生活を直撃するインフレ
ロシアのウクライナ侵攻が長引き始めていることもあり、インフレ圧力が一層高まっている。
特に深刻なのが、(1)アメリカと日本の金利差の拡大と、(2)それに起因する円安の加速だ。4月14日時点で、1ドル125円まで円安が進行している。実に20年ぶりとなる水準だ。
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(1)も(2)も、「アベノミクス」の一環として実施してきた異次元緩和の影響もあるのだが、金利差拡大の最大の引き金となったのは、アメリカの連邦準備理事会(FRB)が金融政策を「引き締めモード」に転換し、段階的に利上げを進めようとしていることだ。
米国労働省が公表したデータによると、’22年2月の米国の消費者物価指数の伸びは前年同月比で7.9%であり、7.5%だった同年1月よりも、インフレの勢いが加速している。
これは、実に40年ぶりの高い伸び率であり、食料品や家賃などの価格上昇が深刻化し、市民の生活を直撃している。今年11月に中間選挙を控えているバイデン政権は、インフレの抑制に躍起になっている。
このため、FRBはすでに実施されたものも含めて、年内に実に7回の利上げを実施する想定を明らかにしている。
仮に、1回の利上げが0.25%ポイントならば、年内7回で1.75%ポイントも金利を引き上げる可能性があり、FRBの強硬な姿勢が見てとれる。
他方、複雑な立場にあるのが、日本の中央銀行である日銀だ。
今後、米国と同様にインフレが深刻化してきた場合、その抑制のために日銀が利上げを行おうとすると、超低金利を前提に運営されてきた国家の財政を直撃する。政府が膨大な債務を抱えている現状、日銀も配慮せざるを得ないだろう。広告
この一つの象徴が、今年3月下旬に日銀が複数回に渡って実施した「指し値オペ」(公開市場操作)であろう。指し値オペとは、長期金利の上昇を抑えるため、日銀が指定した利回りで市中から長期国債を無制限に買い入れる措置のことだ。
長期金利の上昇抑制の主な目的を、日銀は「金融緩和の維持」と説明しているが、金利を低位に誘導し、結果的に国債の利払い費を抑制する効果も発揮している。
このような日米間の金融政策スタンスの違いから、アメリカと日本の金利差が拡大する傾向にある。結果、現金を円で持つよりもドルで持ったほうが利息がつくため円売りドル買いが進み、円安を加速させているのだ。
現在、主要通貨のなかでは「円」が一人負けの状態にある。よりによって、原油価格が高騰している状況下での円安進行であり、日本経済への影響は深刻だ。
このままでは、円安や資源価格の高騰に伴うインフレ圧力で長期金利に上昇圧力がかかる。それを抑制するため、日銀が指し値オペを実行すれば市場からは「追加の金融緩和を行った」と認識され、円安スパイラルが一層進む可能性がある。
この状況を解決するためには何が必要か。それは、9年にわたって続けてきた異次元緩和を手仕舞いし、一刻も早い財政再建を進めることだ。
インフレが本格的に顕在化してきたときに、すぐさま利上げに移れる環境整備を図ることが急務だろう。
『週刊現代』2022年4月23日号より