オリーブオイル、何のために使う?
食文化研究家のスギアカツキです。『食は人生を幸せにする』をモットーに、食トレンド、スーパーマーケットやスタバ、ダイエットフード、食育などの情報を“食の専門家”として日々発信しています。
食料品の値上げが続いています。中でもインパクトが大きいのが、「オリーブオイル」。サイゼリヤのエクストラ・バージン・オリーブオイルが2024年2月に、350円値上がりしたことでショックを受けた人もいるのではないでしょうか。
他にも大手メーカーが販売する製品の大幅値上げ(J-オイルミルズ32~66%、日清オイリオグループ23~63%、昭和産業950円/1kg)もあり、感覚としてはコロナ前の1.5倍の価格に。
この状況は世界規模で起こっており、指標となるイギリスでのオリーブオイル価格は今年に入り過去最高値を記録しました(2024年1月に1万281ドル/1トン)。オリーブオイルの急激な価格高騰はなぜ起こっているのでしょうか? そしていつまで続くのでしょうか?
結論から言いますと、従来のような価格に簡単に戻ることはなさそうだと予測されています。そこで今回は、オリーブオイルの価格高騰の理由と、健康のために、イタリアン作るなら……と、オリーブオイルだけに固執しすぎなくてもよい理由をあげながら、上手な付き合い方について考えてみたいと思います。
◆価格高騰の理由は不作だけではない
2022年頃からはじまっているオリーブオイルの価格高騰には明確な理由があります。
まず大きな要因として挙げられるのが、地球温暖化を背景とした欧州主産地(スペイン、イタリアなど)における干ばつや雨不足によるオリーブ不作問題。そしてその状況とは逆行するように、世界的に健康ブームが広がり消費量は増加傾向になっています。
さらには、物流費・輸送費・包装資材費等の上昇、エネルギーコストの高止まり、円安進行など。他にもトルコやモロッコなどが国内価格安定のために輸出制限を実施していることなども追い打ちをかけています。
これらは昨今の社会情勢や経済状況などをふまえるとイメージしやすい要因ばかりで、納得せざるを得ない状況とも言えそう。
つまりこれらの結果として、日本における大手メーカーではオリーブオイルの在庫水準が低下し、需給がひっ迫している状況を受けて価格改定に踏み切ったということになります。
それでは次に、このような状況において、オリーブオイルにどれほど固執すべきか? という問題について考えていきましょう。
◆オリーブオイルはすべて良質、健康に良いオイルとは言い切れない
“オリーブオイルはヘルシーで健康に良い”というイメージを抱いている方は少なくないでしょう。
すべてが間違いというわけではありませんが、今回を機にオリーブオイルについて正しい理解をしておくと、今後の活用シーンや健康を考える上では有効です。ここではあえて、オリーブオイルを闇雲に健康オイルと解釈しないために、客観的事実を3つ整理してみました。
◆①オリーブオイルはオメガ9系であり、必須脂肪酸ではない
私たちが口にする油脂類を構造的に分類すると、いくつかのグループに分けることができます。
オメガ3、6、9というワードを耳にしたことがあるかもしれませんが、ここでは手短に言えば現代人はオメガ6系(サラダ油、コーン油、ごま油など)の摂り過ぎで、オメガ3系(アマニ油、えごま油、魚の脂など)を積極的に選ぶことが推奨されています。
オリーブオイルはオメガ9系に属し、多く含まれるオレイン酸には生活習慣病や便秘予防の効果があります。
しかしながら体内で合成することができるため、必須脂肪酸(体内で作ることができないため、食物から摂取する必要がある)ではありません。
◆②安いオリーブオイルには要注意
オリーブオイルは他のオイル同様に、摂り過ぎは肥満などにつながります。
実は私たちが1日に必要なオイル量は、体重(kg)を2で割り、単位をgにすれば簡単に計算することができます。例えば体重50キロの人では25グラム(大さじ2弱)ということに。
この量、想像以上に少量ではありませんか? これを知れば、オリーブオイルを少しでも大量に安く買おうという発想は和らぐかもしれません。
また、安いオリーブオイルにはそれなりの理由があります。
例えばイタリア産と記載されているオリーブオイルが必ずしもイタリアで栽培・搾油されたものではなく、ボトリングされているだけの可能性が。酸化対策が十分に施されていない非遮光容器も要注意です。
どこまでこだわるかは人それぞれですが、健康を重視するなら製品ラベルをよくチェックして、農園や栽培方法、搾油方法、輸入方法などが明確なものを選ぶのが賢明です。
◆③加熱をすると健康成分「ポリフェノール」は激減する
オリーブオイルに含まれる健康成分と言えば、「オレオカンタール」や「オレウロペイン」という強力な抗炎症・抗酸化作用をもつポリフェノール。
ある論文(※)によれば、生のオリーブオイルと比較すると120度(炒め物)で40%、170度(揚げ物)で75%減少するそうです。
つまり、オリーブオイルは加熱に強い特性を持つものの、健康効果を期待するなら生の状態で使うのが賢明。加熱用オイルとしてオリーブオイルを選択する価値があるかは、価格高騰の問題と合わせて今一度検討してもいいかもしれません。
※論文:Domestic Sautéing with EVOO: Change in the Phenolic Profile
オリーブオイル独特の風味が好き、健康のために使い続けたいという考え方は良いものの、無理に安く買おうとすることで期待外れの製品を手にしている可能性があります。今一度何のためにどんなオリーブオイルを使いたいのか、点検してみても損はありません。
<文・撮影/食文化研究家 スギアカツキ>
【スギアカツキ】
食文化研究家、長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを学ぶ。現在、世界中の食文化を研究しながら、各メディアで活躍している。女子SPA!連載から生まれた海外向け電子書籍『Healthy Japanese Home Cooking』(英語版)好評発売中。著書『やせるパスタ31皿』(日本実業出版社)が発売中。Instagram:@sugiakatsuki/Twitter:@sugiakatsuki12