10代が牽引する音楽市場のこれから

近年デジタル化が進み、デバイスも多様化したことで音楽が時間や場所を限らず簡単に聞けるようになっています。こうした中で、人と音楽の接触方法も変化しています。ここでは、若年層における音楽接触事情を解説します。

スマートフォンの出現で加速する音楽業界の変化

当社が運営するMMD研究所では、スマートフォンユーザーを中心に、インターネットやモバイル端末、IoT製品の発展により変化する消費者の意識や行動、市場動向を調査・分析し、結果を発表しています。こうした調査を基に、現在の日本の若年層と音楽との接し方について解説します。

日本レコード協会が発表している2016年のCDの生産実績は1748億7300万円で、これは2007年の3271億7500万円の約半分となっています(「生産実績 過去10年間 オーディオレコード CD合計」より)。デジタル音源などダウンロードコンテンツの売上を加味しても「音源」への課金は減っており、日本人の「音楽離れ」が囁かれています。

欧米では、CD売上減少の代わりにストリーミングサービスが好調ですが、日本でのスマートフォンユーザーの音楽ストリーミングサービスの利用者は2015年10月7.5%から2017年4月が9.1%と1.6ポイントの伸びで、欧米に比べると伸びが少ない印象を受けます(「2015年10月/2017年3月スマートフォンでの音楽視聴に関する調査」 出典元:MMD研究所 対象者:スマートフォン利用者)。

スマートフォンの出現で可処分時間の選択肢が増えたことや、YouTubeや無料音楽アプリなどの出現でお金をかけずに音楽を楽しめるようになったことで、特にスマートフォンを使いこなす若年層の「音楽離れ」や「音楽サービスへの課金の減少」が危惧されています。果たして「若年層」は「音楽」から離れていっているのでしょうか。当社で最近実施した音楽に関する調査をいくつかご紹介しながら若年層の音楽聴取の動きについて見ていければと思います。

若年層におけるスマートフォンでの音楽視聴事情

当社が2017年4月に発表した「2017年3月スマートフォンでの音楽視聴に関する調査」(対象者:スマートフォンを所有する15~39歳の男女1671人)では、スマートフォンで週に1回以上音楽を聴く10代は93.0%と全体平均の79.7%を1割以上引き離す結果となりました。

10代のスマートフォンでの音楽の聴き方(図表1)を詳しく見ていくと、「YouTubeなどの動画サイトで聴いている」が最も多く63.7%、次いで「無料音楽配信サービスまたはアプリから聴いている」が42.7%となり、無料音源を聴いている10代が多いことがわかります。

図表1 スマートフォンで音楽を聴く方法

10代の音楽を聴取する頻度は高く、「若年層の音楽離れ」はこの調査から否定できますが、やはり無料音源に流れ、音楽にお金を使っていないのでは、という懸念は残ります。

しかし、2017年9月に発表した「年代別音楽に関する意識調査」(対象者:15~59歳の男女1万695名)では、半年以内に何らかの音楽商品・サービスへの支払い経験がある10代は56.0%となり、全世代で最も高い結果となりました(図表2)。

図表2 半年以内に音楽商品・サービスにお金を支払った有料ユーザーの割合(年代別)

これらの結果から、10代の音楽への関心は強く、無料で音楽を聴いていると同時に、音楽に対してお金を払っている10代が多く存在していることがわかりました。

ちなみに、半年以内にお金を払った音楽商品・サービスの10代のトップ3は「CD(28.5 %)」「ライブ(24.8%)」「アーティストグッズ(24.1%)」でした。全体平均は「CD(22.4%)」「ライブ(14.5%)」、「アーティストグッズ(9.7%)」となり、「ライブ・コンサート」「アーティストグッズ」が全体平均を大きく上回っています(図表3)。

図表3 半年以内にお金を支払った音楽商品・サービス(全体と10代の比較)

コンサートプロモーターズ協会が発表している「ライブ市場調査」によると、ライブの売上は2007年が1040億6400万円から2016年が3100億7800万円と約3倍に拡大しており、これは2007年から2016年までで減ったCDの売上高を超えています。

音楽業界が注目するのは「体験」 CDを買う理由にも変化の兆し

最近の音楽業界では、ライブ・コンサート、そしてフェスが稼ぎ頭のコンテンツだと言われていますが、これはインターネットの広がりが関連しているのではないでしょうか。ライブ映像を気軽にインターネット上で見られるようになったおかげで、映像の中のような雰囲気を味わいたい「体験」を求めるユーザーが増加します。

そして体験したユーザーがさらにInstagramやTwitterなどSNSで状況をシェアすることで、さらにそこに行きたいユーザーが増えていく。これまでライブやフェスなどは一部のコアな音楽ファンのものでしたが、特にフェスなどでは、「雰囲気を楽しみたい」「思い出をつくりたい」「楽しんでいる自分をシェアしたい」という理由で行く人たちが増えているように感じます。

CDはと言うと、国内でのCD売上高は減っています。しかし世界で見ると、日本の特異な事情が見えてきます。「アメリカ18%、日本73%、イギリス32%」。この数値は音楽売上のうちのパッケージ売上が占めている割合です(IFPI「Global Music Report 2017」音楽売上トップ20の収入シェアより引用)。ちなみに、パッケージの割合が2番目に高いドイツでもその割合は52%なので、他国と比べ日本のCD売上の割合がどれだけ高いかがお分かりになるかと思います。

先ほどご紹介した調査でも、半年以内でお金を使った音楽商品・サービスで最も多いのは全世代でCD購入となっており、いまだにCDは人気です。CDを購入した理由を聞いたデータでは、「好きなアーティストの作品はCDで持っておきたい」「好きな楽曲はCDで持っておきたい」が全世代でトップになっており、「モノ」を持っておきたいというコレクター気質な日本人の性質が垣間見えます。

ただ、全体平均と最も差のあった10代のCD購入理由として「CD購入特典のイベント参加券が魅力的だった(全体8.2%、10代23.3%)」があります。これはとても日本的な理由であるなと思うと同時に、この戦略が世界と比べ、パッケージの売上高の割合を高く保ち続けている理由なのでしょう。現在はCDに握手券などのイベント参加券や特典などを付けるのが通常ですが、今後デジタル音源購入の際にもイベント参加券が付属されることが増えていけば、10代のCD購入の割合は上がることが予想されます(図表4)。

図表4 CDを購入する理由(全体と10代の比較)

テクノロジーの進化がもたらす音楽接触手法の可能性

そういえば、最近レコードの販売台数が徐々に増えているらしいのです。意外にも若年層が「レトロでおしゃれ」「インテリアとしてジャケットが映える」などという理由で購入者が増えているということです。

レコードと同じように、これからもCDはなくなることはなく、収集のための「モノ」として残り続けるでしょう。先ほどご紹介したCDの購入理由の上位結果からも見て取れるように、「音源」としての重要性よりも「ジャケット」や「歌詞カード」「特典」など他の部分が重要視されています。「音源」としては、現状国内では利用率が伸び悩んでいるストリーミングサービスの利用者がスマートスピーカーの出現により増加することが期待されています。

今年10月に当社が行った「スマートフォンの音声入力及び、スマートスピーカーに関する調査」(対象者:15~69歳の男女2155人)では、10代のスマートスピーカーへの興味度合いは全世代で最も高い結果となり、「音源」を聴く方法も10代から変化していくことが示唆されます。

インターネットの台頭により、音楽に対してお金を払わなくなっても気軽に音源や映像を楽しめるようになりました。その結果「モノ消費」中心であった音楽は「コト消費」に移り変わりつつあります。今後もさらにライブやフェスなど「コト消費」は広がりを見せるでしょう。新しいテクノロジーと掛け合わせた音楽体験も期待できます。

当社のVR調査では、10代が期待するVRのイベントや企画として、「音楽を楽しめるイベント」が「映画、アニメの世界に入り込めるイベント」「アトラクションに乗って楽しむゲームイベント」に次ぎ3位に入っていました。そのような新しい体験も若年層を中心に広まっていくことでしょう。

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