10月16日に、Android 15の配信が始まった。Androidの場合、各メーカーがOSにカスタマイズを加えるため、アップデートに時間差はあるが、グーグル純正のPixelシリーズは16日からすぐに最新OSを利用することができる。とは言え、Android 15はユーザーインターフェイス(UI)の変化が少なく、アップデートしてもぱっと見でその変化に気づきにくい。
アプリを“隠す”だけではない
Androidの場合、OSに付随するアプリは適宜アップデートされているため、iOSのように大幅に変わったような印象が薄くなるきらいがある。一方で、よくよく見ていくとスマホの使い方をガラッと変えるような機能も含まれている。「プライベート スペース」は、そんな新機能の1つだ。
この機能は、人に見られたくないアプリを“隠す”ために使うものと説明されているが、実際に使ってみると、単にアプリが見えなくなるだけのセキュリティではないことがわかる。アプリを隠すのではなく、アプリを格納できるもう1つのスペースを別途作るためのもので、「プライベート スペース」という名称になっている理由もうなずける。ここでは、その使い方や、裏技的な応用例を見ていきたい。
アプリ格納スペースを丸ごと作成
「プライベート スペース」は、隠しておきたいアプリを格納できるスペースを作るための機能だ。端末にインストールしたアプリをそのままそこに移せるのではなく、新たに作った領域に別途アプリをインストールしていく仕組みを採用している。
たとえば、ここで普段Androidスマホに設定しているのとは別のグーグルアカウントを入力し、Gmailアプリをインストールすれば、「プライベート スペース」でのみ、そのアカウントを使ってメールの送受信ができる。概念としては、セキュリティを強化したもう1つのOSをAndroid内に用意しておくのに近い。単純にアプリにロックをかけるのとは大きく異なるというわけだ。
ただし、Android 15にアップデートした直後は、「プライベート スペース」が有効になっていない。利用するには、設定の変更が必要だ。Pixel 9の場合、設定メニューを開き、「セキュリティとプライバシー」内に新設された「プライベート スペース」をタップする。すると、指紋認証なり顔認証なりでのロック解除が求められる。
ロックを解除して次の画面に進むと、「プライベート スペース」の作成が開始される。次に、グーグルアカウントでログインするかどうかを聞かれるが、ここでは手順をスキップしてもいいし、普段Androidに設定しているグーグルアカウントを入れてもいい。上記のようにアカウントを使い分けたいときには、別のグーグルアカウントを入力することもできる。
画面ロックとは別のPINやパスワードをかけ、セキュリティを強固にすることができる(筆者撮影)
次に、「プライベート スペース」用のロック設定をするかどうかを聞かれる。普段、使っている画面ロックとは別のPINやパスワード、パターンを設定できるということだ。セキュリティを高めたい人は、普段と違うものにしておくといいだろう。そこまで強固でなくてもいいという場合には、既存の画面ロックをそのまま当てはめることも可能だ。これで、「プライベート スペース」が完成する。
設定後は、アプリ一覧の画面から「プライベート スペース」を呼び出せるようになる。アプリ一覧を開き、画面を下までスクロールさせると、「プライベート」と書かれた横長のボタンが表示される。ここをタップし、画面ロックを解除し、さらにスクロールさせると「プライベート スペース」とそこに置かれた標準アプリが表示される。
例えばブラウザーのChromeを開くと、どのサイトも表示されていない初期状態になっている。普段使っているChromeとは別に、もう1つのChromeが用意された格好だ。「プライベート スペース」用に異なるグーグルアカウントを入力していた場合、ブックマークや設定などはそちらのアカウントのものと同期される。このように、同じアプリを通常とは異なる用途で利用できるのが「プライベート スペース」のメリットだ。仕事とプライベートなどで端末内のアプリまで切り分けたい人には便利な機能と言えるだろう。
同じアプリを2つインストール可能に
この「プライベート スペース」の仕組みを応用すると、通常では1つしかアカウントしか登録できないアプリを、2つのアカウントで使い分けることが可能だ。筆者がまず試したのは、X(旧ツイッター)アプリ。これを「プライベート スペース」のPlayストアからインストールしたところ、もう1つのXアプリが端末にインストールされた。
そのままのXアプリを開くと、アカウントを登録する初期設定の画面が表示される。ここで、普段使用しているのとは別のアカウントを作成してみたところ、1台の端末上に異なるアカウントを設定したXアプリが併存した。これなら、メインアカウントを使うときには通常のXアプリ、サブアカウントは「プライベート スペース」のXアプリというような使い分けができる。
Xは1つのアプリに複数のアカウントを登録できるため、そこまで大きなメリットではないものの、通常のアプリと「プライベート スペース」のアプリに分けておくことで、アカウントを間違えて投稿してしまう“誤爆”は減らせそうだ。個人で用途別のアカウントを持っている人はもちろん、会社でアカウント運用を任されている人などには、特に役立つ機能と言えるだろう。
画面のように、同じアプリを2つインストールできる。鍵マークがついたアイコンが、「プライベート スペース」内のアプリだ(筆者撮影)
また、LINEのようにそもそもアプリ内にアカウント切り替え機能がないときにも、「プライベート スペース」が役に立つ。仕事関係の知り合いとプライベートの友だちで連絡を取るLINEを変えたいときなどに、この機能を使えば、1台の端末でアカウントを切り替えながら利用できて便利だ。
試しに、Pixel 9の「プライベート スペース」にLINEをインストールし、新規でアカウントを作成してみたところ、端末内に異なる2つのアカウントが設定されたLINEのアイコンができた。仕事とプライベート以外にも、企業アカウントと友だちになる専用のアカウントを持ったり、オープンチャットに参加するためだけに別途アカウントを持ったりしてもいい。こうした使い分けが可能になるのが、「プライベート スペース」の魅力だ。
ただし、「プライベート スペース」がロックされていると、「プライベート スペース」内に設定したアプリには通知が届かない。秘匿性を高くするためだが、連絡に気づきにくくなることがデメリットになるのは間違いない。「プライベート スペース」を設定したときには、定期的にロックを解除しアプリを開くようにしておきたい。
「プライベート スペース」の自動ロックを回避することも可能だ。設定の「セキュリティとプライバシー」から「プライベート スペース」に進み、「プライベート スペースを自動的にロックする」をタップすると、ロックをかける条件を変更できる。ここを「デバイスの再起動後のみ」にすれば、画面消灯でロックがかかるのを防いで通知を受けることが可能だ。プライバシーではなく、2アカウントの運用を重視するのであれば、こちらを選択しておいたほうがいいだろう。
存在自体を隠してバレずに使える
逆に、「プライベート スペース」のメニューには、よりプライバシーを高めるような設定項目も用意されている。それが、「プライベート スペース」そのものを隠す設定だ。先に述べたように、「プライベート スペース」を設定しているとアプリ一覧の下部にボタンが表示され、ロックを解除できる。ただし、これがあると「プライベート スペース」を使っていることが丸わかりだ。設定を変更すれば、これ自体を非表示にできる。
設定方法は次のとおり。設定メニューの「セキュリティとプライバシー」から「プライベート スペース」へと進み、「プライベート スペースを非表示にする」をタップする。次に表示された画面で、「ロックされているプライベート スペースを非表示にする」をオンにすると、アプリ一覧からプライベート スペースのボタンそのものがなくなる。
プライベート スペース自体を非表示にできる。この状態だと、検索からしか呼び出せない(筆者撮影)
ただし、そのままだと自分も「プライベート スペース」を開くことができなくなってしまう。この状態で「プライベート スペース」を呼び出したいときには、まずアプリ一覧を開いて「プライベート スペース」と入力する。「プライベート」と「スペース」の間にスペース(空白)を入れないと呼び出せないので、入力時には注意したい。
すると、「プライベート スペース」を表示するというボタンが検索上に現れる。ここをタップすると、「プライベート スペース」内に配置したアプリにアクセスすることが可能になる。あくまでロックされている状態でしか非表示にならないため、この機能を重視する場合には、画面ロックのたびに「プライベート スペース」が隠れるように設定しておくようにしたい。
使い勝手との両立は「5分後のロック」
上で紹介した再起動までロックがかからないようにするのとは逆に、画面ロックと同時にロックするか、画面ロックから5分後にロックをかける設定を選択することが可能だ。使い勝手とある程度両立させるのであれば、5分後のロックにしておきたい。ただし、この場合は通知が届かないため、メールやLINEのようなメッセンジャーの場合、連絡があったことがわかりづらい。小まめに「プライベート スペース」のロックを解除するか、あまり頻繁に通知が来ないアプリを設定するようにしたい。
同じアプリを2つインストールし、複数アカウントを持てる機能はサムスンや一部中国メーカーのスマホに実装されているが、Android標準の機能ではなかった。一方で、「プライベート スペース」はAndroid 15自体に組み込まれているため、その他のメーカーの端末に広がることが期待できる。今はPixelシリーズだけだが、徐々にこの機能を備えた端末が増えていくはずだ。
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(石野 純也 : ケータイジャーナリスト)