出かけようとする人が増えたことが背景にある。ただし、広告事業の収益増加率は鈍化している。2021年4~6月期の広告収入の増加率は前年同期比で68.9%だった。2022年4~6月期は同11.59%と成長の鈍化が鮮明だ。その背景には、世界経済全体で景気後退懸念が高まり、企業がコストを削減していることがある。広告市場での競争も激化している。

平均月間視聴時間でティックトックに負けている

広告市場は“レッド・オーシャン”と化している。メタ(旧フェイスブック)やツイッター、さらにはティックトックの参入によって広告シェアの争奪戦は熾烈(しれつ)だ。2022年1~3月期のユーザー1人当たりの平均月間視聴時間でティックトックはYouTubeを上回った。検索データとのひも付けによって個人の好みに合った広告を打ち出しやすいというグーグルの強み(コア・コンピタンス)は薄れている。

広告のサブスクリプション市場では、いかに新しいコンテンツを打ち出して、より多くのユーザーを確保するかという競争が激化している。そうした競争に対応すればするほど、企業は消耗戦に巻き込まれるだろう。広告に限らず、動画や音楽など、サブスク型のビジネスモデル全体が行き詰まり始めている。

ピチャイCEOが画策する「クラウドへの転換」

その状況下、サブスクリプションをベースとした広告事業からクラウドへ、ピチャイCEOはダイナミックに経営資源を再配分しようとしている。もともと、クラウドという言葉を生み出したのはグーグルの元CEO、エリック・シュミットだった。それを基に米国立標準技術研究所(NIST)は次の通り定義した。

クラウドコンピューティングとは、ネットワーク、サーバー、ストレージ、アプリケーション、サービスに対して、どこからでも、簡便に、必要に応じてネットワーク経由でアクセスすることを可能にする仕組みである。

クラウドは、必要に応じて利用者自らの考えにのっとって設定が可能(オンデマンド、かつセルフサービス)であり、幅広いアクセスを可能にし、共用でき、スピーディーな拡張性を持つ。また、サービスは計測可能でなければならない。以上の定義を確認することによって、クラウド分野の成長期待の高さをよりよく理解できるだろう。

サプライチェーンの再構築に大いに役立つ

例えば、コロナ禍でのテレワーク実施にクラウドは不可欠になった。クラウドでデータや情報の保存、加工を行う表計算や文書作成ソフト、情報セキュリティーなどがパッケージとして提供されることによって、企業は事業運営の持続性を高めることができる。生産性も向上する。個々人の生き方も大きく変わった。クラウドがあるからこそ、生活費がかさむ都市を離れ、自然豊かな郊外や地方でより満足度の高い生活を送る人が増えた。

世界のサプライチェーンの再構築においてもクラウドの果たす役割は大きいと考えられる。米中対立、コロナ禍の発生、ウクライナ危機などによって世界の供給網は不安定化した。その結果として世界の企業は需要に応じて供給を柔軟に調整することが難しくなっている。

クラウド上でサプライチェーンを構成する企業がデータを相互に共有することができれば、供給制約が、どこで、どの程度の深刻さで発生しているかが分かるようになるだろう。AIを用いることによって、将来的な供給制約の発生シナリオをより精緻に分析することも可能になるはずだ。

個人向けビジネスから貿易、安全保障分野まで

クラウドの発展の可能性は高い。ピチャイCEOは、クラウドに、未開拓の大海原が眼前に広がるようなイメージを持っているのではないか。その意味においてクラウドの分野は“ブルー・オーシャン”だといえる。将来的にグーグルはクラウドを基盤にして分散型元帳技術と呼ばれる“ブロックチェーン”などの最先端のネットワーク・テクノロジーの利用可能性を高めようとするだろう。

例えば、国際貿易の分野ではブロックチェーンを用いることによって不正の撲滅と事務作業の効率化が目指されている。一例として、船舶の輸送に欠かせない船荷証券の作成には多くの人手がかかってきた。それに加えて、近年では国際社会の安全保障に関する責任を履行するために、軍事転用が可能な民生品の輸出管理が厳格化されている。

書類作成、その確認などをブロックチェーン上で行うことによって、サプライチェーン上に存在する企業が相互に手続きの正当性を、より効率的に確認できるようになる。グーグルはクラウドの機能向上を支える一つのアプリケーションとしてAIの利用可能性を高めようとしているだろう。このようにして、加速度的にクラウドの拡張性が高まると期待される。

IT業界は次のステージへ入りつつある

その結果として、ウェブの世界は大きく変わる。これまでのウェブ2.0の世界ではGAFAなどがITサービスを提供し、そこから得られるデータを事実上タダで手に入れた。それが、ウェブ3.0に急速にシフトしている。個々人や、個々の企業は自らのデータを自分で管理する。それをAIなどを用いて分析し、ブロックチェーンで同期化しつつクラウドで保存して相互に共有する。そうした展開を念頭にグーグルはクラウド事業の成長を急ごうとしているだろう。

ただし、ウェブ3.0に関する取り組みは試行錯誤の段階にある。例えば、ウェブ3.0の構成要素であるメタバースに関して、どのようなデバイスが使われるようになるかははっきりとしない。各社がメガネ型などのデバイスを開発している。ルールの統一、技術規格の収斂はこれから進む。

それを有利に進めるために、アライアンスの重要性が一段と高まるだろう。グーグルは既存分野でのリストラを加速させつつ、クラウドやAI、ブロックチェーンなど分野で他の企業との連携をさらに強化するはずだ。それが世界のIT業界にどのような変革をもたらすかが注目される。

———- 真壁 昭夫(まかべ・あきお) 多摩大学特別招聘教授 1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。 ———-

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