10年後「AIに取られる」仕事ランキング

■人生100年時代に夢が持てないあなたへ

「人生100年時代」と聞いて、「AI(人工知能)が発達してもっと便利になったら時間ができるようになるし、何をしようかな」と前向きになれる人がどれくらいいるだろうか。消費税が上がっても給料がアップするわけでもないうえに、世の中の技術はどんどん進歩する。「AIを使いこなせる人間になるなんて無理」「後輩も責任も増えたのに、若さも体力もない。どれだけモチベーションを維持して働き続けられるか」などと後ろ向きに考えてしまう人のほうが多いのではないだろうか。

グラフは「ミドルの転職」サイトを運営するエン・ジャパンが行った、181人の転職コンサルタントへのアンケート結果だ。今後AIに代替されると予想する職種として、「経理・財務・会計系」「秘書・アシスタント・一般事務系」という答えが40%を超えた。数値化やパターン化しやすい領域の職種からなくなっていくと考えるコンサルタントが多いようだ。

アンケート結果は想定の範囲内だが、人ごとではない。自分の仕事は将来的にみて安全なのか。もっと働きやすい職場があるのではないか。もし転職をするとしたら、いつが狙い目なのか。日本有数のプロヘッドハンターで、日本の転職事情を長年見続けてきた、半蔵門パートナーズの武元康明さんを訪ねた。

■いまの私の仕事、転職は必要ですか?

まず、AIに代替される仕事についてのアンケート結果を見せたところ、武元さんから返ってきたのは、意外な言葉だった。

「確かに機械化したほうが合理的な職種はたくさんありますし、パターン化できる事務職などは代替されるでしょう。しかし、日本の人口のピークは2008年。そこから減少していますから、今後ますます国内の労働人口は減り続けます。減ったぶんの労働力をAIや、業務を機械化することで賄うとしたら、仕事が失われることはないのではないか、と私は考えています」

事務系を中心に、AIや機械に代替されると予想される職種に就いていたとしても、多くの日本企業の場合は簡単にリストラされるわけではなく、どこか別の部署への異動などで雇用は保証される可能性が高い。また、働き手が少なくなるため、企業側は従業員が働きやすい環境をつくって退職者を減らし、終身雇用や各種制度に力を入れていくようになるというのだ。

「ある大手商社で退職者が増えたのですが、退職者が皆ベンチャー企業に転職してしまったことがありました。なぜ食い止められなかったのかを考え、働きやすくする制度に改善したところ退職者が減った、という事例もあります」

■外資系や金融系など転職が必要な職種も

まさかの「会社が守ってくれる」説に驚いたが、この考え方が通じるのは、日本企業に多く見られる「内部労働市場型」の職場の場合で、「外部労働市場型」の外資系や金融・IT系企業にはあてはまらない。

イラスト=ヤマグチカヨ

「内部労働市場とは、新卒でも中途入社の社員でも、スパイラル状にいろいろな部署に配属して経験を積ませることにより、少しずつ昇進・昇格を図る方法です。社長の選出も内部から行います」

つまり、新卒入社して定年まで同じ会社で働くような、昔ながらの日本企業の在り方がそれ。長く会社に勤めてもらえるよう、集団のなかで人を育てる「母性文化」を持っているから、簡単にリストラをしない、というのだ。一方、欧米に多く見られる外部労働市場の場合、各職種、階層ごとに、欠員が出たらそこに直接人員を補充する方法をとっている。

「個を優先する『父性文化』ですから、社内で経験を積むための異動(キャリアパス)は存在しないため、転職を重ねて自らキャリアアップを図っていく必要があります」

■ある日、トップが代わる日が来たら?

では、自分は日本的な企業に勤めているから将来絶対安泰なのか、といえばそうでもないという。

「近年は大企業で、いくつかの企業を渡り歩いて経営を任されてきた『プロ経営者』に社長が代わるということも多いですよね。また、買収や合併なども増えてきました。そうなったとき、経営者のマネジメント方法によって、培ってきたカルチャー(風土やマネジメントスタイルなど)ががらりと変わってしまうことがあります」

つまり、自分の意見に右へならえと社員に強制するトップダウン型なのか、トップの理想をマネジメント層が把握し、部下にそれを実現化できるように働きかけるミドル・アップダウン型なのか、現場社員の裁量権が強いボトムアップ型なのか、トップのマネジメント方法によって重宝される人材が変わるため、カルチャーが変わるのだ。

「転職は、より給料や待遇がいい会社に移るときにするものとイメージされるかもしれませんが、日本では『カルチャーが変わってしまった』『やりたいことがやれなくなった』からというケースが多いのです」

いまよりも報酬アップを期待して転職する場合は、外資系企業や外部労働市場型を導入しているIT系などへの転職が向くが、自身が望んでいないのなら、無理に動くことはなく、現状維持でいい、というのが武元さんの考え方だ。

「安定して長く働かないと、家庭のプランも立てられません。住宅ローンを払えるのか、子どもを育てていけるのか。雇用の安定は日本ならではの文化ですから」

■その日のためにできることはある?

そうはいっても、転職の転機は来るかもしれない。そのためにいまやっておくべきことはないのだろうか。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/visualspace)

「人と企業のマッチングがうまくいくかは、その人のタイプと企業のカルチャーが合っているかにかかっています。転職先を探す際は、『自分を振り返ること』と『転職先企業のカルチャーを調べること』はしたほうがいいでしょう」

その具体的な方法が、振り返りシートだ。

「1のように、自分の性格や価値観、どんなことが嫌いかなどをどんどん書き出していきます。シートの問い以外でも、自分を振り返るきっかけになりそうな過去の出来事を思い出すままに書き出してください。それを2の10個のカテゴリーに分類します。⑨までが自分の内面(OS)で、⑩が技術やスキル(AP)です」

転職の際、履歴書などに書くAPを重視しがちだが、むしろ自分のOSと企業のカルチャーが合っているかがマッチングの決め手なのだという。

■異文化跳躍力を鍛えてみる

「もう1つ、今日からでもできることがあります。それは『自分自身の自尊心を高めること』『他者軽視感を減らすこと』『異文化跳躍力を付けること』です」

「異文化跳躍力」とは、どこでも周囲とうまくやっていくことができる力のこと。これを付けるには、「つねに相手の関心に関心を示せるか」。

「世界的に見ても日本人は自尊心が低い国民で、承認欲求が高い傾向にあります。社内でも『私はこんなにがんばっているのに、上司に評価されていない。私は〇〇さんのように社交的でないし、上司もきっと私のことは扱いにくいと思っている』などと不満や不安を抱えている人もいるのではないでしょうか。あなたがそう感じ、上司から褒められたらうれしいように、相手に関心を寄せたら、相手は承認欲求が満たされ、うれしく感じます。その積み重ねで、結果として相手への軽視感が減り、異文化跳躍力が身に付き、ひいてはあなたの自尊心が高まるのです」

例えば社内で苦手だなと思っている相手に「大切にしているものってなんですか」など、関心を寄せた質問をして話をしてみる。そうしていくうちに視野が広がり、さまざまな人のいいところや努力に目を配れる人間になるという。

「男女や好き嫌いで判断せず、部下の持つ細かな能力に気づく力は女性のほうが秀でていると思います。女性の転職先として、BtoCで女性をターゲットにした商品を出している企業は狙いやすいと思いますが、最近は異業種転職でうまくいくケースも多いです。ご自身とその企業のカルチャーが合っているかは、自分のOSと合っているかどうかの見比べのほか、働いている人に話を聞いて判断するのが一番です。コネクションをつくって、複数人に聞いて判断しましょう」

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武元康明(たけもと・やすあき)
半蔵門パートナーズ代表
日系、外資系と双方の航空業界を経て、人材業界へ転身。21年間の人材サーチキャリア、2万人を超えるインタビューの実績を持つトップヘッドハンター。著書に『30代からの「異業種」転職 成功の極意』(河出書房新社)、『会社の壁を超えて評価される条件』(徳間書店)ほか。

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