10日から始まる「春節後」。新型ウイルス対応で高まった中国の日本への好感度

武漢封鎖のニュースが世界を駆け巡った1月23日から、中国国内の日本に対するイメージが一変している。

新型コロナウイルスによる肺炎の猛威が徐々に明らかとなる中で、日系企業はいち早く中国赤十字社へ寄付、日本政府も自国民を連れて帰るチャーター機にマスクや保護メガネなどを積んで武漢に届けている。

そうした情報が刻々と中国のSNSなどから流れてくるので、中国での日本に対する親近感が高まっているのだ。

中国政府によって1週間延長された春節休みも2月10日には終わり、企業も動き始める。日系企業の総代表などはすでに勤務先に戻り、仕事開始に向けて着々と準備を進めている。

日本企業が次々と寄付

トヨタ自動車などの日本企業は、今回いち早く寄付などを行った。

© Jenson/shutterstock トヨタ自動車などの日本企業は、今回いち早く寄付などを行った。

中国の暦で正月に当たる1月25日ごろ、まだ北京では、武漢から新型肺炎のニュースが流れてきてもマスクをする人は少なかった。一方、SNSからは武漢の厳しさについて、じわじわと情報が流れてきた。

多くの企業はすでに春節休みに入っていたが、1月25日に松下電器(パナソニック)中国北東アジア社は、マスクや防護服や保護メガネの購入に当ててもらうため、中国赤十字社に100万元(約1550万円)を寄付している。筆者が取材した限りでは、松下電器は中国企業を合わせた中で最も早く武漢に寄付をした企業の一つだ。

その後、1月29日には豊田汽車(中国)有限公司グループ(トヨタ自動車)が中国赤十字社へ1000万元(約1.55億円)、31日には本田技研工業(中国)投資公司グループ(ホンダ)も湖北赤十字社に1000万元寄付している。

2月に入ってから、5日に富士フイルムグループが700万元(1.1億円)相当の医療設備やプリンターなどを武漢市の関連病院に寄付し、「2月中には追加の設備も届く」(同社広報担当者)という。

これだけ多くの日本企業がいち早く寄付や支援を打ち出したのは人道的な観点のほか、それだけ中国を生産拠点としても消費地としても重要に思っているからだろう。

中国政府も記者会見で感謝

4月初旬を軸に調整されていた習近平国家主席の来日も、延期される可能性が出てきた。

© Reuters/POOL New 4月初旬を軸に調整されていた習近平国家主席の来日も、延期される可能性が出てきた。

こうした日本企業の動きに対し、中国外交部 の華春瑩報道官は、毎日の内外記者会見の場で繰り返し日本への感謝の言葉を述べている。

「私も関連の報道を読み、非常に感動しています。今回の新型肺炎が発生してから、日本政府だけでなく日本社会各界から中国に多くの理解と支援を寄せていただきました」(2月4日)

「新型肺炎が発生してから、日本政府は全力をあげて中国の治療や対策に協力すると表明してくれました。日本政府、日本の多くの自治体、企業からは積極的に中国にマスク、保護メガネ、防護服などの物資を寄付していただきました」(同2月4日)

報道官の言葉はテレビ、SNSなどを通じて多くの中国国民に届いている。

中国に戻っている日系企業幹部

中国では武漢以外でも厳しい外出禁止規制が広まっている。

© Reuters/Stringer 中国では武漢以外でも厳しい外出禁止規制が広まっている。

2月に入り、新型肺炎の感染者は湖北省以外にも広がっているが、日本企業の幹部は延期された「春節後」に備え、続々と中国に戻ってきている。AGC中国総代表の上田敏裕氏もその1人。2月2日に北京空港に戻ってくると、すぐに空港からWeChatで中国語でつぶやき、マスクした写真も送った。

「ただいま中国に戻りました。私は全力を挙げて、私のやり方でこの国とみなさんの生活が正常の軌道に戻るようにお手伝いします」

筆者の知っている上海駐在の日系企業の幹部社員もほとんど予定通りに中国に戻っている。

この記事が公開される2月7日朝現在では、2月10日には春節が明け、企業活動も再開することになっているが、一方で、2月3日にはすでに仕事を始めた企業もある。

理光ソフトウェア研究所(北京)有限公司の于浩社長は、

「政府の春節延長の知らせが届く前に、弊社は2月3日から自宅で仕事をすることにしました」

と言う。ソフトウェア開発は自宅勤務も可能なので、10日以降も全社的に在宅勤務期間を延長するという。

「開発したソフトウエアを使う現場には技術者はまだ出られない。しかし、部長クラスの幹部職員は、やはり当番で会社に出かけて仕事し、関連の事務を処理します」(于社長)

マスクなどの物資が枯渇し、通勤、仕事中のマスクなども確保できない人が多い。ある日系企業の社長は10日に仕事を再開しても落ち着いて働けるだろうかと心配している。多くの人が集まって働く組み立て工場、大食堂での食事など、社長として心配の種はほかにもある。

中国現場に戻った日系企業の幹部社員は対応に苦慮しつつ奮闘している。

陳言:在北京ジャーナリスト。1982年南京大学卒。経済新聞に勤務後、1989年から2003年まで日本でジャーナリズム、経済学を学び、2003年に中国に帰国。経済雑誌の主筆を務めた後、2010年からフリージャーナリストに。

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